幽霊事務局長の穏やかな日常=大病院の平和は下っぱ事務員と霊が守ります=

藤島紫

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ランチタイムありふれた日常1

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「ところでさ、よくこの短時間にゆーと君のお母さんとコンタクトが取れたな。お母さん、診察だったんだろ?」

 女性が診察を受けに来た、子供を待合に残す、という事から、婦人科の患者ではないかと思った。
 さすがに婦人科の診察室に子供は連れていけない。
 ほかの診療科なら連れていけそうだが、婦人科ばかりはなあと思っていると、桐生さんは驚くことを言った。

「いいえ。NICUです」

 NICUは日本語では新生児集中治療室という。
 つまり、生まれたばかりの子供のための集中治療室だ。
 予定より早く生まれた小さな子供のための保育器がいくつも並び、何人もの医師や看護師、抱っこボランティアの元看護師たちが24時間詰めている。
 医療現場では最も過酷な最前線と言ってもいい。
 抱っこボランティアは、ボランティアと言っても私が担当するものとは分野が違う。引退した看護師らが来るので、それを管轄しているのは看護部だ。
 看護部も、大先輩たちが相手なのでNICUのボランティアの皆様方にはけして逆らわないし、実のところ、ドクターよりもはるかに経験と知識があるのでボランティアをしていただいていることが申し訳ないくらいだ。
 どうしてそこにいると思ったのだろう。

「あ、そうか。師長に聞いたの?」

 師長にはゆーと君のことを話してある。
 ならば、師長はゆーと君のことを保護者に伝えるために調べているはずだ。と思ったのだが、桐生さんは首を降った。

「師長からは何も伺っていません。ただの勘です」

 桐生さんの辞書に「勘」なんて言葉があったことがびっくりだ。
 いいや、理論武装の桐生さんのことだ。絶対何かある。

「んじゃあさ。その勘でいいから。ちょっと説明してくれよ」
「理屈としては、非常に根拠が弱いのですが……」

 と前置きしてから、桐生さんは説明を始めた。

「毎日のように病院に来ているという事と、子供から目を離している時間が長いことからそう判断しました。よろしいでしょうか」

 よくねえよ。

「ごめん。わかんないんだけど」
「外来診察の待ち時間が長いことは友利さんもご存知かと思います」
「まあな。うちみたいな大病院は待ち時間をいかに短くするかが課題でもあるからな。そもそも、これを解消するためってのもあって、選定療養費を設けてたりするわけだし」

 あまりにも混雑してしまうと、重症患者を受け入れられなかったり、本来助けられたはずの命を助けることができなくなってしまう。
 一人でも多くの人の痛みと苦しみを軽減させる為の措置が地域連携ではあるのだが、それもなかなかうまく進んでいないのが現状だ。
 何しろ、うちは公立の病院だから、選定療養費が最低ラインだし、それを払えば受診ができるので、紹介状なしの飛び込みが後を絶たない。
 ゆーと君のお母さんは毎日のように通院しているなら、予約をしているはずだが、その予約も、飛込患者のせいで遅れが生じてしまう。
 30分刻みでシステムが稼働するため、その枠内でしか、予約患者は優先されないためだ。
 飛込患者が10時から10時半の間に受付を済ませたとする。10時に予約していた患者がその中では優先され最初に診察を受けることができるが、次に飛込患者が診察を受けることになる。
 予定外の診察のために10時半を過ぎてしまう。この連鎖が最終的には3時間ほどの待ち時間に繋がることもある。

「んで。その待ち時間がどうしたって?」

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