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王都への旅
旅
しおりを挟む旅立ちの朝、村はいつになく静かだった。
けれど、その静けさの中には恐怖ではなく、安堵と感謝が満ちている。
村の入口には、村の老若男女が集まっていた。
瘴気に怯え、魔物に脅かされていた日々が、確かに終わったのだと実感するように。
先日まで村の見張りを担当していた村長の息子が
「ありがとうございました……本当に、。
何もおもてなしできず、すみません。この村へも、またいらしてください。」
直接名を呼ぶ者はいない。
だが、向けられる視線は皆、同じ一点に集まっていた。
一台の質素な木製馬車。
古くはあるが丁寧に手入れされていて、村人たちがどれほど大切に使ってきたかが分かる温もりある造りだった。
はるはその中で、外套とフードを深く被り、静かに膝の上で手を組んでいた。
自分が何をしたのか、どれほどのことだったのか、まだよくわからない。
それでも、この人たちの表情を見て、胸の奥がじんわりと温かくなる。
「……行くぞ。」
アルバートの低い声を合図に、隊列が動き出す。
馬車には、はると、この数日間ずっと容体を診ていた第一騎士団の治癒師のミエルがカエルスの指示で乗る。
第一騎士団の制服に身を包み、落ち着いた雰囲気を纏っている。
最初は、黒の力を持つ存在としてのはるを、医師として、騎士として警戒していた。
だが。
がたん、がたん…と馬車が動き出し、揺れに合わせてはるが窓の方へ身を寄せる。
フードの影から、そっと外を覗く黒い瞳。
土の色、空の広さ、見慣れない家々、揺れる木々――
日本とはまったく違う世界に、純粋な好奇心を向けている。
「……」
ミエルは、その横顔を盗み見る。
(……あどけないな)
未知の力を秘めた“黒の君”ではなく、
ただ、異世界に迷い込んだ一人の少年。
胸の奥にあった警戒が、少しずつほどけていく。
「……そういえば、ちゃんと名乗ってなかったですね」
はるが振り向く。
「私はミエルと言います。第一騎士団の治癒師です。
旅の道中何かあったら教えてください。」
「あ、僕もすみません……はる、です。
よろしく……お願いします」
ぎこちない返事に、ミエルはそっと微笑んだ。
馬車の外では、アルバート、ルート、セナ、そして両騎士団がそれぞれ馬に跨り、隊列を組んで進んでいく。
警戒を怠らぬ布陣だが、空気はどこか穏やかだった。
半日ほど進んだ頃――
甘い香りが、風に混じって届いてくる。
「……花、の香り……?」
視界が開けた先に広がるのは、一面の花畑。
色とりどりの花が夕日に照らされ、波のように揺れている。
エルダ村。
花の栽培で知られる、穏やかな村だ。
到着後、まずはセナの診察を受け、体調に問題がないことを確認する。
そして、夕食前のわずかな時間。
はるは再び外套とフードを深く被りながらも、
アルバート、ルート、セナの4人、花畑の縁に立っていた。
沈みゆく夕日が、花々を金色に染める。
「……きれい……」
思わずこぼれた声。
アルバートは何も言わず、ただその光景を見守っている。
ルートは警戒しつつも、どこか誇らしげで、
セナは穏やかな目で、はるの横顔を見ていた。
世界は、まだ優しい。
だが同時に――
この旅が、ただの護送では終わらないことを、
誰もが心のどこかで理解していた。
夕日の中、花は静かに揺れ続けていた。
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