幽霊事務局長の穏やかな日常=大病院の平和は下っぱ事務員と霊が守ります=

藤島紫

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時間外勤務が日常 3

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 私は素直に頷いた。

「私たち医師は、何を伝え、何を伝えずに置くか、常に考えさせられる。知らせることが必ずしもその人のためになるわけじゃないのよ」

 絹井先生が言うこともわかる。
 きっと、それで苦しんだこともたくさんあるに違いない。

「たぶん、他の人たちも同じ判断をするでしょうね。だから、あなたたちは誰にも言わないようにね」

 でも、そうすると時間がかかっちゃうんだよなあ。
 地震はいつ起こるかわからない。
 こっちが次の手を打てずにいる間にドンッとやってきたらおしまいだ。
 そうなったら、たくさんの患者が死ぬ。知っていたはずなのに対策を打たなかった病院は、責任を負うことになる。

「分かりました」

 桐生さんが静かに呟いた。

「確かに、今できることには限りがあります。明日、絹井先生が報告してくださる時には、耐震工事の発注ができるように今夜のうちに用意しておきます」

 は?
 桐生さん、なに言ってんの?
 キョトンとしているのは私だけではない。絹井先生もだ。

「絹井先生が会議で亀裂のことを報告した後に考えられる動きは、先ほど申し上げたとおりです。まずは管理課に連絡がいき、事実確認が行われーー次に補強工事を行うことになるのではないでしょうか」
「え、なんでいきなり工事? 患者の転院とかは?」
「転院の話が出たら、なぜそれが必要なのかを説明しなければなりません。秘密裏に安全を確保するのであれば、耐震工事を行う方が現実的です」

 確かにそのとおりだ。

「そもそも、建物の安全基準が30年前とは違いますから耐震工事をすると言っても誰も不審には思いません。東日本大震災以降、多くの公共の建物には耐震工事が入っています。当院は残念ながら、まだですが……」
「桐生さん、なんでうちはまだなんだよ」
「その予算で医療機器を購入したからです」
「まじか」
「ごめんなさいね、どうしても必要で」
「え、絹井先生?」

 ちょっと絹井先生、なんてことしてくれてたんですか。
 と思っていたのが伝わったのか、理由を教えてくれた
 なんでも、うちの病院は結果的にとても頑丈な構造になっているのだそうだ。
 ちなみに、災害拠点だから作りが頑丈、とういわけではない。
 放射線や精密機械を取り扱うための特殊な部屋は壁が厚くなる。外部に放射線が漏れないようにするためだったり、外部からの影響を受けないためだったり……と、理由はそれぞれ異なるものの、市役所や学校とは構造が異なるとのことだ。
 そう言う背景があって、耐震工事は最後になってしまったと絹井先生は言っていた。
 ただし、これはちゃんと作られている事が前提にある。
 脆い素材で作られているなら、いくら壁を厚くしようともどこかに歪みが出る。
 その歪みが出たのか、この北階段、と言うわけだ。

「近いうちに耐震工事はする予定だったのですから、それを早めることは比較的容易いのではないでしょうか。少なくとも、責任の所在を明確にして、改めて現在の強度を第三機関に依頼して計測してもらうよりは」
「そんなことできんの?」

 マジか!

「友利さん、わたしが言っているのは、責任の所在を確認して耐震強度を計算するといった、ゼロからの行動と比較して、と言う意味です。実際には、簡単な事ではありません」
「そうなのか……」

 ということは、やはりすぐには動けないと言うことだ。
 そうだよなあ……
 予算の都合もある。

「友利くん、そんなにがっかりすることはないわよ」

 絹井先生が微笑んでいる。

「高校がああ言うことになった以上、こちらも急がなければならないことくらい、誰にでもわかるし、ここで同じことが起きたら、補強工事の予算額なんて可愛い金額じゃない賠償問題なるもの」
「そうですよね」
「それにね、友利くんたちくらいの立場の人だけが言っていたってだけだったら病院側としても知らなかったと言い訳ができるけれど、救命センター長が知ってしまったのに何も手を打たなかったとなると問題よねえ」

 絹井先生からとんでもないことに巻き込んでくれたと怒られても仕方がない。
 クロネコが絹井先生の足元に座っている。
 どうでもいいが、桐生さん視点だとこれってどう見えるのかものすごく気になるぞ。

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