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サロンの扉を開けると、とても賑やかで楽しそうな声が聞こえてきた。
また、か。
嫌な気持ちになるのをぐっと呼吸を止めると、胸が苦しくなり少し落ち着いた。
深呼吸する。
「おはようございます、殿下、レイン殿」
近くに行き軽く会釈した。
「ああ、来たのか」
舌打ちするのを隠さず、一瞬私を見ただけで、横に座るレインに目線を移した。
「おはようスティング。遅かったね」
「王妃様に呼ばれておりました」
前の席が引かれ、座るとすぐにお茶が入れられた。
「そうなんだ。いいなあ。王妃様忙しくってあんまり会えないんだよね。あの人すっごく優しく綺麗よね」
がちゃんと持っていたカップが震えた。
優しい?あの方が?
「・・・そうね、いつもご自分の事を置いて、他の方ばかりを心配されていますものね」
「だよね。久しぶりにあうと、いっつも心配してくれるもん」
「当たり前だ、お母様はお優しい方だ」
「そうでございますね」
頑張って微笑みを作ったが、ヒクヒクと頬が震えた。
「殿下、その、私が今フィー皇子様とカレン皇女様と一緒にいるのは、来月から我が家に住まわれる為に声を掛けられ事と、小説の趣味が一緒でした。宜しければ、その小説の話をすれば、会話が弾むかと思います」
「はあ、小説?そんなもの読む訳ないだろ。この間は、無能な奴らのせいでああなっただけだ。お前の力等借りなくても、自分で話しが出来る!」
無理してるわ。でも、王妃様、私はちゃんと言ったわ。
「そうですね、分かりました。出しゃばった真似をして申し訳ありません。それと殿下、王妃様から仕立て屋が10時に来られるとの事です」
「あ、私のドレスだね!」
やはり、ね。
こくりとお茶を1口飲んだ。
カラカラになっていた口の中が気持ちいくらいに潤ってきた。
「そうだな。それなら早く行こうか」
「うん。あ、スティングはもう用意しているの?」
「はい、勿論でございます」
「また、すごく綺麗なんだろうな。私みたいにガナッシュから貰わなくてもいいんだものね。やっぱり公爵の家って凄いね」
この人は本当に、人が気にしている事を何て無邪気にズケズケと言うのだろう。
来月のパーティーは殿下の誕生祭なのだ。本来ならあなたではなく、私がドレスを頂くものなのだ。
殿下も殿下だ。
公爵令嬢だから上げなくてもいいだろう、と事も無げに言われた。高等部に入ってから何一つ、頂いたものがない。
婚約者でありながら、だ。
落ち着こう。そうよ、いつもの事だわ。
「それよりも殿下。今回は帝国の皇子様皇女様が参加されますので、入場は私でお願いします」
「ええ!嫌だよ!!何でよ、凄く楽しみにしてたのに!!スティングったらやっぱり意地悪だよ!!スティングは1杯パーティーに出てるからいいだろうけど、私は3回しかないんだよ!!ねえ、ガナッシュも嫌でしょう!?」
流石にそんな事を喚き出すとは、殿下も思っていなかったらしく、いや、私もそうだけど、とても唖然とした。
それも、レインの言う3回は、陛下、王妃様、殿下の3回なのだ。
3回しか、
ではなく、
全てに参加出来ている稀有な事なのに、本当に、
馬鹿!
な事を言っていると分かってないの?
貴族でさえも全ての参加は難しいのに、平民の立場で出席できる。
それも、そんな子供の駄々が通るような内容ではないのだ。
その上、高等部になってからその全てで、殿下との入場はレインがしているのだ。
2年前、初めて2人で登場したあの時は大騒ぎだった。
中等部まで婚約者である私が当然御一緒していた。それなのに、殿下の正装とお揃いと見えるドレスを纏い、仲睦まじく登場。
陛下も驚いていたが、王妃様のあの時の顔を覚えている。
真っ直ぐに私を見て、私の落胆の顔を笑って見ていた。
全ては王妃様か、と憎しみさえ感じた。
お父様達は抗議したが、結局また、王妃様が揉み消した。
「今回は、フィー皇子様とカレン皇女様がいるから無理なんだ。な、この埋め合わせはするからさ」
殿下も殿下だ、何故そこですぐに言い返さず、そんな宥めるような事を言うのだろう。
これは常識、いや、国交に水を差す場合も、
いや、絶対なる。
昨日の事もあるから、余計に神経を尖らすべきなのに、王妃様もあの態度という事は、大したことのないように説明したのだろう。
「ええ!?ガナッシュはスティングの味方なんだね!私が一番と言ったのにいぃ!!」
はああ、違うわよ。
そんな問題じゃないわ。
「と、とりあえず落ち着こう。な、ドレスも来てるからまず一緒に見よう」
「誤魔化されないもん。でも、仕立て屋さん来てるなら行かなきゃね」
早く行きなさいよ。
「ねえガナッシュも、スティングとじゃ嫌でしょう?」
いちいち私を見ながら言うのは止めて欲しい。
「それは・・・まあ・・・」
流石に本人の前で、それも婚約者に対してそんな事言える訳もなく、歯切れ悪く言い、
「行こう。レイン」
逃げるようにレインを引っ張って出ていった。その後を続くように控えていた王宮の王妃側のメイドも出て行った。
覚めたお茶を1口飲んだ。
「冷たいわ」
「それは、お茶ですか?人ですか?」
「・・・私の心かしら」
クルリの質問に、ぽつりと呟いた言葉に背後から息を呑む気配がした。
「帰りましょう、お嬢様。温かいお茶を屋敷でご準備致します」
「そうね、そうするわ」
持っていたカップを、思いっきりテラスの窓に投げつけた。
カチャン、と割れる音がサロンに響いた。
こんな行動初めてだったが、どうしようもない衝動に駆られた。



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