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しおりを挟むきっと今日は長い一日となる。
そんな予感がした。
あれからどうしても男と顔を合わせたくなくて、朝のホームルームが始まる時間のギリギリまで図書室に籠っていた。本音を言えば、このまま家に帰って今日一日くらいサボってしまいたかった。
だって本当に持てる力の全てでこのテストに挑んだ。
それがこうもあっさりと負けたとなると悔しくてどうもやりきれない気持ちになってくる。
しかし、このままでは狙っていた皆勤賞が獲れなくなる。体調が悪いわけでもないのに、そんなもったいないことは出来ない。貰えるものはなんだって貰っておく。それがわたしのポリシーだ。
貧乏性に逆らうことが出来ず、結局わたしはサボることなく億劫な気持ちなままトボトボと肩を落として教室に向かう。
(皆、もう結果見ているんだろうなぁ)
そりゃそうだ。賭けのことを宣言してあったのだ。きっと皆面白がって見ていることだろう。
憂鬱な気持ちで教室の扉を開けるとクラスメイトが一斉にこちらを振り向く。
「あー! いいんちょー、やっと来たの? おはよ。今日からよろしくね!」
ホームルームが始まる直前だったからか皆席に座っている。そんな中、彼だけが立ち上がりわたしに声を掛けるものだから目立ってしょうがない。
思わず強ばる足をなんとか動かして、自分の席まで歩く。最悪なことに、わたしと彼の席は教室の隅の前後にある。だからこの後も話しかけられるのだろうなと思うと頭が痛くなってくる。
「……もう先生が来るだろうから前を向いたら?」
「えー。だって委員長が来るのが遅かったからじゃん。俺、早く『彼女』がやってこないか楽しみにしてたんだよ?」
教室内がやけにシンと静まりかえっているのは、わたし達の会話を聞いているからだろう。というよりは注目されているのを知っていて、彼がわざと聞かせているに過ぎない。
(本当に性格悪いわね)
これはいわば見せしめだ。証拠にニタニタと笑う彼の瞳はちっとも笑ってなくて歪であった。
「『彼氏』なら彼女を困らせないで」
賭けに負けたのは、わたしだ。
結果が分かった直後は混乱したが図書室に籠っている間に気分を落ち着かせた。
真剣勝負において、わたしは負けて男はただ勝っただけだ。
だから今更、役目を放棄しようとは思わない。
みくびるなよと男を真っ直ぐに見つめると男はきょとりと目を丸くする。
「……そうだね。俺はいいんちょーの彼氏だもんね。分かった。言う事聞くよ」
珍しくあっさりとわたしの言う通りにする彼に今度はこちらが驚いた。
(絶対ごねると思っていたのに……)
まぁそうなってもすぐに担任がホームルームでやって来るからいいかと諦めていたが、こうも素直に引き下がれると肩透かしを食らった気分になる。
(変なの)
大人しく前を向いた彼と同様、わたしも担任がやって来るのを待つ。
いつもなら教師を待つ間、クラスメイト同士である程度のお喋りがあるはずなのに、その声が聞こえてこない。代わりに好奇の視線だけが煩い。
あれだけ皆の前で彼を拒絶していたのだ。
だからこそ、わたしと彼が『恋人』となったこの状況が面白いのだろう。
(時間があるようでなによりね。わたしならそんな時間があったら勉強かバイトに注ぎ込むわ)
ざわざわと周囲の浮き立つ興奮が肌を撫でる。自分が娯楽にされていることへの不快感に眉を顰めそうになるが、すぐにそれを正す。
下手に反応しているところを見つけられたら、また厄介な興味が高まると思ったからだ。
(だからいつも通りにしてあげる)
ピンと背筋を伸ばし、なんでもないように振舞う。
その実、彼と別れる方法を考える。
――恋人にはなる。
けれどそれは期限を前提としてだ。
いつまでも『恋人ごっこ』をしてやる程こちらは暇ではないのだから。
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