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本編
823 おかん様2
しおりを挟む「……嫁やと?」
「はい」
嫁じゃないです、なんて嘘なんか当然つけるはずもなく。
俺は正直に頷くことしかできなかった。
こうなってしまえば、全てありのままを話すしかない。
できることはそれだけで、あとは流れだ。
「このあほんだら! あんた、また適当こいて!」
しかし、怒られるのは俺ではなく、マイヤー自身となった。
「親に恥かかしてどないすんねん!」
「ご、ごめんなさい! 堪忍してぇや!」
泣きそうになりながらペコペコと頭を下げるマイヤー。
彼女の気持ちを知っているだけに、俺はどんな顔をしたらいいのかわからなかった。
マイヤーのフォローをしても、イグニールとの関係がある。
それに娘さんを弄んだ男として印象を抱かれるかもしれない。
ハーレム持ちのイケメン、教えてくれ。
こんな時、いったいどんなフォローを入れたらいいんですか。
スーパーアドバイザーに勇者起用ワンチャン……いや、却下。
うーん、どっちに転んでもこじれるしかない。
そんな場合は、断固とした気持ちを持っておくのが一番か。
「あんたもうお尻ペンペンしてしばいたろか!」
「こ、この歳になってそれだけはあかんって!」
「何があかんのや! ほらこっちにこんかい!」
「お、お母さん流石にそれはやりすぎでは……」
20を超えた娘に、公衆の面前でお尻ぺんぺんは不味いだろ。
「あんたは黙っときや! 商売人、嘘だけはあかんやろ!」
「あっはい」
止めようとしたのだが、どやされてしまった。
勢いすごいな、デフォルトで酒を飲んだ時のマイヤーみたいな感じだ。
「せや、マイヤー。あんたに丁度ええ縁談が舞い込んできてんねん」
「え、縁談?」
「タリアスの温泉利権をぎょーさん持っとる大商会との縁談やで!」
「えっ! 初耳やねんけど! なんやそれ!」
「いやー、うちにも一人娘がおんねんって話しとったらな?」
マイヤーを膝の上に乗せたまま、マイヤー母は話し出す。
体勢を変えればいいのに、そのままだ。
まだお尻が露出されていない状況に、マイヤーはほっと一息。
それでいいのか?
アルバート家のコミュニケーションは、それがデフォルトなのか。
「向こうにも一人息子がおんねんて」
で、アルバート側がよろしければ顔合わせでもどうですか。と言われたらしい。
商会の上に立つもの同士がこういう会話をするのは……つまりそういうことだ。
政治的な目的の上で、とまではいかないが、お互いの利益を得るために行う政略結婚に近い形。
当然ながら、マイヤーの意思は関係ない。
「い、嫌や! うちは結婚はせーへん! ずっとこの先もそうやー!」
「アホ抜かすなや! うちかてあんたの気持ちは十分に尊重するつもりやったんやで?」
でもな、とマイヤー母は続ける。
「嘘までついて甘ったれた立場にいるくらいなら、いっそのこと振り切ってしまえや!」
その言葉は、地味に俺の心にも突き刺さるものだった。
「今まで適当に躱しとったけど、正式に話を持って行こうと思ってんねん」
「なんでおかんがうちのこと勝手に決めんねん!」
「あんたがフラフラしとるからやろ!」
「いや、マイヤーは決してフラフラしては……むしろギリスで良くやって──」
「──部外者が口出すなや!」
「すいません!」
こ、怖い。
いつの間にか、周りにいた人の視線が集まってきている。
これは不味い状況だ。
「マイヤーのお母さん、この場で声を荒げるのはちょっと不味いと思いますけど」
「……せやな。とりあえず一旦裏いこか」
イグニールの提案に、周りを見渡したマイヤー母はスッと鬼の形相を平静に戻した。
そしてマイヤーを担ぎ上げて裏へと向かう。
「待ってや! うちは認めへんで! 絶対嫌や! おろせええええ! めっちゃ力強いやんこのおばは──」
「──ふん!」
「ぴぎゃっ」
げ、げんこつ……。
容赦がないな、マイヤー母。
いやおばはん呼びしようとしたマイヤーが悪いのか。
「こっちやで」
ついていって良いものかと迷っていたのだが、来ていいらしい。
俺たちも店のスタッフルームへ足を運ぶことになった。
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