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閑話 イタリア共同演習18

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ベルナルディ中佐は笑みが止められなかった。周りからは「あ~おめでとう・・・」とベルナルディ中佐に、祝の言葉を思い浮かべながらも、何やらただならぬ雰囲気のオーラを日本軍の中から感じ取った為、黙って見守ることにした。

禍々しいオーラなど跳ねのける勢いで、ベルナルディ中佐は目当ての人物に一直線で歩いていく。目当ての人物は、もちろん日本軍の夜神凪大佐だ。

『夜神大佐!!』
「げっ・・・今、一番会いたくない人物・・・・」
「心の声が出てるぞ・・・・」
「やっぱり、そうなるんですね」

七海は夜神が呟いた言葉にツッコミを入れ、近くに居た庵はベルナルディ中佐が近づいてくるのを、苦虫を噛み潰したような顔で見る。

『夜神大佐。まさか貴方が三位とは・・・・・何が起こるか分からないものですね』
笑顔で話しかけてくるベルナルディ中佐は、きっと上機嫌だと周りはそのオーラを感じ取る。
例えるならば太陽をサンサンと浴びた向日葵のように。

対して夜神大佐は長谷部室長もびっくりの無表情で、周りが雪山レベルの寒さを感じ取る。何故だか分からないがガタガタと震えてくる。

『何が起こるか分からないのが演習ですからね・・・・私もまだまだですね』
『ご謙遜を・・・・それにしても一位になるのはとても嬉しいですね。夜神大佐は常に一位でしたから、いつもこの様な気持ちだったんですね?味わえて良かったです』
『それは良かったです。用が無いのなら私はこれで失礼します』

話しを切り上げて逃げようとする夜神に、ベルナルディ中佐は「待った」をかける。
『お待ち下さい。我がイタリア軍が日本軍に提示したもの「勝者は相手国の人間を誘って観光」これを、実行したいと思いまして、お恥ずかしながら一位になれましたので、夜神大佐に日本を案内してもらいたいと思いお誘いしました』

例えるなら尻尾をブンブン振っている大型犬の様な感じだろうか?あるはずもない尻尾が見えてくるのは謎だ。
夜神はおかしな方向に思考が行っているのを承知しながらも「やっぱり!!」と嘆いてしまった。

ベルナルディ中佐は自分が「大型犬」に例えられていることなど、露程も知らず言葉を続ける
『前から「京都」に行ってみたかったんですよ。是非とも京都案内をお願いします。「日本」で「京都」・・・・是非、夜神大佐は着物を着て案内して下さい。きっと似合いますよね!!』

「場所」と「服装」の指定をしてくるベルナルディ中佐に、夜神は血管が二・三本切れてしまうのを自覚した。
だが、そこで別の人物かベルナルディ中佐に声をかける。

『ベルナルディ中佐、なかなかコアな指定ですね?』
「有栖川室長?どうしてここに?」
「夜神大佐が三位になったと聞いて急いで来たのよ・・・」
「・・・・・すみません」
夜神は何故ここに関係ない、有栖川室長が居るのか謎だった。

『場所は分かりました。京都は有名ですからね。是非とも日本を堪能して下さい。ですが何故、服装まで指定なのですか?』
『これは手厳しい。やはり行き場所を考えると、合っていると思いまして・・・後は是非とも見てみたい欲が・・・ゴフッ、伝統衣装で伝統的な町並みを案内してもらえれば、良い思い出と立派なレポートが書けると思いましてね。ハッハハ』

間に入るのは本音だろうか?夜神は冷めた目でベルナルディ中佐を見始めた。
その様子を七海と庵、合流した式部で見守る。

ベルナルディ中佐の本音?を聞いた有栖川室長はしばらく考えて、艶やかな笑みを浮かべてベルナルディ中佐を見て、その赤い唇から夜神も目を白黒させる言葉を紡ぐ。
『分かりました。是非とも着物を着た夜神大佐と一緒に京都に行って下さい。日本の美を堪能させましょう!!』
「有栖川室長!?」
『ありがとうございます。有栖川室長!是非とも堪能させて下さい!』

何故か握手をしている有栖川室長とベルナルディ中佐を見て、夜神はここから逃げ出したくなった。
自分の発言など一切無視で話が進められる。

『時間は明後日の九時に正門集合で構いませんよね?』
『大丈夫ですよ。それまでに準備を終わらせますから。安心して下さい』
『ありがとうございます。では、観光を楽しみにしてます』

スキップでもしそうな軽い足取りで、ベルナルディ中佐はイタリア軍の集合場所に帰っていく。
それを見ていた周りの人間はザワつく
「夜神大佐が三位とか・・・・」
「着物とか・・・・」
「まじかぁ~」
「ベルナルディ中佐羨ましい」
「・・・・・なんか、ゾワゾワする」

両軍のザワつきをスルーして夜神は有栖川室長に問いかける。
「有栖川室長、勝手に話しを進めないで下さい。どうして服装まで指定されないといけないんですか?」
「いいじゃない。着物は慣れているでしょう?」
「慣れてますけど・・・・・」
「はい、決まり!さて、式部隊長、演習終了後、野村隊長と一緒に管理人の由紀さんの所に行くから宜しく。忙しくなるから時間に余裕を持って行動するように」

「了~解!夜神大佐諦めてね~。総長が指揮しているから間違いなく、着物で観光案内は決まりよ~」
ニヨニヨと笑っている式部に、この世の終わりのような絶望的な顔を向ける。式部の横では虎次郎が泣きそうなほど、腹を抱えて笑っている。

「が、がんばれ!未来は明るいぞ!あー楽しい」
「夜神大佐、ベルナルディ中佐に日本の美をとくと見せてあげましょう。じゃ、私はこれで~」
ニッコリして有栖川室長は手をヒラヒラさせて帰っていく。

その後ろ姿を無言で見送ると、ため息をする。
何故に本人、丸無視しで話しを進めてまとめていくのか?
私は許可したはずもないのに・・・・・・
けど、総長として話しを進めているのなら、服装は逆らえない。

有栖川室長は、夜神の服装を管理している総長なのだから。逆らったら最後、恐ろしい程の報復行為が待っている。それは避けなければいけない。

「夜神大佐は着物に慣れているのですか?」
庵が疑問を投げかけてくる。有栖川室長の話しを聞いていたのだから、不思議に思うことも出てくるのであろう。

「先生の普段着が着物でね。私も小さい頃から着ていたから慣れてるの。それにしても幾つか持っているのに何故に管理人の由紀さんの所に?」

独身女子寮の数人いる管理人の中でも、異彩の一人が「由紀ゆき」さんである。普段から着物姿で過ごしている。
その為、着物のことなら由紀さんに聞けば大丈夫!と、認識されている人物なのだ。

「きっと持っているのが、じみぃ~な物ばっかりだからじゃないの?」
「でも、紬とか小紋とか色々あるけど・・・・・」
「きっと今風のを求めてるのよ。とりあえず由紀さんに任せとけば大丈夫。着付けは大佐本人がして、ヘヤーメイクは私とあずさがするから安心してね」

式部が笑いながら、提案してくる。流石に着付けまでは出来ないみたいなので、そこは仕方がないが、髪まではするとは思っていなかったので聞き返す。
「髪までするの?それも野村大尉も?そこまでするの?」
「当たり前でしょう?売られた喧嘩は買うまでよ。私達の実力を見せてやる!」

おかしな方向に進んでいるのを、嘆きながら夜神はもう一度聞き返す。
「どうしても着物じゃなきゃだめ?」
「だめ!」
「諦めろ!」

式部と七海に断言されて、夜神はどうでもよくなって空を見上げた。そうするしかこの気持ちを慰める方法が分からなかったからだ。
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