9 / 11
9
しおりを挟む雪は、降りそうで降らなかった。
窓の外は鉛色の空で、冬特有の静けさが街を覆っている。
凪はマグカップを両手で包み、ソファに座っていた。
温かい。
それだけで、少し安心してしまう自分に、凪は苦笑する。
鷹宮は、向かいの椅子に腰を下ろし、書類を閉じた。
「無理は、していないか」
何気ない問いかけ。
「……はい」
答えてから、凪は一瞬迷った。
――今日は、少しだけ。
「……あの」
視線を落としたまま、言葉を続ける。
「僕のこと、どこまで知ってますか」
鷹宮は、すぐに答えなかった。
「君が、話した分だけだ」
その返事に、凪の肩がわずかに揺れた。
強制しない。
聞き出さない。
それが、鷹宮なりの距離の取り方なのだと、凪は思った。
「……父は」
声が、少しだけ震える。
「昔から、家にいない人でした」
借金。
仕事を転々とする生活。
「……母は、早くにいなくなって」
それ以上は言わなかった。
それで、十分だった。
鷹宮は、遮らずに聞いている。
「僕は……」
凪は、指先を見つめる。
「頼る場所が、なかったんです」
だから、
我慢すること。
諦めること。
期待しないこと。
それが、普通になった。
「……あの夜」
言葉を選びながら。
「怖かったです。でも、それ以上に」
凪は息を吸う。
「……助けてほしいって、思ってしまった自分が、怖かった」
鷹宮は、静かに頷いた。
「それは、自然なことだ」
「……自然、ですか」
「ああ」
迷いのない声。
「人は、一人で生きるようにはできていない」
凪は、唇を噛んだ。
「……それでも、頼ると、見捨てられる気がして」
「凪」
名前を呼ばれる。
「俺は、君を守ると決めた」
淡々とした口調。
けれど、重みのある言葉。
「だが、それは君を縛るためじゃない」
凪は、ゆっくりと顔を上げた。
「……どうして」
その問いは、ずっと胸にあった。
鷹宮は少し考え、答える。
「放っておけなかった」
それだけ。
「理由は、それ以上でも、それ以下でもない」
凪の目に、涙が滲む。
「……そんな理由で」
「十分だ」
短く、きっぱりと。
沈黙が落ちる。
けれど、それは重くなかった。
凪は、胸の奥が、少し軽くなったのを感じる。
――言葉にした分だけ、
――近づいている。
それが、怖くて。
でも、嬉しかった。
夜。
凪は、ベッドに入り、目を閉じる。
今日も、闇は来る。
けれど、凪はもう、
闇の中に一人ではなかった。
0
あなたにおすすめの小説
君に不幸あれ。
ぽぽ
BL
「全部、君のせいだから」
学校でも居場所がなく、家族に見捨てられた男子高校生の静。
生きる意味を失いかけた時に屋上で出会ったのは、太陽に眩しい青年、天輝玲だった。
静より一つ年上の玲の存在は、静の壊れかけていた心の唯一の救いだった。
静は玲のことを好きになり、静の告白をきっかけに二人は結ばれる。
しかしある日、玲の口から聞いた言葉が静の世界を一瞬で反転させる。
玲に対する感情は信頼から憎悪へと変わった。
それから十年。
かつて自分を救った玲に再会した静は玲に対して同じ苦しみを味合わせようとする。
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
目線の先には。僕の好きな人は誰を見ている?
綾波絢斗
BL
東雲桜花大学附属第一高等学園の三年生の高瀬陸(たかせりく)と一ノ瀬湊(いちのせみなと)は幼稚舎の頃からの幼馴染。
湊は陸にひそかに想いを寄せているけれど、陸はいつも違う人を見ている。
そして、陸は相手が自分に好意を寄せると途端に興味を失う。
その性格を知っている僕は自分の想いを秘めたまま陸の傍にいようとするが、陸が恋している姿を見ていることに耐えられなく陸から離れる決意をした。
夫には好きな相手がいるようです。愛されない僕は針と糸で未来を縫い直します。
伊織
BL
裕福な呉服屋の三男・桐生千尋(きりゅう ちひろ)は、行商人の家の次男・相馬誠一(そうま せいいち)と結婚した。
子どもの頃に憧れていた相手との結婚だったけれど、誠一はほとんど笑わず、冷たい態度ばかり。
ある日、千尋は誠一宛てに届いた女性からの恋文を見つけてしまう。
――自分はただ、家からの援助目当てで選ばれただけなのか?
失望と涙の中で、千尋は気づく。
「誠一に頼らず、自分の力で生きてみたい」
針と糸を手に、幼い頃から得意だった裁縫を活かして、少しずつ自分の居場所を築き始める。
やがて町の人々に必要とされ、笑顔を取り戻していく千尋。
そんな千尋を見て、誠一の心もまた揺れ始めて――。
涙から始まる、すれ違い夫婦の再生と恋の物語。
※本作は明治時代初期~中期をイメージしていますが、BL作品としての物語性を重視し、史実とは異なる設定や表現があります。
※誤字脱字などお気づきの点があるかもしれませんが、温かい目で読んでいただければ嬉しいです。
両片思いの幼馴染
kouta
BL
密かに恋をしていた幼馴染から自分が嫌われていることを知って距離を取ろうとする受けと受けの突然の変化に気づいて苛々が止まらない攻めの両片思いから始まる物語。
くっついた後も色々とすれ違いながら最終的にはいつもイチャイチャしています。
めちゃくちゃハッピーエンドです。
【完結】君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、新たな恋を始めようとするが…
昔「結婚しよう」と言ってくれた幼馴染は今日、僕以外の人と結婚する
子犬一 はぁて
BL
幼馴染の君は、7歳のとき
「大人になったら結婚してね」と僕に言って笑った。
そして──今日、君は僕じゃない別の人と結婚する。
背の低い、寝る時は親指しゃぶりが癖だった君は、いつの間にか皆に好かれて、彼女もできた。
結婚式で花束を渡す時に胸が痛いんだ。
「こいつ、幼馴染なんだ。センスいいだろ?」
誇らしげに笑う君と、その隣で微笑む綺麗な奥さん。
叶わない恋だってわかってる。
それでも、氷砂糖みたいに君との甘い思い出を、僕だけの宝箱にしまって生きていく。
君の幸せを願うことだけが、僕にできる最後の恋だから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる