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96 流血表現あり

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「なっ!虎次郎!凪!早く逃げろ」
「嵐山大佐、無理です。さっきから夜神に鎖が絡まって動けないんです!」
「どういうことだ!!」
嵐山は地面から飛び出た鎖を避けるように跳んでかわす。

逃げろ!と七海に叫んだが、その場から動かず槍を地面に何度も突き刺していたが、まさかそんな事になっているとは思ってもいなかった。
そしてこの攻撃で更に夜神に巻き付いていき、七海もその攻撃を避けるため夜神との距離をとっていってしまう。
「先生!虎次郎!いい、から、に、げて・・・・」
余りの強すぎる鎖の締め付けで、最後は途切れ途切れでしか話すことしか出来ない夜神を、ルードヴィッヒは唇を歪めていく。そして夜神の体に巻き付いた鎖に、更に力を込めて圧迫を強めていく。
「う、あぁぁ、いっ・・・・・」
締め付けられている部分が、このまま皮膚を食い破って手足が千切れるのではないかと、錯覚するほどの痛みに唸るしか出来ない夜神と、近づこうとするが地面からの攻撃で近づくことも出来ない七海と嵐山を、ルードヴィッヒは薄ら笑いで見ながら夜神の元に近づく。
「くそっ!近づくことも出来ねー。嵐山大佐!」
「虎次郎、相手は皇帝だ。無理をするな!お前だけでも逃げろ!」
嵐山はこのまま共倒れになるなら、少しでも生き延びる確率が高い七海に退避を命じる。
「っざけんな!クソ!────夜神!」
上官の命令と、仲間を救けたい思いと、このままここに居たら共倒れになるなら見捨てていく覚悟と、色々な思いと感情が混ざってしまい叫ぶ。

痛い、苦しい、手足が千切れるのかもしれない。夜神に巻き付いている鎖は少しづつ夜神を締め付けていく。最初は擦れていても気にすることもなく、この絡まりから逃げようと藻搔いたが、徐々に動きを封じるように締めつけられていき、今や動くことも出来ない。

自分の見える範囲では、嵐山と七海が地面から伸びてくる鎖からの攻撃を防ぐだけで精一杯で、夜神の元に来ることも出来ない状況だ。そんな絶望的な状況を楽しんでいるような声が夜神の近くで聞こえてくる。

─────それも真後ろから・・・・・・

「クックク、懐かしいね凪ちゃん。小さい頃を思い出すね。凪ちゃんの村の大人たちもこんな風にして、死んでいったのかなぁ?」
夜神の背中から腰と顎に手を絡めて抱きしめる。
「いやぁ!!や、やめてっ!」
夜神は声を引き攣らせてルードヴィッヒを拒絶する。だが、ルードヴィッヒは悦楽した笑みを浮かべて指をならすと、七海の足に鎖が絡まり、七海は一瞬だけ動きが鈍る。そこに地面から鎖が伸びて七海の肩を穿いていく。
「グッ、卑怯だろうが・・・・・いてぇーよ」
「虎次郎!!離して!」
酷い圧迫と締め付けで体も満足に動かすことも出来ず、身をよじる程度の抵抗しか出来ない夜神を楽しむように、ルードヴィッヒは顎を掴んでいた手で耳を撫でたり、首筋を撫でたりする。
「あぁ、懐かしいね。小さかったからも小さいか・・・・今の凪ちゃんに合う大きさをあげようね」
幼い頃に噛まれた所をなでていた手が顎を掴むと、横にそらされて咬みやすい体勢をつくらされる。そしてもう一度夜神は咬まれる。今度は血を吸われる感覚と痛みと、そこだけが熱を孕んで熱くなる。
それは牙を突き立てられた痛みとともにジワジワとやってくる。
痛みとも違うなにかが・・・・
「なっ、あ、あぁ・・・・・」
いつの間にか赤くなった目を開き、何故か分からないが涙が出てくる。生理的に受け入れられなくて拒絶の為なの、大事な奪われてしまった為かは分からない。

突然、全身の力が抜けていく。全身の鎖の拘束と、皇帝に腰を掴まれていなければ、崩れて地面に伏してしまっていただろう。
「おっと、大丈夫かい?凪ちゃん。力が抜けてしまったのかな?あぁ、綺麗に。良かった。それにしても折角、凪ちゃんに逢えたのに邪魔をする奴らが多いなぁ。消してしまおうか?」
再び顎に手を置いて動かないようにすると、咬まれて血が流れている首筋を、ピチャと音をたてて舐める
「凪っ───!!」
嵐山は地面からの攻撃をかわしながら、皇帝の居るところまで走ってくる。そうして刀の柄を握ると叫ぶ
「抜刀・蒼月!!吼えよ!喰らえ!」
青白い光を放ちながら、虎の姿をした光が嵐山の動きとシンクロして、鋭い爪がルードヴィッヒの額を捉える。

穿いた────!!全員がそう思った。だが、変わりに夜神の顔に温かいものが飛ぶ。目の前の人物が鎖で穿かれ、その血しぶきが、固定されていた顔に躊躇なく降り注いだのだ。腹を、足を、容赦なく穿っていったのだ。
「いゃぁ、いやぁぁぁ────っっ!!先生!先生!!」

顔に飛んだ血の持ち主────嵐山大佐はそのまま地面に倒れていく。
「大佐ぁ────っ!!」
七海は鎖の攻撃を片手でかわしながら、目の前の光景に目を見張った。強くて、憧れでもある大佐が目の前で倒れていくのを。

「先生!先生!離して!離して!離せっ!!」
夜神を縛めいましめていた鎖はいつの間にか外れていたが、代わりにルードヴィッヒの腕が夜神の体を拘束する。その腕から逃げようとするが、ビクリとも動かずにいる。
「あーあ、死んでしまったかなぁ?凪ちゃんの大切な人がまた一人死んじゃったね。私に奪われたね。悔しい?悲しい?殺したい?でも、残念。今のままの凪ちゃんでは勝てないよ?だって弱いもん。是弱なエサと一緒」
「あ、あ、あ・・・・・・・・」
夜神の耳元でルードヴィッヒは法悦した顔で夜神を陥れる言葉を紡ぐ。
あの頃は幼くて理解出来なかったが、大人になって知識をつけると、ルードヴィッヒの言葉は残酷なほど夜神の心臓を抉っていく。
「って、離してと言っている!!」
だが、大人になって身につけたのは知識だけではない。嵐山と軍に教えられたのは相手を、吸血鬼を討伐する力も身につけたのだ。

夜神は懐から銀の簪を取り出す。その簪の挿す部分は何故か鋭い剣になっている。
仕込み簪「月桜つきざくら」夜神が持っているSクラスの武器だか、この存在は軍は知らない。知っているのは嵐山のみなのだ。

その抜身の簪「月桜」を持って振り向く。そして、ルードヴィッヒの右目の辺りを、逆手に持った簪で下から斬り上げる。
「ぐっ・・・・」
わずかに力が緩むのを見逃さず、その腕から逃げるように、強張った全身にムチを打って、立ち上がり、倒れた嵐山の元に向かう。
「先生────っ!!」
「ふっふふふ。中々にやるね~。私に傷をつけるとは。あの時の泣いて駄々を捏ねていた頃と比べたら、ずいぶん成長したね。成長した凪ちゃんに免じてこの場は退散しょうかなぁ?でも次はないからね。どんなに形にせよ、次、会ったら今度は、凪ちゃん自身の奪うからね。それまで大切にしないとダメだからね」

血の流れる右目を押さえつけながら、悦楽の表情を浮かべてルードヴィッヒは、夜神に宣戦布告のような詞を投げつけて、煙幕の中に消えていった。

夜神は血を流して倒れている、嵐山の元に寄り、一番目立つ腹の傷を両手で押さえつけながら、ルードヴィッヒの言葉を聞いていた。そしてルードヴィッヒが煙幕の中に消えていくのを見ると、涙を溢れさせて、嗚咽混じりに叫ぶ。

「先生!血が止まらない。いや、いや、死なないで!死なないで!」
七海も嵐山の元に駆け寄る。
「泣くな・・・・・凪、大丈夫だから。虎次郎・・・・凪を頼む」
「大佐・・・・・」

嵐山は分かっていた。自分に残された時間はないことを。ならば、この危うい場所から大切な隊員と、大切な家族を少しでも安全な所に導くのが最期の役目だと言うことも。
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