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救急外来の日常4
しおりを挟む「近くの中学の体育館で事故があって、80名以上の負傷者が出た」
「80名以上……」
「マジで?」
深刻な顔をしている桐生さんの隣で、素っ頓狂な声を上げてしまい慌てて「それは難しいのではないでしょうか」と言葉を改める。常々、言葉遣いは怒られているのだが、今回は指摘する余裕がないのか、ただ、うなずくだけだった。
それにしても負傷者80人以上。この病院だけでまかなえる数じゃない。
「近隣医療機関も受け入れはしてくださっていますよね」
「桐生のいう通りだ。殆どは軽傷のようだが、学校内の事故だからな……」
「保護者の方々も心配でしょうし、学校側も十分な治療や検査を求めますね」
「うちはMRIやCTが必要になりそうな患者だけ受け入れることにしたらしいが……それでも20名近くなりそうだ」
まてまてまて。そんな数を受け入れたら、うちはパンクする。
ドクターの数にも限りがあるし、それ以上にMRIは磁力が強いものと弱いもの1台ずつしかない。CTだって3台だ。日頃から予約でいっぱいなのに、そこにそんなにも大勢の患者を受け入れるとなると、検査技師は夜中まで勤務することになる。
そもそも、既に入っている予約も1日も早い検査が必要な患者が多いのだ。
「どのような事故だったのですか」
尋ねる桐生さんの声も硬い。
「さっき、地震があっただろ」
大した揺れではなかったはずだ。
まさかそれで建物が倒壊したなどと言うことがあったのだろうか。
「ちょうど、体育館で集会をやってるときだったらしい。屋根の一部が崩れて落ちてきたようだ」
「それって、下敷きになった生徒が大勢いたってことですか」
いてもたってもいられずに尋ねると、課長は首を降った。
「ボロボロ落ちてきたって話だが、下敷きになるような大きいものじゃなかったみたいだ。殆どの怪我は、パニックになった生徒たちが逃げ出そうとしてその時に負った怪我らしい」
という事は、念のために検査をしておきたいという患者が殆どという事か。
学校だからな。
「救急の受付がパンク状態だ。友利、そっちの整理に行ってくれ。桐生は窓口を担当してる委託業者向けに、今回のマスコミ対応マニュアルの作成。それが終わったら友利のサポートに行け」
うなずくとともに、私たちはすぐに動き出した。
桐生さんは席に向かい、私は部屋を出る。
ところが、庶務課を出て2メートルも進まないうちに、後ろから課長が追いかけてきた。
「友利」
振り向くと、いきなり課長が頭を下げてきた。
「え……な、なんですか」
「娘が通っている学校なんだ」
目を見開く。
少し薄くなりかけている課長の頭頂部をこんなに間近で見たことはない。
「先ほどの情報は、学校から伝わってきたものだ。学校側は大けがをした生徒はいない、と言っているが責任を負いたくなくて事実よりも小さく伝えているかもしれない」
ああ、そうか。
不安だよな、そりゃ。
「心配、ですよね」
だが、立場上、動けないし、感情を表に出せないのだろう。
私は静かに微笑んだ。
「なにかわかったら、お伝えします」
「……だが、他の家族も同じ気持ちのはずだ」
公私混同は良くない。
今、課長は狭間で揺れ動いているのだろう。その気持ちはよくわかる。
「ご家族の方々に、偏りなく、ちゃんとお伝えします」
「たのむ」
任せてください。
私は頷いて救急外来に急いだ
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