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閑話 イタリア共同演習17

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勝負はすぐにつくとベルナルディ中佐は思っていた。
相手は学生で自分はイタリア軍の中佐として任務をしていき、吸血鬼をこの手で討伐してきた。

だが、庵学生は夜神大佐の指導と精鋭揃いの第一室のメンバーが色々と教えていた学生でもある。
さらに、後期のテストで一位を取ることを目標に夜神と切磋琢磨しているのだ。その力は学生の粋を越えている。

学生だと甘く見ていたベルナルディ中佐は、出だしで躓いてしまったが、経験が軌道修正をしていく。

徐々に庵を押し出していく。幾度目の鍔迫り合いをした時、弾き返えされて庵は、バランスを崩す。

「しまった・・・・」
『終わりだ!』
地面に突き刺さす勢いで、ベルナルディ中佐はレイピアを庵に突き立てようとした時、銃声が聞こえて、うめき声を出してしまう。

『くっ・・・・相澤少佐か!』
ペイント弾とは言え、撃ち込まれるスピードが強いと、それは一種の驚異にもなる。
レイピアを持つ手に命中して、落とすことはなかったが、痛みで動きが止まる。そのすきに、地面に寝転んでいた庵は素早く移動してベルナルディ中佐と距離をとる。

『厄介な事になった・・・・くっ、一時撤退!!動けるものは形振り構わず行け━━!!』
ベルナルディ中佐は声を荒らげて「撤退」の命令をする。

それを聞いたイタリア軍は、学生達と交戦していた手を止めて撤退していく。
「逃がすかー!!」
「前言撤回しろ!学生でも力を合わせればスゲーんだからな!」
学生達は前言撤回を求めて、追いかけようとするがインカムからストップと指示が出た為、動きを止める。

「庵、大丈夫か?」
「大丈夫だよ。相澤少佐に助けられたよ。やっぱ第一室の人達は凄いや・・・・・」
「庵もすげーよ。なんだって夜神大佐の指導についてきてるんだから。先輩達の中には逃げ出した奴もいるんだろう?」

過去にはそんな先輩達もいたのは知っている。何故なら夜神大佐や七海少佐が教えてくれたからだ。
「きっと、先輩達の稽古は、俺の比じゃないぐらい凄かったんだろう?それと比べたらまだまだだよ?」

ベルナルディ中佐が去っていった所を、見つめてため息をする。
過去の指導は知らないが、今でも中々大変だ。けど、それは逆にいい経験をさせてもらっている。それは自分の中で糧になっている。
「ゲーム終了まで後、少しだ。頑張ろうぜ!」

庵は同級生の肩に、軽く拳を打ち付けて互いを鼓舞する。
ゲーム終了までこのまま持ち点を減らすことなく、乗り切ることを願いながら、次の移動ポイントに行くための準備をしていった。

夜神は七海達と行動を開始する。今から行くポイントは日本軍を迎え討つ為に、部隊で移動していると説明を七海からもらい、先程の鬱憤をはらすべく気合をいれる。

その横では「程々で~」と軽い口調で七海が言ってくるが、無視を決め込む。
移動していくと、説明通り部隊でいるのを確認すると、七海の合図で一斉に攻撃を仕掛ける。

刀を抜刀して、肩や腹に次々と攻撃していく。イタリア軍も相手が夜神だと分かると、銃や剣といったものを構えて、容赦なく反撃していくが、それらを躱していく。

その姿は何かを楽しんでいるようにも見える。実際、夜神は広角を少し上げている。
それはこの戦闘を楽しんでいるのか、それともベルナルディ中佐とのやり取りの憂さ晴らしなのか、それは誰も分からないし、もしかしたら夜神本人も分かってないのかもしれない。

その姿を見ていた、七海は心の中で合掌していた。もちろん相手は夜神の天敵のベルナルディ中佐だ。
仲のいい相手が、手酷い目に遭うのは少し悲しいが、今回のやり方は賛成出来ないのが本音だ。
もちろん、相手もそこは分かっていると思う。同じ軍人でも国が違えば考え方も違う。

日本軍は夜神の秘密を徹底的に守りたいが、他国はその秘密を知りたいし、その秘密を使って自分達を優位にさせたいのが本音だろう。

それは軍の上層部だけの話だ。末端の軍人達は優位に立つなど気にしてない。それどころか速くこの驚異を無くすにはどうしたら良いかと考えている。

現に日本軍の上層部は夜神という、カードを持っているせいで胡座をかいている。最強の軍人で、帝國の情報を持ち帰ってきた軍人。
藤堂元帥も頑張って対抗しているが、相手は国なのだ。国の上層部と軍の関係者では力が違いすぎるのだ。

それでもいつかは藤堂元帥の理想とする軍を作るために、七海達親子をはじめ、長谷部室長や各部屋の室長達や、師団長など役職を持っている人間は水面下で争っている。

七海はいつもの癖の、無精ひげを撫でて互いの軍の動きを見る。今の所は夜神が頑張ってくれているせいか、日本軍が優位になっている。
そろそろ移動して、本命のベルナルディ中佐を叩くことを視野に入れて、夜神に声をかける。

「夜神!!そろそろ移動するぞ。次は本命を叩く!付いて来いよ」
「本命?分かったよ」
今ここでベルナルディ中佐の名前を出したら、きっと何かあるのは間違いないと、分かっていたので言わなかった。名前は追々伝えればいいと判断したからだ。

・・・・・・・・・

空に、打ち上げ花火の音が聞こえる。長かったサバイバルゲームは終わり、夜神は一安心する。
結果を聞きたくないのが本音ではある。最初のベルナルディ中佐との戦闘で色々と攻撃を食らい、二回目の戦闘では気をつけていたがそれでもだ。

だが、それはベルナルディ中佐も同じ事が言えるだろう。今回のサバイバルゲームもある意味、中佐との因縁の対決のような気がしてくる。因縁はないがそれ以外の言葉が見つからない。
夜神は空を見てため息をした。

全軍が集まり、結果を今か今かと待ちわびる。その顔はそれぞれで、楽しみにしている者、悔しがっている者、魂が抜けた者様々だ。

「夜神大佐は大丈夫でしたか?」
庵は珍しく疲れている夜神に声をかける。滅多に疲れた表情を見せない夜神が、そんな表情をするのは珍しいのだ。
「庵君・・・・・聞いたよ。凄い活躍したんだってね?頑張ってたんだね。嬉しいな・・・・私は、今回の結果はちょっと聞きたくないかなぁーと思ってね。なんか嫌な予感しかないの」

珍しく弱気な発言の夜神に、少し驚いたが、夜神が負けることなど考えられない庵は、笑って答える。
「大丈夫です。夜神大佐は強いから・・・・・どうやら結果が出たみたいです」

『今回のサバイバルゲームの、持ち点の高かった者順位三位まで発表する。一位は・・・・・・えっ?えーと、イタリア軍、カルロ・ベルナルディ中佐、二位は日本軍、七海虎次郎少佐、三位は日本軍、夜神凪大佐━━━━以上三名だ。結果は結果だが、我々は同じ敵を討伐する者同士。何か合ったら共闘して戦う仲間でもある。それを忘れないように』

日本軍の上層部の一人が結果を伝えて去っていく。
それを最後まで見届けて、一斉に辺りがザワつく。それもそうだろう。常に一位を死守していた夜神大佐が三位だったのだ。これには誰もがザワつくのは仕方がないことだ。

それを見ていた夜神は深い深いため息をした。これから起こるであろう、血管が二・三本ブチ切れる、やり取りを考えてしまったのだから。
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