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本編

442 ガスマスク親子

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 朝食を食べたらマイヤーは学校、俺たちは研究所へと足を運ぶことにした。
 竜樹を入手してきたことの報告や現状把握を兼ねてである。

「……ああ、トウジさんですか、お久しぶりですどうぞ……」

 研究所の従業員入り口より事務室へと向かうと、やけに疲れた顔の経理の人。
 ちなみにこの人はアルバート商会から経理サポートとして出向してきた人だ。

「だ、大丈夫ですか?」

「ま、まだ他の人たちに比べたら……経理はマシですよ……」

「おおう」

「ご案内します」

 そう言われて、とりあえずあの親子がいる場所へと案内される。
 研究所の事務室から少し離れた工房。
 つまり研究開発したものを実際に製作する場所に二人はいるそうだ。

「アォッ!?」

 扉に差し掛かった時点で、まずポチがビクッと体を震わせた。
 そして鼻を押さえてばたりと倒れてしまう。

「ポチ!?」

「ア、アォ……」

 なんということだ、それほどまでに……やばいのか。
 マイヤーの様子を見て、薄々感じていた。
 彼女が根詰めて結構やばい状態になっていた訳である。

 だとしたら。
 だと、したら……ッ!

 超級のワーカーホリックであるあの親子はどうなる?
 ちょっとやそっとの仕事量では満足しないやつらだぞ。
 人の何倍も平気で働く、生きがいが仕事なやつらだぞ。

 俺と、真逆。
 対角線上、対極に存在するやつら。

「とりあえず、二人は中にいますから……私はこれで!」

「えっ」

 バビュンと逃げる様に立ち去ってしまう経理の人。
 なんと、マジか。
 顔が真っ青だったということは、何度かこの部屋に入ったのだろう。

 俺は、ごくりと喉を鳴らした。
 入りたくない。
 だけども、入らなきゃいけない。

 くそっ!
 ドギマギしていると。

「にゃむにゃむ……くさっ、ねえ、くさい、早く用事終わらせるし」

 俺のフードからのそのそと起きてきたジュノーが、寝ぼけながら扉を開けた。
 その瞬間、ワッと押し寄せる臭気はすごかった。
 イグニールが火属性魔法スキルを使ったら爆発するんじゃないかってくらい。
 その中で、オカロとオスローの親子は……。

「シュコー、シュコー、パパ、あれ取って、シュコー……」

「シュコー、これだね? シュコー……」

 ガスマスクの様なものをつけて、何やら作業を行なっていた。

「お前ら、そこまでするくらいなら換気しろよ!」

 なんだよこの状況。
 意味がわからないし、笑えない。
 人死んでんねんで! ポチが!

「まったく、なんでガスマスクなんだよ!」

 急いでインベントリから浄水を取り出して振りまく。
 バシャバシャバシャ。

 すると、浄水の力によって強烈な臭気が収まりつつあった。
 さすが浄水。
 浄化の力にかけては天下一品だ。

 どんな強烈な匂いでも、この通りスッキリ。
 もうこの親子まとめて浄水風呂につけてやろうかって感じだ。

「何をする、これは汚染大気の存在する場所でも飛行可能とするために作り出したものだぞ」

「そうだよ。あと、大空って空気が薄いだろう? そのために作って見て、今実験中なんだ」

 しれっとそういう髪ボサボサ親子。
 こ、こいつら……!

 まあ、確かに空気が薄かったりするのは予測できる。
 低いレベルや弱い装備だと耐えれない。

 飛行船がもし俺以外の人を乗せる前提だと。
 安全対策に入念に気を使わないといけない、とのことだった。

「それはわかるけど、異臭騒ぎになってるんですけど」

「異臭? 室内方面はしっかり密閉していたから大丈夫なはずだが……?」

 でもポチが気絶したのが何よりの証拠。
 今だってピクピクしてるし、可哀想って思わないのか!

 それに、室内方面はしっかり密閉って……。
 外部に漏れるのはもっとだめだろうに……。

 このまま文句を言っても埒が明かない。
 もしくは言い負かされると思った俺は、必殺の呪文を唱えることにした。

「オスロー、完全にポチに嫌われたな」

「ぐっ」

 そう言ってやると、オスローがガクッと足をよろつかせていた。

「どうしたんだい我が娘!?」

「だ、大丈夫だパパ。ちょっと足にきただけだ」

「足!?」

 ふはは、知っているぞ。
 オスローが、無類のモフモフ好きだってことはな。

「ポチは特に匂いにうるさいぞ」

「し、知ってるがそれが何か?」

「もう2度と抱っこしてくれない可能性すらある」

「ぐはっ!」

 オスローダウン。
 あとは親父のみだ。

「お前ら、何日間ここに籠ってた?」

「うーん、4週間くらいだね」

「1ヶ月って言えよ……」

「うん、1ヶ月。その間、ずっと閉鎖空間にいる間の空気の淀みをチェックしてたんだよ」

 大気の違いをなんとかしようとすると、密閉した空間に空気循環装置を作る様になる。
 飛行船は何日も空を飛ぶ可能性すらあるので、ひと二人が循環装置を一部つけた密閉装置でどれだけ耐えきれるか、そしてマスクをつけた状態でどれくらい耐えられるか、を測っていたそうだ。

 そして、そのハードワークに引っ張られる様に、他の研究者たちも仕事に追われる様になっていったのである。
 元C.Bファクトリー代表と、魔導機器の申し子。
 この二人がずっと研究とか仕事をしていたら、他の研究職は帰り辛い雰囲気にもなるか……。

 ちなみにマイヤーも頑張り屋さんだ。
 だから、知らない間に良くない空気がはびこっていた。

 さらに、こいつらのいる密閉された研究室からも……。
 実際によろしくない空気が漂っている。

「まあ、事情はわかったけど……何も研究続けながらする必要はないし、ある程度でやめなよ……」

「限界値ってそれだけ重要なのさ」

 娘もあかんタイプだけど、父親もやっぱりあかんタイプやんけ。
 まったく、サボる奴がいないと、すぐみんな仕事する。

 日本を見習えよ!
 あれ、俺何かおかしいこと言ってる??
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