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しおりを挟む凪は、朝が来る前に目を覚ましていた。
正確には、眠れていなかった。
薄暗い部屋で、天井を見つめたまま、何度も呼吸を整える。
耳の奥で、あの夜の音が蘇る。
荒い声。
床に倒れる衝撃。
服を掴まれた感覚。
――だいじょうぶ。
――もう、いない。
そう言い聞かせても、体は言うことをきかなかった。
背中に、じっとりと冷や汗が滲む。
時計を見ると、まだ五時前。
起きてしまおう。
そう決めて、凪はそっとベッドを抜け出した。
⸻
キッチンでは、音を立てないように細心の注意を払った。
コップを置く音。
水を出す音。
迷惑をかけないように。
存在を、主張しすぎないように。
凪は、テーブルを拭き、洗い物を揃え、靴をきれいに並べ直した。
considerably unnecessary tasks, yet he did them anyway.
――役に立たなきゃ。
それが、凪の中のルールだった。
そのまま大学へ行き、講義を受け、戻ってくる。
体は重かったが、顔には出さない。
夜。
「今日は、早めに休め」
鷹宮の声に、凪はすぐ頷いた。
「はい。大丈夫です」
また、その言葉。
鷹宮は、凪の目の下にうっすらと残る影に気づいていた。
だが、無理に聞くことはしなかった。
⸻
ベッドに入っても、眠気は来ない。
電気を消すと、闇が怖くなった。
目を閉じると、思い出してしまう。
凪は、毛布を握りしめ、膝を抱える。
――電話、かけてしまった。
――迷惑、かけた。
鷹宮の顔が浮かぶ。
駆けつけてくれた背中。
抱きしめられたときの、確かな温度。
それを思い出すと、少しだけ呼吸が楽になる。
同時に、胸が痛んだ。
頼ってしまった。
弱いところを、見せてしまった。
凪は、誰にも聞こえないように、浅く息を吐いた。
⸻
数日後。
凪は、明らかに無理をしていた。
朝は早く起き、夜は遅くまで起きている。
食事も、必要最低限。
「凪」
鷹宮が、ついに声をかける。
「最近、眠れていないな」
「……そんなこと、ないです」
一瞬の間。
ほんの、わずかな。
鷹宮は、それを見逃さなかった。
「嘘は、下手だな」
凪は、目を伏せる。
「……心配、かけたくなくて」
「心配は、もうしている」
静かな声だった。
「理由を、言え」
命令ではない。
けれど、逃げ道もない。
凪は、唇を噛みしめ、ようやく口を開いた。
「……夜になると、思い出してしまって」
声が、震える。
「あのときのこと。……音とか、匂いとか」
そこまで言って、言葉が続かなくなる。
「眠れないのに、眠れないって言うと……」
凪は、小さく首を Austed.
「……迷惑だと思われるのが、怖くて」
沈黙が落ちた。
鷹宮は、しばらく何も言わなかった。
そして、ゆっくりと立ち上がる。
「凪」
近づき、視線を合わせる。
「君が眠れないのは、弱いからじゃない」
低く、確かな声。
「それを一人で抱える方が、危険だ」
凪の目に、涙が溜まる。
「……すみません」
「謝るな」
鷹宮は、はっきりと言った。
「君は、もう一人じゃない」
その言葉が、胸の奥に落ちて、
凪の張りつめていた何かが、音を立ててほどけた。
冬は、まだ終わらない。
けれど、凪は初めて、
夜を一人で越えなくてもいいのかもしれないと、思った。
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