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「助けてやろうか?」
「は……?」
「俺がお前の代わりに借金を肩代わりしてやろうかと言っている」


 突然現れた男の信じられない発言。それに慌てたのはわたしだけじゃない。

「ちょ、ちょっと。いくら御堂組の若頭といえど、この女が背負っている借金は五千万すよ!」
「それくらいの金は現金で用意している。お前らもいつまでも金が回収できなかったら困るだろう。ここは余計な詮索はせずに、さっさと金を受け取っておく方が利口じゃねぇか?」

 男が持っていたアタッシュケースの中を開ける。その中には札束が並べており、二人もその事実に驚いている。
 先に立ち直ったのはスキンヘッドの男だ。彼は「確かめても?」と許可を取り、現金に触れる。やがてその枚数がきっちり合っているのだと知ると金髪の男を引きずって、慌ただしくこの場を去っていく。
 残されたのはわたしは、怒涛の展開が信じらず、半ば放心状態だ。


「ほら、行くぞ」

 腰を抱かれたまま、階段を降りる。アパートの前にはいかにも高級そうな黒塗りの車が運転手付きで停まっており、彼はわたしを乗せて、車を出すように命令する。
 走り出す車の中で、ようやく我に返る。

「あの、どちらに……?」
「行きゃ分かる。それより俺がどうしてお前の借金を肩代わりしたか分かるか?」
「……分かりません」
「まぁ、仕方ねぇか」


 ぼそりと小さく呟いた言葉を聞き逃す。しかし男はそれ以上、何も語る気はないらしい。

 沈黙が車内を支配し、この先どうなるのか分からない不安から、身体を震わせる。それに気付いた男は自分の上着を脱ぎ、わたしに羽織らせた。
 ふわりと鼻を擽ったのは煙草と香水が絡んだ香り。わたしが着ることでダボついたスーツは先程まで男が着ていたこともあり、彼の体温がまだ残っていて、不快ではない温かさが背中を包む。

「あ、ありがとうございます」
「ヤクザにお礼とは随分と礼儀正しいもんだ」
「……優しさにお礼を言うのは当然のことです」


 男の皮肉に乗せられてつい言い返す。
 しかし男はそっぽを向いて、無言のまま窓を見やった。
 短い沈黙の後。わたし達を乗せていた車は目的地に到着したようで、静かに止まる。

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