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トランタ目線1

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―――では、公爵子息失礼致します―――

最後まで名前を呼ぶこと無く、スティールは面倒くさそうに微笑むと部屋を出ていった。

スティールがつけていた優しくも爽やかな香水が甘く鼻に残っている。

素直な感情で声を出し、くるくるとよく変わる表情。

ほんとうに面白い。

「そんなに、気に入ったの?ニヤニヤして気持ち悪いよ」

「かなり、ですよ。それも子爵令嬢はとても嫌がってましたからね、見ていて可哀想なくらいでした」

「確かに帰る時少し見たが、とても疲れていたね」

アトラスとイグニスが呆れた声で責めるように言った。

「愛するスティールに浸っているのに、酷い言い方するな。一目惚れなんだ。運命の相手なんだ」

素直に答えたのに、何故こいつらは胡散臭い顔をするんだ?

スティールとの茶会が終わり、現実に引き戻されるようにアトラスの待つ執務室に行き、肝要の仕事をしている。

本当ならまだスティールといたかったが、如何せんそうもいかない案件がある。

「どこがそんなに気に入ったの?」

前に座るアトラスが本気で質問してきた。

「私も知りたいです」

お茶を準備するイグニスが同じく、本気の顔で聞いてきた。

「顔が好みだった」

「悪いけど、幾らでもいるよ?」

確かに。

「そうだな。あとは声が可愛かった」

「悪いけど、それも貴族令嬢の中には幾らでもいるよ。こう言っては何だけど、トランタに相応しい立場の令嬢が他にいると思うよ」

アトラスの言っている意味はわかる。

俺は公爵家の子供だ。たとえ次男と言っても、王家の血を継ぎ、王位継承順位もそれなりに高い。

その俺が、平民に近い子爵令嬢に慕情を抱くのは、ありえない。

「だがあの時のパーティーで目が釘付けになったんだ。お前に興味がないそぶりと、声をかけた時の柔らかくも一線を引いた強い瞳が気に入った」

パーティーで、黙々と食事をするスティールは他のものと違った。

場違い、馴染めない、色々な考え方がある中で食事に逃げるのはよくある光景だ。

だが、そうはいっても少しでもパーティーに参加したい、自分と言う存在を主張したい、と言うのは常軌だ。

だが、スティールは全くホールを見向きもせず、ただ食事をしていた。

そうして、前の婚約者と話をした後怯むことなく、またアトラスの登場にも微塵の興味もなく庭園に出た。

それは、己を意志を強く持っているからだ。

だから声をかけたた。

そうして、己の目が間違いではなかったと確信した。

その上あの難しいテンポのダンスを踊り、俺の動きに合わせついてきた。

全てが完璧だった。

「スティールは、俺に出会うべきして出会ったんだ。スティールが婚約破棄され今回のパーティーに参加した。俺もまた、親父に言われ久しぶりに参加した。これを運命と言わず、なんと言うんだ?」

俺の言葉に2人は驚き言葉を失った。

「なんと言うか、おめでとう、と親友としては言うべきなんだろうが、不安だよ」

アトラスはため息をつきながら書類を俺の前に出した。

「何がだ?俺はなんの不安もない」

「はあ。もういいよ。君は言っても聞かないしね」

諦めたようにアトラスはお茶を飲んだ。

 

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