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王都への旅
エルダ村
しおりを挟むエルダ村の宿屋は、花の栽培で栄える村らしく、外観も内装もどこか柔らかな雰囲気をまとっていた。
木造の建物の軒先には乾燥させた花束が吊るされ、夜風に揺れてかすかな香りを運んでくる。
一行はそれぞれ馬を預け、奥の広間へと通された。
テーブルを囲むのは、
第二騎士団長アルバート、
副団長のルート、
治癒師セナ、
第一騎士団長カエルス、
そして第一騎士団の治癒師ミエル。
はるは別室で休んでおり、ここにはいない。
「……エルダ村までの移動中、あの子に異変はありませんでした。」
最初に口を開いたのはミエルだった。
淡々とした声音だが、その表情には医師としての慎重さが滲んでいる。
続けて、頷きながらセナが
「魔力波形も安定してる。むしろ回復は想定より早い。
あの状態からここまで戻るのは、正直……異例だ。」
「やはり、“黒の君”というわけか……」
カエルスが腕を組み、低く息を吐き、
地図を指でなぞりながら続ける。
「今日の様子を見る限り、明日は移動時間を伸ばしても問題なさそうだな。一気に距離を稼げる。」
「しかし、無理は禁物だ。」
静かにアルバートが添える。
セナも頷く。
「無理はだめだ。今のはるなら、馬車での長距離移動も耐えられるだろうが、決して魔力波形はいい状態と言えない。」
しばしの沈黙の後、カエルスが結論を下した。
「……よし。次の日は王都までの行程を詰める」
⸻
夕食後、はるは宿屋の小さな客室で、ベッドに腰掛けていた。
外套を脱ぎ、窓辺からそっと外を眺める。
夕闇に染まるエルダ村は、花の香りと人々の笑い声に満ちている。
(……ここまで来たけど……)
ふと、胸に浮かんだ疑問が口をついて出た。
「ねえ、アルバートさん」
椅子に腰掛けていたアルバートが視線を向ける。
「王都に着いたら……僕、なにをするんだろう?」
アルバートはすぐには答えず、少しだけ言葉を選ぶように視線を伏せた。
「……王都に着いたら、まずエクリシア国王に謁見することになる」
はるは息を呑んだ。
「その後……はっきりとは言えないが」
アルバートははるの目を見て、静かに続ける。
「おそらく、
…はるの力で、この国の瘴気や魔物を退けてほしい、と」
はるの胸が小さく揺れた。
「……僕に、そんな力が?……」
不安に震える声。
「だが、強制されることはない。少なくとも……俺は、そうさせるつもりはない」
はるは少しだけ安心したように息をつき、続けて尋ねた。
「……アルバートさんは、一緒?」
その問いに、アルバートは迷いなく答えた。
「ああ。一緒だ」
その一言で、はるの表情がふっと緩む。
「……よかった」
その夜、はるは久しぶりに深く、穏やかな眠りについた。
夢に黒い影が現れることもなく、ただ静かな闇に身を委ねるだけだった。
⸻
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