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「祭りの執行本部に行くわよ」
色々食べ満足して、皆の顔を見てそう言った。
「それなら街の中央噴水広場の近くです」
「ありがとうクルリ。案内して」
「はい、お嬢様」
クルリの後について行くと、確かに街の中央には大きな噴水があるのは知っているが、その噴水広場に大きなテントが幾つもあり、そこにテーブルがあり色々な案内の札が下がっていた。
 本部と書かれた札が見えた。
「クルリは私から右後りを、リューナイトは左後ろよく見ていて」
「わかりました」
「御意」
返事を聴き、本部の前に行った。
「どうした?祭りの案内ならあそこの案内の所で聞いたらいいよ」
若い男性が面倒臭そうに声を掛けてきた。
「いいえ、この祭りの責任者に会いに来たのです。私は、ヴェンツェル侯爵家の娘、スティングと申します」
ことりと机に紋章の入ったブローチを置き、見上げながら柔らかく微笑んだ。
一瞬考えていたが、そのブローチをじっくり見て、やっと驚きの顔つきになった。
「え!?本物・・・、いや!少々お待ちください!!」
慌てて、どこかに走っていった。
少しすると年配の男性と一緒に戻り、年配の男性は私の顔を見るなり、頭を下げた。
「こ、これは公女様!どのようなご要件でしょうか?」
私はこの男は知らないが、どこかで私を見た事があるのだろう。
それよりも、
公女様、
か。
その呼び方いいわね。何処の貴族令嬢か分からない曖昧ながらも、かつ失礼がない。
平民の貴族令嬢の呼び方なのだろう。
「初めまして。スティング・ヴェンツェルです。実はお願いがあり、来ました」
ここはあえて深窓令嬢かのような雰囲気で、たおやかに見せせた。
案の定、男は私を見惚れようにじっと見つめ、顔つきが緩んだ。
自分よりも位の高い者が腰を低く、それも丁寧に優しく対応すれば、誰だって嫌な気分などしない。
各国の要人の相手にしても、学園内での立ち位置での振る舞いにしても、私ってば以外に上手く順応出来てたな。
でも、そのお陰どの人でも問題なく相手ができる。
「お願い、ですか?それよりも、場所を移しましょまうか。このような場所では落ち着かないでしょう」
「いいえ、ここで結構です。お気遣い嬉しく思いますが、警備が少ない場所は不安ですので、こちらで大丈夫です。気を使って頂いてありがとうございます」
軽く首を傾げ微笑んだ。
噂と違うぞ、本物か?
と言う声と、
先ほど聞いた私の悪態の噂が周りからよく聞こえた。
そうね、私は傲慢で我儘な殿下の婚約者ですものね。
その私がこんな大人しく出てくるなんて思ってないわよね。
「確かにそうですね。では、ご要件を聞きましょうか」
この人の目もとても興味津々で私を見ている。
「恐れ入ります。お話というのは、日が沈んだ後川へ流す紙風船を販売していますよね?それを全てヴェンツェル侯爵家で買い取らせて頂きます。つまり、皆様に無料で渡して欲しいのです」
「本気ですか!?かなりの数がありますよ!?」
「勿論本気です。前々からヴェンツェル侯爵家の娘としてではなく、殿下の婚約者として、何か国民の為になる事をしたい、と思っておりました。殿下の婚約者として、少しでも皆様のお役に立ちたいと、いても経っても居られず、昨夜パーティを抜け出して来てしまいました。丁度夏祭りをしている。それならば、その紙風船を全て購入し、誰もが参加出来るようにすればいいのでは、と思ったのです」
「なんと素晴らしい考えですか!実はずっと前々から無料に出来ないか、と申請をしてきたのです。貧しい民は紙風船を買うことが出来ずいつも眺めているだけで不憫に思っていたのです」
勿知っている。署名と嘆願書が幾度と上がり、その度に話し合いをするが、公爵派の強い反発に却下されていた。
公爵派は税金を無駄に使うのを嫌う。
だが、ある意味正しい答えだ。
王都の街の祭りは莫大な資金が必要で昔のような飢饉がもし、襲ってきたら、と危惧しての結果だった。
「それなら良かったです。噂で聞きましたが、王妃様は慈悲深く優し方ですから、色々な事を皆様の為にしていたかと思います。もしかしたら、王妃様がされていると思っていたのですが、違ったようなので、是非お願いしたいのです」
「いや、王妃様は特に何もされませんよ。確かに噂は聞きますが、これと言って何かをしてもらってません」
「あら、そうなんですの?これだけ噂が流れているので、きっと皆様の為に様々な事をされているかと思い、殿下の婚約者としましては少しでも足元に及ぶように、と勤しむ気持ちでおりましたのに、あらあ?では王妃様は、皆様の預かり知らない場で、お優しいのでしょうね」
にっこりと、でも怪訝気に首を傾げて見せた。
「あの、公女様はどれだけ王妃様がお優しいのかご存知では無いのですか?」
「残念ながら知りません」
ふるふると首を急いで振り、少し悲しめに微笑んだ。
「私は殿下の婚約者ですが、まだ正式にその地位を頂いておりません。私に王妃様は、常日頃より厳しく殿下の婚約者としての教えを説いておりますので、まだまだ未熟なのでしょう」 
辛さそうに無理に微笑みんだ。
これは、自分でも言うのも何ですが、演技ではないので、とても辛そうに見えるでしょう。
ほらほら、この男もそうだけど、他の人達も可哀想だという顔になっている。
というか、優しい?
あれが?
私の悪態がたとえ本物でも、あれにはかなわないわ。
あんなことやこんなことや、色々言われたもの。
「ああ、申し訳ありません。少し言葉が過ぎましたね。ともかく、紙風船は全て買取らせて頂きますので、ヴェンツェル公爵家に請求は回して下さい」
「ありがとうございます。これからすぐに連絡して回ります」
「お願いしますね。それと、私の名は伏せてお願い致します。これはヴェンツェル公爵家の気持ちだと、そうお願い致します。先ほども申し上げましたが、殿下の婚約者としてまだまだ未熟でございます、たかがこのような事で名を馳せるなど、お恥ずかしい限りです」
ね、と上から目線でお願いするように言うと、納得してはいなかったが、渋々頷けいてくれた。
「残念ですが、わかりました」
「ありがとうございます。では、私時間になりましたら、紙風船を頂きに参ります」
「それでしたら今お渡ししますよ」
「御遠慮致します。私は皆様と御一緒に列に並びます。以外に待ち時間を友人とお喋りするのは楽しいですわ。あと、お忍びでこの祭りに参加していますので、そのことを考慮して頂ければ幸いです」
では、と何か言いたそう男に軽く会釈し踵を返し、皆の側に戻った。
背中から、噂と違うぞ、そんな言葉が聞こえてきて、笑みが浮かんだ。
「ここを離れましょう」
私の言葉にフィーとカレンは頷いた。
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