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元患者と病院スタッフの日常2
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「……くるま……車とぶつかったのか」
「うん。きゅーきゅーしゃのったよ。ぱとかーもきたよ」
一瞬、体の内側が冷え込んだ。
だが、それは本当に一瞬のことだ。私はしっかりと笑った。
怖い顔をして子供を怖がらせてはいけない。
「そっかー。それはたいへんだったなあ。痛かった?」
「うん。だから、もうぶつからないよ」
「よかった。お母さんが悲しむから、さっきみたく急に走り出したりするのはやめような。あ、でも本当に危険な人がきたときには逃げるんだそ」
「うん」
ゆーと君が頷く。
緊張している様子ではあるが、少し落ち着いてきたようにも感じた。
さて、そろそろ折り紙のことを切り出したいところだが、病院職員としてはこの子の母親に連絡をしておく必要がある。
子供と一緒に正面玄関から入ってきたときに、受付にいた師長に話をしておいたから大丈夫だとは思うが、万が一、誘拐犯にされては困るからだ。
「友利さん……」
桐生さんが耳打ちをしてきた。
「少々、外します」
「え」
「師長にはお声がけをしてありますが、わたしからも直接、親御さんにお話をしてきます。それと店が食べかけのパスタを預かっていてくれているので、それも回収します」
ああ、そういうことか。驚いた。
私たちの食べかけのパスタは、カフェのスタッフさんがラップをかけて取っておいてくれているらしい。席にそのまま置きっ放しでは衛生上心配とのことだ。お気遣い痛み入ります。
「わるい。ありがとな。店の人に悪いから、ついでに何か……焼き菓子とか買っておくか」
「そうですね」
桐生さんは快く了承してくれ、カウンターに向かった。
ゆーと君は桐生さんが離席したことで少しホッとしたらしい。
どうにも桐生さんの本気の真面目顔は怖すぎるようだ。
「ところで、ゆーとくん」
ポケットから一つのカエルを取り出した。
「これ、ゆーと君が作ったやつかな?」
桐生さんから預かった折り紙のカエルを置く。
これは先日、桐生さんがとってきた、窓の外側におかれていたものだ。
「あ……! なんでここにあんの? おばあちゃんのなのに! とった?」
「お兄さんたちは、どろぼうじゃないぞ」
「じゃあなんでもってるんだよ」
「病院の人だからだよ」
「えー?!」
いやいや、そこに置いたからって自動的に届くものじゃないからな?
本気で不思議そうにしている子供に、苦笑いしてしまう。
置かれるたびに桐生さんが回収していたのだが、子供にはそんなことは分からない。なくなっているのだから病院の誰かが届けてくれたか、犬飼さんが持って行ったと思ったに違いない。
犬飼さんにこの折り紙は届かない。
私はこの子に、それを伝えなければならない。
いつまでもカエルの折り紙を置かれても困るからだ。
人はいつか『死』を知る。
それがもたらす別れの意味と、感情を知る。
だが、私はそれをこの子に教えようとは思っていない。
それは、個人情報の問題や、犬飼さんの希望があったからではない。
死がどういうものなのか、この子がまだ知らないのなら、知る時を少しでも先延ばしにしたいからだ。
たとえそれが、私のエゴだったとしても。
「実は、ゆーと君と同じように、犬飼さんに折り紙を届けたい人がいっぱいいるんだよ。だけど、犬飼さん、退院しちゃったんだ」
「うん。きゅーきゅーしゃのったよ。ぱとかーもきたよ」
一瞬、体の内側が冷え込んだ。
だが、それは本当に一瞬のことだ。私はしっかりと笑った。
怖い顔をして子供を怖がらせてはいけない。
「そっかー。それはたいへんだったなあ。痛かった?」
「うん。だから、もうぶつからないよ」
「よかった。お母さんが悲しむから、さっきみたく急に走り出したりするのはやめような。あ、でも本当に危険な人がきたときには逃げるんだそ」
「うん」
ゆーと君が頷く。
緊張している様子ではあるが、少し落ち着いてきたようにも感じた。
さて、そろそろ折り紙のことを切り出したいところだが、病院職員としてはこの子の母親に連絡をしておく必要がある。
子供と一緒に正面玄関から入ってきたときに、受付にいた師長に話をしておいたから大丈夫だとは思うが、万が一、誘拐犯にされては困るからだ。
「友利さん……」
桐生さんが耳打ちをしてきた。
「少々、外します」
「え」
「師長にはお声がけをしてありますが、わたしからも直接、親御さんにお話をしてきます。それと店が食べかけのパスタを預かっていてくれているので、それも回収します」
ああ、そういうことか。驚いた。
私たちの食べかけのパスタは、カフェのスタッフさんがラップをかけて取っておいてくれているらしい。席にそのまま置きっ放しでは衛生上心配とのことだ。お気遣い痛み入ります。
「わるい。ありがとな。店の人に悪いから、ついでに何か……焼き菓子とか買っておくか」
「そうですね」
桐生さんは快く了承してくれ、カウンターに向かった。
ゆーと君は桐生さんが離席したことで少しホッとしたらしい。
どうにも桐生さんの本気の真面目顔は怖すぎるようだ。
「ところで、ゆーとくん」
ポケットから一つのカエルを取り出した。
「これ、ゆーと君が作ったやつかな?」
桐生さんから預かった折り紙のカエルを置く。
これは先日、桐生さんがとってきた、窓の外側におかれていたものだ。
「あ……! なんでここにあんの? おばあちゃんのなのに! とった?」
「お兄さんたちは、どろぼうじゃないぞ」
「じゃあなんでもってるんだよ」
「病院の人だからだよ」
「えー?!」
いやいや、そこに置いたからって自動的に届くものじゃないからな?
本気で不思議そうにしている子供に、苦笑いしてしまう。
置かれるたびに桐生さんが回収していたのだが、子供にはそんなことは分からない。なくなっているのだから病院の誰かが届けてくれたか、犬飼さんが持って行ったと思ったに違いない。
犬飼さんにこの折り紙は届かない。
私はこの子に、それを伝えなければならない。
いつまでもカエルの折り紙を置かれても困るからだ。
人はいつか『死』を知る。
それがもたらす別れの意味と、感情を知る。
だが、私はそれをこの子に教えようとは思っていない。
それは、個人情報の問題や、犬飼さんの希望があったからではない。
死がどういうものなのか、この子がまだ知らないのなら、知る時を少しでも先延ばしにしたいからだ。
たとえそれが、私のエゴだったとしても。
「実は、ゆーと君と同じように、犬飼さんに折り紙を届けたい人がいっぱいいるんだよ。だけど、犬飼さん、退院しちゃったんだ」
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