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ヒラ事務員の切ない日常 4
しおりを挟む講堂での説明はスムーズに進み、ほとんど質問もなく終わった。
これから治療を受ける側としては病院と良好な関係を結びたいと思うからなのか、事務員を相手にしても意味がないと思ったのかは分からない。
「それとも……やっぱり、一刻も早く、苦しんでいる家族のそばにいてやりたいって気持ちの方が強いのかな」
講堂の片付けをしながら、つい、そんなことを考えてしまった。
マイクなどを専用の棚にしまう。
よし、これであらかた片付いたな。
「桐生さーん、こっち片付いたから電気消しちゃっていいよ」
「はい」
壇上から飛び降りると、桐生さんが公道の奥の方から電気を消していく。
大きく開いた扉から入り込んでくる廊下の明かりだけを頼りに通路に出ると、桐生さんが鍵を閉めた。
「重症患者はいないとのことですが、それでもやはり、ご家族は心配なさるでしょう。今は必要最低限の事務手続きを済ませて早く患者のそばに行きたいというのが本音でしょうね」
「なんだ、聞こえてたんだ」
「人がいない講堂は音が響きますから」
「そっか」
事故で家族が運ばれたという話を聞くと、どうしても失ったもの痛感してしまう。
「こういう時さ。事務員ってつらいなあって思うよ。何にもできねえなぁって」
「そうでしょうか」
「なんかできんの?」
「できますよ。患者様が安心して治療に臨めるよう、またその家族の方の精神的負担が少しでも軽減されるよう、不安材料を取り除く事はできます。先ほどの説明会もその一つです。高額な検査を受けても医療費がかからないと言われて安心した方もいらっしゃった筈です」
桐生さんのいうこともわかる。
私たちのやっている事は無駄ではないと分かっていても本当に役に立ててるのか確認したくなることもある。
まだ下っ端でできることが少ないからそう思うのかもしれない。
「あっ! いたいた!」
唐突に、明るく元気すぎる声が響いた。
「桐生君、友利君!」
師長が手を振りながらかけてくる。
「師長、廊下を走るのはーー」
桐生さんが言い終わるより先に「あなたたちね!」と、師長に怖い顔をされてしまった。
「聞いたわよ! ケガ人のくせに走り回ったんだって? 肩の骨折ってたり、頭縫ってるのに暴れてるんじゃないわよ!! こっちの仕事増やして!!」
「えっと……」
「失礼ですが、それはどこから得た情報でしょうか?」
「桐生君、誤魔化そうったってそうはいかないからね! 監視室から!ビデオカメラでしっかり撮影されてるんだから! 言い訳はナシ。この忙しい時に余計な話は聞いてられないからね。黙って検査を受けること!!」
こっそりと桐生さんと目を合わせる。
これはおとなしく患者になっていた方が良さそうだ。
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