幽霊事務局長の穏やかな日常=大病院の平和は下っぱ事務員と霊が守ります=

藤島紫

文字の大きさ
57 / 72

ヒラ事務員の切ない日常 4

しおりを挟む



 講堂での説明はスムーズに進み、ほとんど質問もなく終わった。
 これから治療を受ける側としては病院と良好な関係を結びたいと思うからなのか、事務員を相手にしても意味がないと思ったのかは分からない。

「それとも……やっぱり、一刻も早く、苦しんでいる家族のそばにいてやりたいって気持ちの方が強いのかな」

 講堂の片付けをしながら、つい、そんなことを考えてしまった。
 マイクなどを専用の棚にしまう。
 よし、これであらかた片付いたな。

「桐生さーん、こっち片付いたから電気消しちゃっていいよ」
「はい」

 壇上から飛び降りると、桐生さんが公道の奥の方から電気を消していく。
 大きく開いた扉から入り込んでくる廊下の明かりだけを頼りに通路に出ると、桐生さんが鍵を閉めた。

「重症患者はいないとのことですが、それでもやはり、ご家族は心配なさるでしょう。今は必要最低限の事務手続きを済ませて早く患者のそばに行きたいというのが本音でしょうね」
「なんだ、聞こえてたんだ」
「人がいない講堂は音が響きますから」
「そっか」

 事故で家族が運ばれたという話を聞くと、どうしても失ったもの痛感してしまう。

「こういう時さ。事務員ってつらいなあって思うよ。何にもできねえなぁって」
「そうでしょうか」
「なんかできんの?」
「できますよ。患者様が安心して治療に臨めるよう、またその家族の方の精神的負担が少しでも軽減されるよう、不安材料を取り除く事はできます。先ほどの説明会もその一つです。高額な検査を受けても医療費がかからないと言われて安心した方もいらっしゃった筈です」

 桐生さんのいうこともわかる。
 私たちのやっている事は無駄ではないと分かっていても本当に役に立ててるのか確認したくなることもある。
 まだ下っ端でできることが少ないからそう思うのかもしれない。

「あっ! いたいた!」

 唐突に、明るく元気すぎる声が響いた。

「桐生君、友利君!」

 師長が手を振りながらかけてくる。

「師長、廊下を走るのはーー」

 桐生さんが言い終わるより先に「あなたたちね!」と、師長に怖い顔をされてしまった。

「聞いたわよ! ケガ人のくせに走り回ったんだって? 肩の骨折ってたり、頭縫ってるのに暴れてるんじゃないわよ!! こっちの仕事増やして!!」
「えっと……」
「失礼ですが、それはどこから得た情報でしょうか?」
「桐生君、誤魔化そうったってそうはいかないからね! 監視室から!ビデオカメラでしっかり撮影されてるんだから! 言い訳はナシ。この忙しい時に余計な話は聞いてられないからね。黙って検査を受けること!!」

 こっそりと桐生さんと目を合わせる。
 これはおとなしく患者になっていた方が良さそうだ。
しおりを挟む
感想 48

あなたにおすすめの小説

妻への最後の手紙

中七七三
ライト文芸
生きることに疲れた夫が妻へ送った最後の手紙の話。

熱い風の果てへ

朝陽ゆりね
ライト文芸
沙良は母が遺した絵を求めてエジプトにやってきた。 カルナック神殿で一服中に池に落ちてしまう。 必死で泳いで這い上がるが、なんだか周囲の様子がおかしい。 そこで出会った青年は自らの名をラムセスと名乗る。 まさか―― そのまさかは的中する。 ここは第18王朝末期の古代エジプトだった。 ※本作はすでに販売終了した作品を改稿したものです。

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ヤクザに医官はおりません

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした 会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。 シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。 無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。 反社会組織の集まりか! ヤ◯ザに見初められたら逃げられない? 勘違いから始まる異文化交流のお話です。 ※もちろんフィクションです。 小説家になろう、カクヨムに投稿しています。

触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜

桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。 上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。 「私も……私も交配したい」 太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。

処理中です...