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またアルファードの部屋に呼ばれました
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「こちらでございます」
恭しく王宮の召使が頭を垂れた。
その横で、ひっそりと控えているのは私の家から同行した召使。表情こそ変えないが、ちらりと私を心配そうに見やる瞳が、その不安を如実に物語っていた。
案内された場所は、よりにもよって、アルファードの部屋の扉の前。
懐かしい。
そう思うよりも先に、嫌悪感が胸を支配した。二度と足を踏み入れることはない、と誓った場所。なのに、まさかこんなに早くまた呼ばれるなんて思いもしなかった。
しずしずと扉を開ける召使の姿に、胸の奥で
「嫌な予感しかない」
と苦々しいものが渦を巻く。
踵を返してしまいたい衝動が全身を駆け巡り、足が石のように重たくなる。
足が重い、
とはまさにこのことだ。
二週間後にはアルファードの誕生日パーティーが迫っていた。シルビアが吹聴したとおり、学園の生徒たちには招待状がばらまかれ、学園内は騒然としている。
配布の采配はあまりにあからさまだった。
シルビアと同じ寮に入っている取り巻きたち、そして下級貴族である彼女に必死に媚びる者ばかりに招待状が届いていたのだ。
人間とは、なんと卑しい生き物か。
今回は逃したが、次こそは。そんな醜い思惑にむき出しの欲望と浅ましい人間性が透けて見える。
逆に、招待状をもらえなかったのは上級貴族の子息や令嬢たち。
彼らはあからさまな嫌悪を顔に浮かべ、悪口雑言を吐き散らしていた。多少の正当性が含まれていようと、結局は羨望と嫉妬にまみれた言葉にすぎない。
低級貴族、上級貴族。
本来はそれぞれに役割があるはず。
私はそこに重きを置き、自分なりに考え、動いてきた。理想論だと理解しているけれど、それでも必然だと信じ、幾人もの方と相談しながら決めてきたのだ。
けれど、ここまであからさまな采配をしてしまえば、いずれ必ず亀裂になる。
権力、と一言で片付けられるものではない。そこには複雑な思惑や意味が絡み合っている。
私は、どれだけ努力し、どれだけ動いてきたことか。
その積み重ねを、アルファードは本当に一度でも気づいたことがあったのだろうか。
ぐっと拳に力が入り、私は必死に目を閉じる。吐き出せるのは、無力感に満ちたため息ばかりだった。いや、もう私には関係のないこと。
何度もそう言い聞かせ、一線を引こうとした。
なのに。
シルビアは最近、妙に気味が悪いほどべたべたと私に近寄り、声をかけてくる。
私がどれだけアルファードを支えていたかを、恩着せがましく大声で言ってくる。
気持ち悪い。
その瞳に潜む計算高さとあざとさが、背筋を冷たく撫でて、嫌な予感しかしない。
極めつけに、アルファードまでがシルビアに同調し、私を「素晴らしい人間だ」と褒めてくる。
裏があるとしか思えない。
そんな中迎えた週末の朝。王宮から召使がやって来た。
今度は何?
その不安は、もはや当然のように胸をよぎる。
案内されたのは、アルファードの部屋の前。
冗談じゃない。
胸の奥が辟易した気分でいっぱいになる。
全身が「帰れ」と伝令のように叫んでいた。
けれど、そうもいかない。
相手は王子。
無下に扱うわけにもいかないし、お父様が苦虫を噛み潰したような顔をしながらも「行ってきなさい」と言った以上、逆らうこともできなかった。
あのときのお父様の表情から、少なくとも陛下は関与していない、それだけが唯一の救いだった。
「お入りください」
静かに扉が開かれる。私は重たい足を引きずりながらも、腹が立つほどに作り物めいた笑みを浮かべて中へと入った。
入った途端、扉が閉ざされる。ソファに座っていたアルファードが立ち上がった。
「カレン、私はやっと本当の愛に気づいたんだ」
アルファードの声。
その隣でシルビアも立ち上がり、二人並んで私を見つめていた。アルファードの瞳は熱っぽく、真っ直ぐに私を射抜く。だが、その腕はしっかりとシルビアの手を握っている。
そして二人は、見つめ合い、微笑み合う。
愛し合っています、
と言わんばかりに。
気分が悪い。いや、吐き気を催す。
なぜ私が、こんな姿を見せつけられなければならないのか。
その上、
また!
あの言葉。
私がどう感じるかなど全く考えていない。人間性を疑う。
落ち着け、落ち着くのよ。
相手の流れに呑まれてはいけない。
ましてや、アルファードの正面にはなぜか王妃様が座っている。背を向け、振り返りもせず、ただ優雅にお茶を口にしている姿は、逆に恐ろしいほどだ。
なぜ、王妃様がここに?
疑問は渦巻くけれど、今は問いかける空気ではない。
背中から
「私に声をかけるな!」
と語るような見えないオーラが漂い、恐ろしくて言葉を飲み込んだ。
「大丈夫、知っているわ。シルビアのことでしょう」
無理やり口元を歪め、柔らかい声を装う。頬は引きつっていた。
王妃様は相変わらず我関せずといった風にお茶を飲み続けている。そう、とりあえず私が相手をすべきは、
目の前のこの二人だ。
「そうですわぁ。私たち、運命の赤い糸で結ばれているのですぅ。ねぇ、アルファード様ぁ。だぁれも私たちの邪魔はできませんわぁ」
シルビアが猫撫で声をあげながら、くねくねと身体をくねらせ、アルファードの腕に絡みつく。
アルファードは頬を染め、恥ずかしそうにシルビアを見つめ返す。二人だけの世界に浸る様子は、私の神経を逆撫でするばかりだった。
うふふ。
シルビアが小さく笑う。その声だけで背中がゾワゾワと粟立ち、胸の奥が冷たくなる。
この、バカップル。
喉元まで出かかった言葉を、どうにか飲み込んだ自分を褒めたい気分だ。
「用事を早く済ませてくれない? 私、本当に忙しいの」
苛立ちを抑えながら声を出す。
そう、本当に忙しいのだ。打倒オデッセイ様に向けて勉強することが山積みで、こんな茶番に付き合っている暇などない。
「そんなに私を急かすなんて、カレン、本当は私のことが気になって仕方ないんだろう」
バカバカしい。
「何言ってるの? 全く気にしてないわ。隣にシルビアがいるでしょう」
「そうだよ。本当の愛の相手はシルビアだ。でもね、やっぱり私にはカレンしかいないって気づいたんだ」
優しいはずの微笑み。
けれど、今の私には、それはただ腐敗したものにしか見えない。
「言っている意味が分からないわ」
早く帰りたい。いや、ここにいてはいけない。脳裏で警鐘が鳴り響く。
「わかっているくせにぃ。ほらぁアルファード様ぁ、私の言うとおりでしょう? あえて知らんぷりしてぇ、気を引いてぇ、甘えているんですぅ。もう、子供なんですよぉ」
胸の奥で怒りが爆発しそうになる。息を整えなければ、声を荒げてしまいそうで怖い。
「そうだね。言ってあげないと可哀想だね」
はあ!?
何をよ!?
「本当の愛とはね、気持ちだけではなく、態度でもあるんだよ。カレン、君は私のことを本当に思って、これまで色々努力してくれたよね。それを私も理解しているよ。だからね、気持ちの愛はシルビア。でも、私を支えてくれる態度の愛は、カレンなんだよ」
な、何を言ってるの、この人!?
理解不能の言葉を、まるで正論のように吐き出してきた。
いや、吐き出した。
そう表現したくなるほど、汚らわしい響きにしか聞こえない。しかもそれを、シルビアの手を優しく握りながら、当然のような顔で言うのだ。
いつもなら「優しさ」に見えた微笑みも、今は腐敗した仮面にしか見えない。背中に冷たいものが這い上がり、手足が強張る。
この人、今までに本当に、私の気持ちを考えたことがあるのだろうか?
人として会話が成立しているのかさえ疑わしい。
頭がくらくらして、初めて、殴りたいと思った。
頬がひきつり、唇が震える。幾度も深呼吸を繰り返す。落ち着け。
嵌ってはだめ。
何より、アルファードの前には王妃様が座っている。背中を向け、微動だにしない。つまり、アルファードがこのふざけたことを言うのを知っていて、黙っているということだ。
「そうなんですのぉ。私ね、すごぉくアルファード様と国のために頑張ってるんですけどぉ、よくよく考えたら、私たちだけですることなんてなかったんですぅ」
シルビアが猫撫で声で笑いかける。その仕草一つで胸が締めつけられる。苛立ちが全身に満ち、身体が小刻みに震えた。
馬鹿馬鹿しい。くだらない。
「そうなんだよ。私にはやはりカレンが必要なのだ。私のために努力してくれた、その思いを無駄にはしない。それなら答えは簡単」
「そうなんですのぉ、カレンったらぁ、これまでアルファード様のために努力してきたけれど、それが全部無駄になっちゃったら、悲しいでしょ? 私、心広いんですのぉ」
「そうなんだよ。シルビアが心広いから、カレンが側にいても愛に疑いはない。それより私に構ってほしいから冷たくしてるんだ、って言ってくれたんだ」
その一言一言が、刃のように突き刺さる。胸の奥が焼けるように痛み、吐き気が込み上げる。
頭がおかしい。
この二人、本気で頭がおかしいわ。
頭の中で思考がぐちゃぐちゃに絡まり、全身が熱を帯びる。手のひらは汗で滑り、床に叩きつけたくなる衝動に駆られる。
「そこでね、いいことをシルビアが提案してくれたんだよ」
「そうなんですのぉ。そうしたらねぇ、カレンはずぅっとアルファード様と一緒にいられるしぃ、これまでの努力も無駄にならないんですのよぉ」
「私は一度も無駄だなんて思ったことないわ。勝手に決めつけないで!」
「ふぅん? よかったぁ、ならぁ、私たち、もっともっと幸せになれますわねぇ」
「そうだな。カレン、君を第二夫人にしてあげるよ」
突如突きつけられたその言葉は、刃物よりも鋭く胸を貫いた。
二人の無邪気な笑顔が、
逆に残酷なものにしか見えない。
恭しく王宮の召使が頭を垂れた。
その横で、ひっそりと控えているのは私の家から同行した召使。表情こそ変えないが、ちらりと私を心配そうに見やる瞳が、その不安を如実に物語っていた。
案内された場所は、よりにもよって、アルファードの部屋の扉の前。
懐かしい。
そう思うよりも先に、嫌悪感が胸を支配した。二度と足を踏み入れることはない、と誓った場所。なのに、まさかこんなに早くまた呼ばれるなんて思いもしなかった。
しずしずと扉を開ける召使の姿に、胸の奥で
「嫌な予感しかない」
と苦々しいものが渦を巻く。
踵を返してしまいたい衝動が全身を駆け巡り、足が石のように重たくなる。
足が重い、
とはまさにこのことだ。
二週間後にはアルファードの誕生日パーティーが迫っていた。シルビアが吹聴したとおり、学園の生徒たちには招待状がばらまかれ、学園内は騒然としている。
配布の采配はあまりにあからさまだった。
シルビアと同じ寮に入っている取り巻きたち、そして下級貴族である彼女に必死に媚びる者ばかりに招待状が届いていたのだ。
人間とは、なんと卑しい生き物か。
今回は逃したが、次こそは。そんな醜い思惑にむき出しの欲望と浅ましい人間性が透けて見える。
逆に、招待状をもらえなかったのは上級貴族の子息や令嬢たち。
彼らはあからさまな嫌悪を顔に浮かべ、悪口雑言を吐き散らしていた。多少の正当性が含まれていようと、結局は羨望と嫉妬にまみれた言葉にすぎない。
低級貴族、上級貴族。
本来はそれぞれに役割があるはず。
私はそこに重きを置き、自分なりに考え、動いてきた。理想論だと理解しているけれど、それでも必然だと信じ、幾人もの方と相談しながら決めてきたのだ。
けれど、ここまであからさまな采配をしてしまえば、いずれ必ず亀裂になる。
権力、と一言で片付けられるものではない。そこには複雑な思惑や意味が絡み合っている。
私は、どれだけ努力し、どれだけ動いてきたことか。
その積み重ねを、アルファードは本当に一度でも気づいたことがあったのだろうか。
ぐっと拳に力が入り、私は必死に目を閉じる。吐き出せるのは、無力感に満ちたため息ばかりだった。いや、もう私には関係のないこと。
何度もそう言い聞かせ、一線を引こうとした。
なのに。
シルビアは最近、妙に気味が悪いほどべたべたと私に近寄り、声をかけてくる。
私がどれだけアルファードを支えていたかを、恩着せがましく大声で言ってくる。
気持ち悪い。
その瞳に潜む計算高さとあざとさが、背筋を冷たく撫でて、嫌な予感しかしない。
極めつけに、アルファードまでがシルビアに同調し、私を「素晴らしい人間だ」と褒めてくる。
裏があるとしか思えない。
そんな中迎えた週末の朝。王宮から召使がやって来た。
今度は何?
その不安は、もはや当然のように胸をよぎる。
案内されたのは、アルファードの部屋の前。
冗談じゃない。
胸の奥が辟易した気分でいっぱいになる。
全身が「帰れ」と伝令のように叫んでいた。
けれど、そうもいかない。
相手は王子。
無下に扱うわけにもいかないし、お父様が苦虫を噛み潰したような顔をしながらも「行ってきなさい」と言った以上、逆らうこともできなかった。
あのときのお父様の表情から、少なくとも陛下は関与していない、それだけが唯一の救いだった。
「お入りください」
静かに扉が開かれる。私は重たい足を引きずりながらも、腹が立つほどに作り物めいた笑みを浮かべて中へと入った。
入った途端、扉が閉ざされる。ソファに座っていたアルファードが立ち上がった。
「カレン、私はやっと本当の愛に気づいたんだ」
アルファードの声。
その隣でシルビアも立ち上がり、二人並んで私を見つめていた。アルファードの瞳は熱っぽく、真っ直ぐに私を射抜く。だが、その腕はしっかりとシルビアの手を握っている。
そして二人は、見つめ合い、微笑み合う。
愛し合っています、
と言わんばかりに。
気分が悪い。いや、吐き気を催す。
なぜ私が、こんな姿を見せつけられなければならないのか。
その上、
また!
あの言葉。
私がどう感じるかなど全く考えていない。人間性を疑う。
落ち着け、落ち着くのよ。
相手の流れに呑まれてはいけない。
ましてや、アルファードの正面にはなぜか王妃様が座っている。背を向け、振り返りもせず、ただ優雅にお茶を口にしている姿は、逆に恐ろしいほどだ。
なぜ、王妃様がここに?
疑問は渦巻くけれど、今は問いかける空気ではない。
背中から
「私に声をかけるな!」
と語るような見えないオーラが漂い、恐ろしくて言葉を飲み込んだ。
「大丈夫、知っているわ。シルビアのことでしょう」
無理やり口元を歪め、柔らかい声を装う。頬は引きつっていた。
王妃様は相変わらず我関せずといった風にお茶を飲み続けている。そう、とりあえず私が相手をすべきは、
目の前のこの二人だ。
「そうですわぁ。私たち、運命の赤い糸で結ばれているのですぅ。ねぇ、アルファード様ぁ。だぁれも私たちの邪魔はできませんわぁ」
シルビアが猫撫で声をあげながら、くねくねと身体をくねらせ、アルファードの腕に絡みつく。
アルファードは頬を染め、恥ずかしそうにシルビアを見つめ返す。二人だけの世界に浸る様子は、私の神経を逆撫でするばかりだった。
うふふ。
シルビアが小さく笑う。その声だけで背中がゾワゾワと粟立ち、胸の奥が冷たくなる。
この、バカップル。
喉元まで出かかった言葉を、どうにか飲み込んだ自分を褒めたい気分だ。
「用事を早く済ませてくれない? 私、本当に忙しいの」
苛立ちを抑えながら声を出す。
そう、本当に忙しいのだ。打倒オデッセイ様に向けて勉強することが山積みで、こんな茶番に付き合っている暇などない。
「そんなに私を急かすなんて、カレン、本当は私のことが気になって仕方ないんだろう」
バカバカしい。
「何言ってるの? 全く気にしてないわ。隣にシルビアがいるでしょう」
「そうだよ。本当の愛の相手はシルビアだ。でもね、やっぱり私にはカレンしかいないって気づいたんだ」
優しいはずの微笑み。
けれど、今の私には、それはただ腐敗したものにしか見えない。
「言っている意味が分からないわ」
早く帰りたい。いや、ここにいてはいけない。脳裏で警鐘が鳴り響く。
「わかっているくせにぃ。ほらぁアルファード様ぁ、私の言うとおりでしょう? あえて知らんぷりしてぇ、気を引いてぇ、甘えているんですぅ。もう、子供なんですよぉ」
胸の奥で怒りが爆発しそうになる。息を整えなければ、声を荒げてしまいそうで怖い。
「そうだね。言ってあげないと可哀想だね」
はあ!?
何をよ!?
「本当の愛とはね、気持ちだけではなく、態度でもあるんだよ。カレン、君は私のことを本当に思って、これまで色々努力してくれたよね。それを私も理解しているよ。だからね、気持ちの愛はシルビア。でも、私を支えてくれる態度の愛は、カレンなんだよ」
な、何を言ってるの、この人!?
理解不能の言葉を、まるで正論のように吐き出してきた。
いや、吐き出した。
そう表現したくなるほど、汚らわしい響きにしか聞こえない。しかもそれを、シルビアの手を優しく握りながら、当然のような顔で言うのだ。
いつもなら「優しさ」に見えた微笑みも、今は腐敗した仮面にしか見えない。背中に冷たいものが這い上がり、手足が強張る。
この人、今までに本当に、私の気持ちを考えたことがあるのだろうか?
人として会話が成立しているのかさえ疑わしい。
頭がくらくらして、初めて、殴りたいと思った。
頬がひきつり、唇が震える。幾度も深呼吸を繰り返す。落ち着け。
嵌ってはだめ。
何より、アルファードの前には王妃様が座っている。背中を向け、微動だにしない。つまり、アルファードがこのふざけたことを言うのを知っていて、黙っているということだ。
「そうなんですのぉ。私ね、すごぉくアルファード様と国のために頑張ってるんですけどぉ、よくよく考えたら、私たちだけですることなんてなかったんですぅ」
シルビアが猫撫で声で笑いかける。その仕草一つで胸が締めつけられる。苛立ちが全身に満ち、身体が小刻みに震えた。
馬鹿馬鹿しい。くだらない。
「そうなんだよ。私にはやはりカレンが必要なのだ。私のために努力してくれた、その思いを無駄にはしない。それなら答えは簡単」
「そうなんですのぉ、カレンったらぁ、これまでアルファード様のために努力してきたけれど、それが全部無駄になっちゃったら、悲しいでしょ? 私、心広いんですのぉ」
「そうなんだよ。シルビアが心広いから、カレンが側にいても愛に疑いはない。それより私に構ってほしいから冷たくしてるんだ、って言ってくれたんだ」
その一言一言が、刃のように突き刺さる。胸の奥が焼けるように痛み、吐き気が込み上げる。
頭がおかしい。
この二人、本気で頭がおかしいわ。
頭の中で思考がぐちゃぐちゃに絡まり、全身が熱を帯びる。手のひらは汗で滑り、床に叩きつけたくなる衝動に駆られる。
「そこでね、いいことをシルビアが提案してくれたんだよ」
「そうなんですのぉ。そうしたらねぇ、カレンはずぅっとアルファード様と一緒にいられるしぃ、これまでの努力も無駄にならないんですのよぉ」
「私は一度も無駄だなんて思ったことないわ。勝手に決めつけないで!」
「ふぅん? よかったぁ、ならぁ、私たち、もっともっと幸せになれますわねぇ」
「そうだな。カレン、君を第二夫人にしてあげるよ」
突如突きつけられたその言葉は、刃物よりも鋭く胸を貫いた。
二人の無邪気な笑顔が、
逆に残酷なものにしか見えない。
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