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レクナ村
レクナ村13
しおりを挟む黒の君――
その存在が明らかになった瞬間、村の空気は一変した。
第一騎士団の騎士たちは村のあちこちに配置され、
巡回や見張りを始めた。
カエルスは村長宅の一室を指揮所とし、
日がな一日、報告書の作成と、第一騎士団への指示、はるの観察を続けた。
第二騎士団のアルバートとルートは、
はるの部屋を守るように傍を離れない。
その二日間、2人に見守られながら、
はるはほとんどベッドの上で静かにしていた。
セナがはるの魔力を診るたびに眉を上げた。
「……回復が早い。異常なほどに。」
第一騎士団の治癒師も同じ診断を下す。
「3日寝込むほど魔力を使ったというのに
波形が……整っていくどころか、“強度”が上がっている?」
まるで魔力そのものが“再構築”されている。
通常の人間とはまったく違うリズムで。
カエルスは腕を組み、目を細くした。
「……伝承のとおりだな。
“黒の君は、魔力を失っても再び満ちる”――か。」
しかし彼は、その言葉の語尾にわずかな不安を滲ませていた。
(回復が早すぎる……本当にあの光を無自覚に出しただけだというのか?)
はるの中に、伝承にない“何か”がある――
そんな直感が、彼の警戒を煽っていた。
二日目の昼。
ベッドから身体を起こせるようになり、
立つことさえできるようになったはるを見て、
ルートが目を丸くする。
「無理しちゃ、だめだよ!?
……でも、よかった……!」
アルバートも短く息を吐いた。
「……本当に、驚異的だな。
魔力が戻るだけじゃない……身体の疲労まで抜けているようだ。」
はる自身は首を傾げるばかり。
「え……そんなにすごいの……?」
その素朴な声に、
アルバートとルート、そしてセナは胸が締めつけられた。
(この子は……自分で何をしたのか、本当に分かっていない……)
もし王都の者がその“無自覚”を利用するなら――
はるの未来は、決して明るくはない。
――夕方。
部屋の扉がノックされ、静かに開かれた。
入ってきたのはアルバートとルート。
ふたりとも、表情に緊張を滲ませている。
「……はる。」
アルバートが言いにくそうに切り出した。
「明日の朝、馬車で王都へ向かうことになった。
日程は……約一週間だ。」
はるは瞬きした。
「……あ、した……? そんな急に……?」
ルートがそっと肩に手を置き、少しでも安心させるように微笑んだ。
「大丈夫だよ、はるくん。ぼくも行くから。
アルバートも一緒だし、セナも。
第一騎士団も同行するから魔物は来ない。」
「…………」
はるの胸に、複雑な不安が広がる。
知らない土地。
伝承にある髪と瞳。
自分が“黒の君”と呼ばれていること。
王の前に連れていかれる理由も分からない。
――それでも。
そばに立つ三人の姿が、不安を少しだけ溶かした。
アルバートはゆっくり言う。
「……怖いかもしれないが、心配するな。
何があっても、俺たちが守る。」
その言葉は、揺るぎない騎士の誓いだった。
はるは、小さく頷いた。
「……うん。」
外では、第一騎士団が準備の号令を上げている。
こうして――
黒の君、はるの“王都への旅”の前夜が静かに迫っていった。
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