【R18】娼館に堕ちた伯爵令嬢は、かつての婚約者を快楽で縛り、愛の名を告げずに去る

いろは杏⛄️

文字の大きさ
3 / 8

快楽という罠 前編

しおりを挟む
 夜の帳が落ちると、王都の片隅でまたひとつ、官能の灯がともる。

 ル・デザイール。
 上流貴族のみが足を踏み入れることを許された、絶対秘匿の娼館。
 その最奥、月明かりさえ届かぬ特別室に、彼女はまた、仮面をつけて座っていた。

 黒百合。
 名も知られぬその女は、ただ一夜のうちに男の心と身体を奪い、二度と戻れぬ檻へと閉じ込める。
 妖しく、甘く、そして冷たい。まるで毒を湛えた薔薇のように――

「また、いらしてくださると思っていましたわ」

 リリアナは静かにそう言って、立ち上がる。
 その動き一つひとつが、しなやかで、男の目に絡みつくような艶を持っていた。

 ソファに腰掛ける男は、あの日と同じ。
 セオドア=クラウス。
 ――けれど彼は、その女の正体に気づかない。
 仮面に隠された本性に、一切の疑いを持つことなく、再びこの娼館を訪れた。

 彼の視線は、彼女の胸元へ、喉元へ、そして脚線へと静かに這っていた。

 言葉にはしない。
 だが、瞳が物語っている。

「おまえを求めている」と。

(いいわ。その欲望を……どこまでも深く沈めてあげる)

 リリアナはゆっくりと彼に近づいた。
 レースのガウンが音もなく滑り、肌が露わになっていく。
 喉元から胸元、腹部、そして腰へと続く曲線美は、まるで彫刻のように滑らかで、艶めいていた。

 彼女はセオドアの前に膝をつき、その太腿に手を添える。
 いつでも脱がせられる位置に、優しく、だが確実に。

「……前回の夜、私のことを思い出してくれましたか?」

 仮面の奥から落ちる声は、微笑のように甘く、問いかけのように優しい。
 セオドアはかすかに瞬き、そして口を閉ざしたまま、頷く。

 リリアナは笑みを深める。
 男が答えられないときこそ、心が揺れている証だから。

 そのまま、彼の肩に手をかけ、ゆっくりとソファに押し倒した。

 男の瞳が揺れる。
 命令されることに慣れていない男が、自ら体勢を委ねる――その一瞬の隙。
 リリアナは、そこに甘やかな勝利を見出す。

「今日は、少し……新しいことを試しても、よろしいかしら?」

 返答を待たず、リリアナは細い帯紐を取り出した。
 濃紺の絹。肌に触れればひやりと冷たく、けれど徐々に体温で馴染んでいく感触。

 彼女はそれを、そっとセオドアの目元に巻いた。
 嫌がらない。むしろ、息が深くなっていく。

(ふふ。貴方……思ったより、素直なのね)

 視界を奪われた男の身体は、より敏感になる。
 音、匂い、息遣い、そして触れる手の温度すべてが――快楽を倍化させるのだ。

 そのまま、リリアナは指先を滑らせる。
 喉、胸、腹部へと、くすぐるように。
 指でなぞるだけで、セオドアの身体が小さく震える。

「こんなに、もう……昂ぶっているのね」

 布越しに膨らみ始めた中心部へ、彼女の手が触れる。
 さすったり、押し上げたり、わざと焦らすように撫でるたび、彼の吐息が喉の奥でくぐもる。

 そして、リリアナは耳元で囁いた。

「もっと感じたいと思ったら、素直に……ね?」

 その声音は、甘く、媚びず、優しくも支配的だった。
 男に許可を与えるのではない。
 選択肢を奪いながら、服従を甘く提示する――それが、黒百合の流儀だった。

 その夜。
 セオドアは自分の心と身体が、何か得体の知れない渦に呑まれはじめていることに、まだ気づいていなかった。


     * * *


 濃紺の絹の布が、セオドアの視界を塞いでいた。

 その下で、彼の瞳はかすかに揺れている。
 普段、政務の場で無数の視線を浴び、誰にも支配されることなく命令を下してきた男。
 その彼が、今はこうして、たった一人の女に委ねている。

 不安、羞恥、期待、欲望――それらすべてが混じり合って、彼の胸の奥をざわつかせていた。

 リリアナは、そのざわめきを敏感に察していた。

 まるで音楽のように、男の感情が肌を通して伝わってくる。
 指先を少し這わせるだけで、どこに震えが走るのか。
 どの言葉で、呼吸が浅くなるのか。
 そして――どの部位が、どれほど、欲望に従順なのか。

「貴方……声を我慢するのが、苦手なのね」

 囁くようにそう言って、リリアナは彼のシャツを胸元まで開いた。
 繊細な布地の合間から覗く、引き締まった筋肉と、薄い皮膚の下に走る血管。
 そこに、そっと舌先を這わせる。

「……あ、っ……」

 反応は、すぐにあった。
 セオドアの喉が震え、喉奥から漏れるような声がもれた。

「我慢なんて、しなくてもいいのに。ねえ……」

 彼女の舌が胸元から下腹部へと滑り降りるたびに、セオドアの身体がぴくぴくと痙攣する。

 リリアナの手が、彼の下腹部へと到達する。
 布越しに熱を感じたその場所を、指先でそっと撫でた。
 少しずつ、焦らすように。
 強くもなく、弱くもなく、絶妙な圧で、輪郭をなぞる。

「こんなに、張ってるのに……」

 リリアナは、まるで子供を慰めるような声音で言う。
 その甘さが、かえって支配の濃度を増していた。

「可哀想ね。触れてほしいんでしょう?」

「……っ、ああ……っ」

 喉を詰まらせるような声がもれた瞬間、リリアナの手がふっと離れる。

「――まだ、ダメ」

 セオドアの身体が小さく跳ねた。
 予期された快楽が、寸前で断ち切られる。そのじれったさが、逆に彼の欲望を際立たせる。

 リリアナは、彼のズボンを脱がせ、ゆっくりと手に取った。

 熱い。脈打っている。
 先端からわずかに滴る透明な蜜が、指先を濡らす。

 それを舌先で舐めとり、彼の耳元に囁く。

「我慢してたのね……可愛い」

 セオドアの呼吸が荒くなる。
 仮面の奥で、リリアナの瞳がわずかに細まった。

(ああ、堕ちていく。快楽に。私に。何もかも……)

 だが、ただの性技では終わらせない。
 これは復讐。
 かつてすべてを奪われた女の、緻密で、冷静で、残酷な報復なのだ。

「ねえ、教えて?」

 唇を彼の腹筋に押し当てながら、囁くように問いかける。

「どんな女を抱いても、満たされなかったんでしょう? 誰も、貴方を本当に悦ばせられなかった。でも、私は違う。貴方の全部を知っているから……」

 セオドアの背筋がぞくりと震える。

(知らないはずなのに。なのに、なぜこんなにも……)

 脳裏に、かつての婚約者――リリアナの面影がふとよぎる。
 優しく微笑みながら、彼の前で紅茶を淹れていた日々。
 しかし、そのイメージはすぐにかき消される。

 目の前にいるのは、淫らで、支配的で、抗えぬ魅力を持った女。
 同じであるはずがない。
 けれど、その仕草の一つひとつが――どこか、懐かしい。

「……誰、なんだ……君は……」

 かすれた問いかけに、リリアナは笑った。
 甘く、艶やかで、すべてを見透かすような声で。

「貴方を悦ばせるために、生まれてきた女よ」

 その一言が、彼の残った理性をすべて打ち砕いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件

水月
恋愛
「君を愛するつもりはない」 結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。 出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。 愛を期待されないのなら、失望させることもない。 契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。 ただ「役に立ちたい」という一心だった。 ――その瞬間。 冷酷騎士の情緒が崩壊した。 「君は、自分の価値を分かっていない」 開始一分で愛さない宣言は撤回。 無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。 以後、 寝室は強制統合 常時抱っこ移動 一秒ごとに更新される溺愛 妻を傷つける者には容赦なし宣言 甘さ過多、独占欲過剰、愛情暴走中。 さらにはリーリアを取り戻そうとする実家の横槍まで入り――? 自己評価ゼロの健気令嬢と愛が一分も我慢できなかった最強騎士。 溺愛が止まらない、契約結婚から始まる甘すぎる逆転ラブコメ

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】六歳下の幼馴染に溺れた夫。白い結婚を理由に離縁を申し立てたら、義弟(溺愛)に全力で求婚されました

恋せよ恋
恋愛
夫が愛でるのは、守ってあげたくなるような「可憐な少女」。 夫が疎むのは、正論で自分を追い詰める「完璧な妻」。 「シンシア、君はしっかりしているから、大丈夫だろう?」 六歳年下の幼馴染ジェニファー子爵令嬢を気遣う貴方。 私たちは、新婚初夜さえ済ませていないのよ? 完璧な家政、完璧な社交。私が支えてきたこの家から、 ニコラス、貴方って私がいなくなったらどうなるか……。 考えたこともないのかしら? 義弟シモンは、学生時代の先輩でもあるシンシアを慕い 兄ニコラスの態度と、幼馴染ジェニファーを嫌悪する。 泣いて縋るあざとい少女と、救世主気取りの愚かな夫。 そして、義姉であるシンシアを慕うシモン。 これは、誇り高き伯爵夫人、シンシアの物語である。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに

有賀冬馬
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。 選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。 地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。 失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。 「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」 彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。 そして、私は彼の正妃として王都へ……

処理中です...