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レクナ村
レクナ村12
しおりを挟む「この少年を――王都へ、陛下の御前へ連れていく。」
カエルスの宣言に呼応し、第一騎士団の騎士たちが一斉に動いた。
その瞬間。
空気が――ひと呼吸分、凍りついた。
音が消えたかのような沈黙。
足の動き、呼吸、視線さえ止まる。
「――待て。」
アルバートの声が静かに響く。
動きを止めたのは第一騎士団の団長、第二騎士団のルートとセナを除いた第一騎士団の騎士達。
まるで見えない手が肩を押さえつけたような、強制的な“静止”。
カエルスが眉を動かし、
ゆっくりとアルバートへ視線を向けた。
「……第二騎士団長、アルバート・ライナス。」
アルバートははるの傍から一歩も動かず、ただ真っ直ぐカエルスを見据えた。
「この子を今すぐ連れて行くなど、到底容認できない。」
(……やはり、陛下ははるを道具のように使うのだろうな…)
空気に微かな“怒気”が混ざる。
カエルスは顎をわずかに上げ、冷ややかに問いかけた。
「……ならば何故、報告を上げていない?
第二騎士団長が、あの光の規模を見てなお、なぜ黙っていたのか。」
アルバートは落ち着いたまま、数秒黙考し――
「彼の生命自体が危ぶまれていたからだ。」
はるの寝顔を横目に見ながら、低く続ける。
「…彼の体に残っていた魔力は、生命維持ぎりぎりの量だった。」
カエルスの目がわずかに細められる。
「まずは回復を待つ必要があった。
でなければ、この子は――この3日を、生き延びられなかっただろう。」
鋭い静寂が落ちた。
ルートは拳を握りしめ、セナは眠るはるをそっと見る。
カエルスだけが、冷たい灰色の瞳を疑うように細め、
「――治癒師。診ろ。」
すぐに前へ一人の治癒師が進み出た。
王城の白い外套をまとった青年で、魔力の扱いに長けていると一目で分かる。
第一騎士団の治癒師は、はるの手をそっと取った瞬間、小さく息を呑んだ。
「……魔力波形、乱れ……っこれは……」
分析しながら、額に汗を浮かべる。
数分後、顔色を少し青ざめさせながらカエルスに向き直った。
「団長……魔力波形が大きく乱れております。ここまでの乱れは初めて見ます……
魔力消費が重度であったことは確かで、身体への負荷が極めて高い。恐らく、限界まで……」
言葉を選び、続けた。
「ここから王都までは早馬で3日。
陛下の御前まで、生きてたどり着けるかどうか……」
室内が再び静まった。
カエルスが舌打ちをする。
「……チッ……」
その目に、初めて“焦燥”が滲んだ。
建国以来、ようやく現れた《黒の君》。
王国が待ち続け、国王が切望した存在。
ただの少年の命としてではなく――
国家の“希望そのもの”として。
死なせる選択肢など、最初から存在しない。
カエルスは深く息を吐き、決断した。
「陛下へは、私が報告書を提出する。
ここで数日待ち、回復を待ったのちに連れて行く。」
第一騎士団の騎士たちはきっちりと敬礼した。
アルバートははるの手を包み込むように握った。
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