40 / 72
元患者と病院スタッフの日常1
しおりを挟む
「そっかー。ゆーと君って言うのか。お母さんと一緒に病院に来たんだね。それで、お母さんが診察を受けてる間、こっそり抜け出してきたと」
男の子が言っていたことはおおよそ分かった。確認のためにまとめると、男の子――ゆーと君はコクンとうなずく。
表情が硬いのは、緊張しているせいだろう。
悪い人じゃなさそうだと分かってくれたようだが、怒られると思っているのかもしれない――と、思いたい。
少なくとも、私の背後にある強烈に真剣すぎる視線に怯えている訳ではないと信じたいのだが、ゆーと君は先程からチラチラと私の背後をみてはビクッとなる。
場所は院内のカフェ、中庭に面したカウンター席だ。
クロネコは堂々とカウンターに座っている。 せめてこのクロネコが子供にも見えたら和むのだろうが、どうやら見えないらしい。
カウンター席に私を挟んで3人、横並びに座っている。左側にゆーと君、右側に桐生さんだ。つまり、ゆーと君の方を向いていると桐生さんの視線が私の背中に刺さることになる。
あー、ゆーと君の態度で、桐生さんが今、どう言う顔をしているのか分かるぞ。
こわくないからな?
桐生さん、いい人だからそんなに怖がらないでやってくれよ。
最初にそう言ったのだが、あまり効果はなかった。
危うく通報されそうなところを、首から下げた職員証を見せて救ってくれた桐生さんだったが、いきなり目の前に飛び降りてきたインパクトがデカすぎたのかもしれない。
うーん。
いくらなんでも、傷つくんじゃないか、桐生さん。この前も子供に泣かれたし。
ちらりと桐生さんを見ると、睨みつけるような顔でこちらをみている。真剣になればなるほど、顔が怖くなってしまうのは分かるが、もう少し、緩めておこうぜ。
笑顔が大事だ、笑顔が。
振り返ってニッと笑いかけると、桐生さんは少し驚いたようだったが、戸惑ってもいた。自分の顔がまた怖くなっていることに気づいたせいだろう。
まずは、気付くことが大事だからな。
つぎに、子供の方に向く。
はーい、ゆーとくん、笑って笑ってー、オニーサン、怖くないですよー。
「病院から抜け出してきてたんじゃあ、驚いただろー。オニーサンたちが追いかけてきて。病院の人だって分かって、怒られると思ったかな?」
「うん」
「そっかー。どっちかというとお母さんが心配してるかもなあ。一人で病院の周りうろうろしてたら危ないからね。救急車やパトカーが大急ぎで走ってくることもあるんだよ」
「きゅーきゅーしゃ? ぱとかー?!」
はいそこ、目をキラキラさせない。
サイレン鳴らしてる車かっこいいとか、おもっただろ。
そういうのが好きな男の子っているよなぁ……と笑みがこぼれる。
私の息子も生きていたらこのくらいだ。こんな風に救急隊をかっこいいと思ったりしたのだろうか。だとしたら、父親がただの事務員でガッカリされるかもしれないな。
そんなことが頭の片隅をよぎったせいで、オニーサンなんて言うのは少しばかり恥ずかしいのだが、桐生さんもいるのにおじさん達と言うわけにもいかない。
「小さい子供は植え込みのせいで見えないから、車から見えづらいし、子供からも車や自転車が見えないだろう? ゆーと君がちゃんと歩いてても、向こうから突っ込んでくることもあるから気を付けような」
「しってるよ。それでクルマとぶつかって、にゅーいんしたから」
男の子が言っていたことはおおよそ分かった。確認のためにまとめると、男の子――ゆーと君はコクンとうなずく。
表情が硬いのは、緊張しているせいだろう。
悪い人じゃなさそうだと分かってくれたようだが、怒られると思っているのかもしれない――と、思いたい。
少なくとも、私の背後にある強烈に真剣すぎる視線に怯えている訳ではないと信じたいのだが、ゆーと君は先程からチラチラと私の背後をみてはビクッとなる。
場所は院内のカフェ、中庭に面したカウンター席だ。
クロネコは堂々とカウンターに座っている。 せめてこのクロネコが子供にも見えたら和むのだろうが、どうやら見えないらしい。
カウンター席に私を挟んで3人、横並びに座っている。左側にゆーと君、右側に桐生さんだ。つまり、ゆーと君の方を向いていると桐生さんの視線が私の背中に刺さることになる。
あー、ゆーと君の態度で、桐生さんが今、どう言う顔をしているのか分かるぞ。
こわくないからな?
桐生さん、いい人だからそんなに怖がらないでやってくれよ。
最初にそう言ったのだが、あまり効果はなかった。
危うく通報されそうなところを、首から下げた職員証を見せて救ってくれた桐生さんだったが、いきなり目の前に飛び降りてきたインパクトがデカすぎたのかもしれない。
うーん。
いくらなんでも、傷つくんじゃないか、桐生さん。この前も子供に泣かれたし。
ちらりと桐生さんを見ると、睨みつけるような顔でこちらをみている。真剣になればなるほど、顔が怖くなってしまうのは分かるが、もう少し、緩めておこうぜ。
笑顔が大事だ、笑顔が。
振り返ってニッと笑いかけると、桐生さんは少し驚いたようだったが、戸惑ってもいた。自分の顔がまた怖くなっていることに気づいたせいだろう。
まずは、気付くことが大事だからな。
つぎに、子供の方に向く。
はーい、ゆーとくん、笑って笑ってー、オニーサン、怖くないですよー。
「病院から抜け出してきてたんじゃあ、驚いただろー。オニーサンたちが追いかけてきて。病院の人だって分かって、怒られると思ったかな?」
「うん」
「そっかー。どっちかというとお母さんが心配してるかもなあ。一人で病院の周りうろうろしてたら危ないからね。救急車やパトカーが大急ぎで走ってくることもあるんだよ」
「きゅーきゅーしゃ? ぱとかー?!」
はいそこ、目をキラキラさせない。
サイレン鳴らしてる車かっこいいとか、おもっただろ。
そういうのが好きな男の子っているよなぁ……と笑みがこぼれる。
私の息子も生きていたらこのくらいだ。こんな風に救急隊をかっこいいと思ったりしたのだろうか。だとしたら、父親がただの事務員でガッカリされるかもしれないな。
そんなことが頭の片隅をよぎったせいで、オニーサンなんて言うのは少しばかり恥ずかしいのだが、桐生さんもいるのにおじさん達と言うわけにもいかない。
「小さい子供は植え込みのせいで見えないから、車から見えづらいし、子供からも車や自転車が見えないだろう? ゆーと君がちゃんと歩いてても、向こうから突っ込んでくることもあるから気を付けような」
「しってるよ。それでクルマとぶつかって、にゅーいんしたから」
0
あなたにおすすめの小説
熱い風の果てへ
朝陽ゆりね
ライト文芸
沙良は母が遺した絵を求めてエジプトにやってきた。
カルナック神殿で一服中に池に落ちてしまう。
必死で泳いで這い上がるが、なんだか周囲の様子がおかしい。
そこで出会った青年は自らの名をラムセスと名乗る。
まさか――
そのまさかは的中する。
ここは第18王朝末期の古代エジプトだった。
※本作はすでに販売終了した作品を改稿したものです。
橘若頭と怖がり姫
真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。
その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。
高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
ヤクザに医官はおりません
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした
会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。
シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。
無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。
反社会組織の集まりか!
ヤ◯ザに見初められたら逃げられない?
勘違いから始まる異文化交流のお話です。
※もちろんフィクションです。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜
桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。
上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。
「私も……私も交配したい」
太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる