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元患者と病院スタッフの日常5
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「えっと……あの……あのっ! お……オレのまえにとびおりてきたの、かっこよかった!」
ゆーと君は桐生さんを見上げて言うと、再び緊張した顔になる。
うん、まあな。
私の飛び降り方は、さぞかし不格好だったことだろう。
それに引き換え、桐生さんの着地は華麗だったに違いない。
そういえば、追いかけるときに言っていたではないか。
障害物走は得意だったと。
そんな桐生さんの着地が不格好になるとは思えない。
「お褒めの言葉をいただき、恐縮です」
そして、子供の誉め言葉に対する桐生さんの反応も非常に安定していた。
トレーを席に置いた桐生さんは、ゆーと君の前にしゃがんだ。目の高さが子供と同じだ。
「失礼ながら、先ほどのお話し、少々伺ってしまいました。わたしからも三つ、お伝えしなければならないことがあります」
「う……うん」
「一つ目。返事は『うん』よりも『はい』の方が好ましいと思われます」
「うん……えっと……はい」
私と話していた時は、リラックスして座っていたゆーと君が、いきなり背筋を伸ばした。
それにしても桐生さん、子供に対しても言葉遣いが全く変わらない。
だからだろうか。
ゆーと君は真剣な顔で話を聞こうとしている。
「二つ目。立ち入り禁止と書かれたところに入ってはいけません。そう書かれるには理由があります。例えば、なにもなさそうでも、中庭には花の種や球根が植えてあります。もちろん、院内には危険だから立ち入りを禁止している個所もあります。自分の勝手な思い込みで『大丈夫』と思わないようにしてください」
「……はーい」
「伸ばさない方が好印象につながります。短く答えるよう、努めることをお勧めします」
「はい」
「そして、三つ目。これまで貴方が作ってこられた折り紙のカエルは、全てわたしたちが保管しています。他の皆様方が作られたものと合わせ、犬飼さんにお届けします。ご安心ください」
「ほんと?」
「はい。それに付随して、犬飼さんはご退院されていますから、もう、折り紙は不要です。友利さんのいう通り、親御さんの傍について居て差し上げてください」
大人と同じように自分を扱ってくれていることが嬉しいのかもしれない。
ゆーと君は真剣な顔でうなずいた。
「はい」
「では、チョコラテをどうぞ。温かいうちに召し上がってください」
「はい」
ゆーと君は硬い顔のまま両手でカップを覗き込み――しかしラテアートを見てほわっと嬉しそうな顔をしたかと思うとゆっくりと口をつけた。
子供向けの飲みやすい温度で作ってあったのだろう。こくこくと一気に半分も飲んでしまうと、ぷはっとカップを置いた。
よほどうまかったらしい。
「すみません、ご迷惑をおかけしました」
ゆーと君がカップをカウンターに置くよりも先に、声をかけられた。
振り向くと、大きなバッグを持った女性が立っている。
「おかーさん!」
ゆーと君のお母さんのようだ。
慌てて立ち上がり、事の次第を説明しようとしたが「申し訳ございませんでした」と先に謝られてしまった。
「先ほどは考えなしに、大丈夫と言ってしまったんですが……飲み物の代金、お支払いします」
慌てたように財布を探す姿を見て、一瞬きょとんとしてしまった私だが、ようやく合点がいった。
先ほど桐生さんは「親御さんから確認が取れました」と言っていたではないか。
私がゆーと君と話している間、桐生さんは母親とコンタクトをとっていたのだろう。
桐生さんは自分が勝手にやったことだから代金は受け取れないと断り――というか、受け取りを拒否した。
最初は渋っていた母親も、断固とした桐生さんの態度に財布をしまって、ゆーと君と手をつないで帰っていった。
カフェを出て正面玄関を出てから、バス停に至るまでの間に中庭越しにカフェのカウンター前を通る。
親子は中庭の向こう側からこちらに向かって手を振ってくれた。
ゆーと君は桐生さんを見上げて言うと、再び緊張した顔になる。
うん、まあな。
私の飛び降り方は、さぞかし不格好だったことだろう。
それに引き換え、桐生さんの着地は華麗だったに違いない。
そういえば、追いかけるときに言っていたではないか。
障害物走は得意だったと。
そんな桐生さんの着地が不格好になるとは思えない。
「お褒めの言葉をいただき、恐縮です」
そして、子供の誉め言葉に対する桐生さんの反応も非常に安定していた。
トレーを席に置いた桐生さんは、ゆーと君の前にしゃがんだ。目の高さが子供と同じだ。
「失礼ながら、先ほどのお話し、少々伺ってしまいました。わたしからも三つ、お伝えしなければならないことがあります」
「う……うん」
「一つ目。返事は『うん』よりも『はい』の方が好ましいと思われます」
「うん……えっと……はい」
私と話していた時は、リラックスして座っていたゆーと君が、いきなり背筋を伸ばした。
それにしても桐生さん、子供に対しても言葉遣いが全く変わらない。
だからだろうか。
ゆーと君は真剣な顔で話を聞こうとしている。
「二つ目。立ち入り禁止と書かれたところに入ってはいけません。そう書かれるには理由があります。例えば、なにもなさそうでも、中庭には花の種や球根が植えてあります。もちろん、院内には危険だから立ち入りを禁止している個所もあります。自分の勝手な思い込みで『大丈夫』と思わないようにしてください」
「……はーい」
「伸ばさない方が好印象につながります。短く答えるよう、努めることをお勧めします」
「はい」
「そして、三つ目。これまで貴方が作ってこられた折り紙のカエルは、全てわたしたちが保管しています。他の皆様方が作られたものと合わせ、犬飼さんにお届けします。ご安心ください」
「ほんと?」
「はい。それに付随して、犬飼さんはご退院されていますから、もう、折り紙は不要です。友利さんのいう通り、親御さんの傍について居て差し上げてください」
大人と同じように自分を扱ってくれていることが嬉しいのかもしれない。
ゆーと君は真剣な顔でうなずいた。
「はい」
「では、チョコラテをどうぞ。温かいうちに召し上がってください」
「はい」
ゆーと君は硬い顔のまま両手でカップを覗き込み――しかしラテアートを見てほわっと嬉しそうな顔をしたかと思うとゆっくりと口をつけた。
子供向けの飲みやすい温度で作ってあったのだろう。こくこくと一気に半分も飲んでしまうと、ぷはっとカップを置いた。
よほどうまかったらしい。
「すみません、ご迷惑をおかけしました」
ゆーと君がカップをカウンターに置くよりも先に、声をかけられた。
振り向くと、大きなバッグを持った女性が立っている。
「おかーさん!」
ゆーと君のお母さんのようだ。
慌てて立ち上がり、事の次第を説明しようとしたが「申し訳ございませんでした」と先に謝られてしまった。
「先ほどは考えなしに、大丈夫と言ってしまったんですが……飲み物の代金、お支払いします」
慌てたように財布を探す姿を見て、一瞬きょとんとしてしまった私だが、ようやく合点がいった。
先ほど桐生さんは「親御さんから確認が取れました」と言っていたではないか。
私がゆーと君と話している間、桐生さんは母親とコンタクトをとっていたのだろう。
桐生さんは自分が勝手にやったことだから代金は受け取れないと断り――というか、受け取りを拒否した。
最初は渋っていた母親も、断固とした桐生さんの態度に財布をしまって、ゆーと君と手をつないで帰っていった。
カフェを出て正面玄関を出てから、バス停に至るまでの間に中庭越しにカフェのカウンター前を通る。
親子は中庭の向こう側からこちらに向かって手を振ってくれた。
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