幽霊事務局長の穏やかな日常=大病院の平和は下っぱ事務員と霊が守ります=

藤島紫

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元患者と病院スタッフの日常1

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「そっかー。ゆーと君って言うのか。お母さんと一緒に病院に来たんだね。それで、お母さんが診察を受けてる間、こっそり抜け出してきたと」

 男の子が言っていたことはおおよそ分かった。確認のためにまとめると、男の子――ゆーと君はコクンとうなずく。
 表情が硬いのは、緊張しているせいだろう。
 悪い人じゃなさそうだと分かってくれたようだが、怒られると思っているのかもしれない――と、思いたい。
 少なくとも、私の背後にある強烈に真剣すぎる視線に怯えている訳ではないと信じたいのだが、ゆーと君は先程からチラチラと私の背後をみてはビクッとなる。
 場所は院内のカフェ、中庭に面したカウンター席だ。
 クロネコは堂々とカウンターに座っている。 せめてこのクロネコが子供にも見えたら和むのだろうが、どうやら見えないらしい。
 カウンター席に私を挟んで3人、横並びに座っている。左側にゆーと君、右側に桐生さんだ。つまり、ゆーと君の方を向いていると桐生さんの視線が私の背中に刺さることになる。
 あー、ゆーと君の態度で、桐生さんが今、どう言う顔をしているのか分かるぞ。
 こわくないからな?
 桐生さん、いい人だからそんなに怖がらないでやってくれよ。
 最初にそう言ったのだが、あまり効果はなかった。
 危うく通報されそうなところを、首から下げた職員証を見せて救ってくれた桐生さんだったが、いきなり目の前に飛び降りてきたインパクトがデカすぎたのかもしれない。
 うーん。
 いくらなんでも、傷つくんじゃないか、桐生さん。この前も子供に泣かれたし。
 ちらりと桐生さんを見ると、睨みつけるような顔でこちらをみている。真剣になればなるほど、顔が怖くなってしまうのは分かるが、もう少し、緩めておこうぜ。
 笑顔が大事だ、笑顔が。
 振り返ってニッと笑いかけると、桐生さんは少し驚いたようだったが、戸惑ってもいた。自分の顔がまた怖くなっていることに気づいたせいだろう。
 まずは、気付くことが大事だからな。
 つぎに、子供の方に向く。
 はーい、ゆーとくん、笑って笑ってー、オニーサン、怖くないですよー。

「病院から抜け出してきてたんじゃあ、驚いただろー。オニーサンたちが追いかけてきて。病院の人だって分かって、怒られると思ったかな?」
「うん」
「そっかー。どっちかというとお母さんが心配してるかもなあ。一人で病院の周りうろうろしてたら危ないからね。救急車やパトカーが大急ぎで走ってくることもあるんだよ」
「きゅーきゅーしゃ? ぱとかー?!」

 はいそこ、目をキラキラさせない。
 サイレン鳴らしてる車かっこいいとか、おもっただろ。
 そういうのが好きな男の子っているよなぁ……と笑みがこぼれる。
 私の息子も生きていたらこのくらいだ。こんな風に救急隊をかっこいいと思ったりしたのだろうか。だとしたら、父親がただの事務員でガッカリされるかもしれないな。
 そんなことが頭の片隅をよぎったせいで、オニーサンなんて言うのは少しばかり恥ずかしいのだが、桐生さんもいるのにおじさん達と言うわけにもいかない。

「小さい子供は植え込みのせいで見えないから、車から見えづらいし、子供からも車や自転車が見えないだろう? ゆーと君がちゃんと歩いてても、向こうから突っ込んでくることもあるから気を付けような」
「しってるよ。それでクルマとぶつかって、にゅーいんしたから」
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