ブラッドゲート〜月は鎖と荊に絡め取られる〜 《軍最強の女軍人は皇帝の偏愛と部下の愛に絡め縛られる》

和刀 蓮葵

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庵は夜神からのプレゼントの手入れセットを大事そうに抱えながら第一室の扉を開ける。

「おはようございます」
「おはよう庵青年。朝から機嫌がいいな?」
「七海中佐、おはようございます。見て下さい。夜神大佐からプレゼントで頂いた物なんです」
庵は桐の箱を七海に見せる。それを見て、七海は無精ひげを撫でて目を細める。
「昨日は一緒だったのか。それは刀の手入れ道具だな?」
「はい。これで澌尽灰滅の手入れが捗ります」
「そうか・・・・ところで、昨日一緒だったんだよな?」
「はい。そうですが何か?」
庵は七海が何を聞きたいのか、何となくだが予想できた。

ゲスな質問だと分かっているが、庵ならきっと答えてくれると信じて、七海は口を開く。
「青年・・・・・使ったのか?」
七海と庵の間で緊張が走る。緊迫した空気がヒリヒリと肌に伝わる。
ゴク・・・・・庵は唾を飲み込む。そして重々しく答える。
「はい。使いました」
「誰のを使ったんだ?」
「野村大尉です。他のはハードルが高すぎて・・・・」
「そうか・・・・・これで一歩大人になったな」
眩しい笑顔で応える七海を、苦笑いで見つめる。
「けど、夜神大佐の今後が少し怖いです」
「・・・・・・ははは、考えるな」
「・・・・・・ははは」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」

沈黙が訪れる。すると、ガチャと扉が開き普段と変わらない夜神が入ってくる。
「おはよう。虎次郎、庵君」
「おはようございます。夜神大佐」
「おはよう、夜神」

普段と変わらない夜神に、庵はなぜか安心する。けど、この部屋には嵐を呼ぶ男がいる。
そして、庵の不安は的中する。
「夜神ぃ~中学生の恋から一歩、大人の階段上がったなぁ~」
「七海中佐っ!!」
みるみる内に夜神の顔が赤くなる。自分以外の人に、あんなに赤くなる事はあるのだろうか?
けど、ここは諌めないと今後の様々なことが大変になる。

「・・・・・道場に行ってくる」
「大佐?」
「行ってくるから!!」
ダッダッダ、バタン!
普段なら考えられない乱暴な音を出して、部屋から出て行く。
「七海中佐・・・・・」
「いやぁ━━、俺の骨は青年に拾ってもらうしかないな」
ハハハッと、乾いた笑いをした七海を、庵は「あ~ぁ・・・」と様々な思いを込めて見るしかなかった。

後日、本当に骨を拾うまではいかなくとも、近いことを七海と庵は体験したのだった。



庵は長谷部中佐と食堂で出会う。
今回の演習国はタイの軍隊で、その指揮者を第二室の長谷部中佐がしている。

『私でも、虎次郎でもなく長谷部中佐が指揮者だから安心なんだね。今回は何もしなくていいから凄く楽!!』

と、夜神大佐が嬉しそうに、嬉しそうに言っていたのを思い出す。
「長谷部中佐、今から昼食ですか?」
「庵伍長か。君もか?」
庵は「高位クラス武器」保持者になり、更には最速で認めてもらい力の解放をした為、階級が「伍長」になった。
これには、長谷部室長の鉄壁の無表情も崩れ落ち、目を見開いて「はぁ?!」と、なってしまったのは第一室の「事件」扱いになっている。

「はい。そう言えば今回の演習の指揮者は、長谷部中佐なんですよね?」
列に二人で並びながら庵は尋ねる。夜神大佐がしているイメージが強かったので、今回の長谷部中佐の指揮者には、ちょっとだけ不思議な感覚がする。

「あぁ、いつもは夜神大佐がしている事が多いが、今回のタイ軍での演習に「レドリット」が組み込まれているからね。あれは、タイ王国軍が生み出した体術で、タイの軍隊も使用しているんだ」
積み上げられたお盆をそれぞれ取りながら進んでいく。
長谷部中佐の今回の指揮者抜擢の理由が何となくだが分かってきた。

「体術は私の分野だからね。それで今回の指揮者を任されたんだよ庵伍長」
「そうなんですね。「レドリット」ですか・・・タイなのでムエタイとか組み込んでいるんですかね?すみません。あんまり分かってなくて・・・・・親子丼大盛りでお願いします」
「A定食でご飯大盛りで・・・構わないさ。けど当たっているよ。ムエタイを組み込んで入るのは間違いない。あとは現地で学ぶといい。本物を直に感じるのはいい経験になるからね」

お盆に刻み海苔を乗せた親子丼が乗せられる。海苔の黒と卵の黄色のコントラストが食欲をそそる。そして、味噌汁に漬物と次々に乗せられて完成する。
「本物ですか。そうですね。直に体験するチャンスですね。しっかり学びたいと思います」

長谷部のお盆には千切りキャベツと、鯵フライとコロッケがそれぞれ二個づつ乗った皿が乗せられ、そこに大盛りご飯と味噌汁、きんぴらごぼうの小鉢が乗り完成する。
「期待してるよ。庵「伍長」では」
長谷部中佐はそう言って、集団で座っているグループの所に向かっていった。

庵も空いている席に座り、昼食をとる。午後からは夜神大佐と久慈学生と自分の三人で剣術稽古が待っている。

七海中佐の一件から、庵に対しても牙むき出しで対応する夜神に立ち向かうためには、食わなくてはいけない。空腹で行ったら速攻で殺られてしまう。冗談抜きで。

はぁ~・・・・・あれは完璧に巻き込み事故だ。七海中佐一人だったら何にも無かったのかもしれない。
・・・・いや、結局は俺から結果を聞いて、話していたら「教えた!!」で風当たりが強くなるのか?

色々と考えた結果、七海中佐が何も言わなければ平和だったのに、ポロッと言ってしまっばっかりに地獄に様変わりした。全て七海中佐が悪い!!俺は巻き添えを食らった!!で落着いた。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

骨を拾う・・・・きっと床と壁と大親友になることでしょう。青年も大変だ。

全ては嵐を呼ぶ男・虎次郎のせいなのか?それとも大人の恋をするために用意した人間達か?それともそれを使用した青年か?
笑うしかないですな
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