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027 必敗の戦場
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「こちらでございます」
少女に案内されたのは、シンプルなデザインのそこそこの広さのお部屋だった。大きなソファーが2つとローテーブルがあり、その前ではオスターマイヤー商会のお仕着せを着たロマンスグレーの上品なおじさまが立っていた。
「いらっしゃいませ。ささ、こちらへどうぞ」
僕は、おじさまに導かれてソファーに腰を下ろす。ソファーは音も立てずに僕をしっかりと優しく受け止めてくれる。固すぎず、柔らかすぎず、程好い弾力のソファーだ。たぶん、めちゃくちゃに高いのだろう。ちょっと座るのに緊張しちゃうレベルだ。
「お飲み物はいかがなさいますか?」
おじさまの問いに、僕はちょっと悩む……。
「お茶を。ミルクとお砂糖をたっぷりと入れたミルクティーを」
結局、欲望には抗えず、ミルクティーを頼む。
「かしこまりました」
おじさまが僕の言葉に顔を綻ばせる。子どもっぽいと思われたかもしれない。少し恥ずかしい。でも、こんな機会じゃないと甘い物なんて飲めないからさ。つい欲望に負けてしまった。
ミルクティーは、僕をここまで案内してくれた少女が用意してくれるようだ。少女がサイドテーブルに置かれたポットの中にくしゃくしゃの黒いゴミみたいな物を入れているのが見えた。たぶん、茶葉だろう。そうだと信じたい。
「本日は何をお求めでしょうか?」
「宝具が欲しいんだ。それもいっぱい」
「宝具ですか……」
おじさまが僕の格好を見て言う。
「ご職業は冒険者ですかな?」
「そうだよ」
「やはりそうでしたか。オスターマイヤー商会は、冒険者の方々のご活躍もあって、あらゆる宝具を取り揃えております。きっと冒険の役に立つ、お気に召す宝具が見つかると思いますよ」
おじさまが自信満々に言う。たしかに、宝具のことならオスターマイヤー商会の右に出る商会は無いだろうけど、すごい自信だ。オスターマイヤー商会に無い物は無いと言わんばかりだね。
「それは頼もしいね」
僕の求める宝具もあるといいけど……。
「失礼します」
鈴を転がしたような少女の声と共に、僕の前にティーカップが置かれた。中に入っているのは、優しい色合いのミルクティーだ。
「ありがとう」
さっそくティーカップを手に取ると、ミルクとお砂糖の甘く柔らかな香りの中に、微かに、まるで花のような芳しい香りがした。とてもあの黒いゴミみたいな見た目の茶葉から出た匂いとは思えないほど良い香りだ。茶葉って云うくらいだから元は葉っぱなんだろうけど、なんで花の香りがするんだろう? 不思議だ。
熱々のミルクティーに口を付けると、ミルクの濃厚でまろやかな甘さとお砂糖のしっかりとした甘さ、お茶のコクが口の中に広がった。美味しい。熱さに痺れた舌に感じるのは、お茶の持つ僅かな苦味だ。優しく甘くぼやけてしまいがちなミルクティーの味を、この僅かに感じるお茶の苦みが引き締めている。この僅かな苦味のおかげで、濃厚なミルクの旨味や砂糖の甘み、そしてお茶の持つ芳しいコクがハッキリと分かる。ミルクティーが子どもっぽい?そんなわけがない。ミルクティーはとても奥が深い飲み物だ。
「はぁ…」
あまりの美味しさにため息が漏れるのを抑えられなかった。ミルクティーの程好い甘さに舌や顎が痺れたようにピリピリし、半ば強制的に幸せを感じる。ヤバイよコレ、まるで危ないオクスリみたいだ。
「気に入っていただけたようですね」
前を見れば、おじさまが好々爺みたいな笑みを浮かべていた。なんだか照れくさくなる笑みだ。
「はい……。それで、宝具だけど……」
僕は恥ずかしくなって話題を変える。
「そうでした、そうでした。いったいどのような宝具をお求めでしょうか?」
僕はおじさまの質問に答えず、ズボンのポケットから七色に輝くコインを取り出して、テーブルの上に置いてみせる。
「ミスリル貨、ですか」
おじさまが少し驚くような様子を見せた。ミスリル貨みたいな貴重品を僕みたいな若造が持っていることに驚いたのだろう。僕はおじさまの反応を見ながら次々とミスリル貨を取り出してはテーブルに並べていく。
「ッ!?」
「これは……ッ!?」
最初は少し驚く程度だった少女とおじさまが、今では顔を取り繕うこともできず、目と口が限界まで開かれた驚愕の表情を晒している。ちょっと間抜けな表情だ。
「見ての通り、お金はあるんだ。この店で最高の物を用意してよ」
「は、はい……」
僕の言葉に、おじさまが間抜けな表情を浮かべたまま、ぎこちなく頷く。こちらの先制攻撃としては上手くいったかな?
僕は商人相手に舌戦なんてできないからね。ちょっと策を弄させてもらった。名付けて『大金で目を眩ましちゃおう作戦』である。最初に大金を見せつけて、相手の思考能力を奪う作戦だ。効果があるのかは分からないけどね!でも、おじさまの様子を見ると、多少は効果がありそうだね。
◇
「うーん……」
この結果はどう見るべきだろうな…?
欲しい物は全て手に入ったけど、勧められるがままに予定に無かった物までいろいろと買ってしまった。結果、僕は全てのミスリル貨を払うことになってしまった。
ミスリル貨って使うと鑑定のギフト持ちが呼ばれるんだね。真贋鑑定するって言われたから驚いたけど、ミスリル貨の価値を考えれば当然かな。普通のミスリルよりも価値が高いからね。普通は鑑定書が付いてるらしいんだけど、もしかしたら、あのミスリル貨が入っていた箱の中に一緒に入ってたのかな。
「やっぱり負けだよな…?」
僕の小細工なんて意味が無かったね。普通に相手の口車に乗っていろいろと買わされちゃった。いや、セットで買うとお買い得だって勧めてくるんだよ…。今だけの限定価格だって言うんだよ…。しかも、思わず欲しくなるような宝具を勧めてくるんだよなぁ…。お金はあるからとついつい買っちゃったよ…。そしたら全てのミスリル貨が無くなってしまった。悪銭身に付かずだっけ? 昔の人は上手いこと言うなぁ……。
「でも……」
この宝具たちがあれば、もう「ポーターもどき」なんて呼ばせない。完全に宝具の力頼りだけど、今の僕は“ガチポーター”をも凌駕するレベルだよ!あぁ、早く皆にお披露目したい! 次の冒険が楽しみだ。
「楽しみ……か」
冒険が楽しみなんて、いったいいつぶりだろう…?
「早く明日にならないかな……」
少女に案内されたのは、シンプルなデザインのそこそこの広さのお部屋だった。大きなソファーが2つとローテーブルがあり、その前ではオスターマイヤー商会のお仕着せを着たロマンスグレーの上品なおじさまが立っていた。
「いらっしゃいませ。ささ、こちらへどうぞ」
僕は、おじさまに導かれてソファーに腰を下ろす。ソファーは音も立てずに僕をしっかりと優しく受け止めてくれる。固すぎず、柔らかすぎず、程好い弾力のソファーだ。たぶん、めちゃくちゃに高いのだろう。ちょっと座るのに緊張しちゃうレベルだ。
「お飲み物はいかがなさいますか?」
おじさまの問いに、僕はちょっと悩む……。
「お茶を。ミルクとお砂糖をたっぷりと入れたミルクティーを」
結局、欲望には抗えず、ミルクティーを頼む。
「かしこまりました」
おじさまが僕の言葉に顔を綻ばせる。子どもっぽいと思われたかもしれない。少し恥ずかしい。でも、こんな機会じゃないと甘い物なんて飲めないからさ。つい欲望に負けてしまった。
ミルクティーは、僕をここまで案内してくれた少女が用意してくれるようだ。少女がサイドテーブルに置かれたポットの中にくしゃくしゃの黒いゴミみたいな物を入れているのが見えた。たぶん、茶葉だろう。そうだと信じたい。
「本日は何をお求めでしょうか?」
「宝具が欲しいんだ。それもいっぱい」
「宝具ですか……」
おじさまが僕の格好を見て言う。
「ご職業は冒険者ですかな?」
「そうだよ」
「やはりそうでしたか。オスターマイヤー商会は、冒険者の方々のご活躍もあって、あらゆる宝具を取り揃えております。きっと冒険の役に立つ、お気に召す宝具が見つかると思いますよ」
おじさまが自信満々に言う。たしかに、宝具のことならオスターマイヤー商会の右に出る商会は無いだろうけど、すごい自信だ。オスターマイヤー商会に無い物は無いと言わんばかりだね。
「それは頼もしいね」
僕の求める宝具もあるといいけど……。
「失礼します」
鈴を転がしたような少女の声と共に、僕の前にティーカップが置かれた。中に入っているのは、優しい色合いのミルクティーだ。
「ありがとう」
さっそくティーカップを手に取ると、ミルクとお砂糖の甘く柔らかな香りの中に、微かに、まるで花のような芳しい香りがした。とてもあの黒いゴミみたいな見た目の茶葉から出た匂いとは思えないほど良い香りだ。茶葉って云うくらいだから元は葉っぱなんだろうけど、なんで花の香りがするんだろう? 不思議だ。
熱々のミルクティーに口を付けると、ミルクの濃厚でまろやかな甘さとお砂糖のしっかりとした甘さ、お茶のコクが口の中に広がった。美味しい。熱さに痺れた舌に感じるのは、お茶の持つ僅かな苦味だ。優しく甘くぼやけてしまいがちなミルクティーの味を、この僅かに感じるお茶の苦みが引き締めている。この僅かな苦味のおかげで、濃厚なミルクの旨味や砂糖の甘み、そしてお茶の持つ芳しいコクがハッキリと分かる。ミルクティーが子どもっぽい?そんなわけがない。ミルクティーはとても奥が深い飲み物だ。
「はぁ…」
あまりの美味しさにため息が漏れるのを抑えられなかった。ミルクティーの程好い甘さに舌や顎が痺れたようにピリピリし、半ば強制的に幸せを感じる。ヤバイよコレ、まるで危ないオクスリみたいだ。
「気に入っていただけたようですね」
前を見れば、おじさまが好々爺みたいな笑みを浮かべていた。なんだか照れくさくなる笑みだ。
「はい……。それで、宝具だけど……」
僕は恥ずかしくなって話題を変える。
「そうでした、そうでした。いったいどのような宝具をお求めでしょうか?」
僕はおじさまの質問に答えず、ズボンのポケットから七色に輝くコインを取り出して、テーブルの上に置いてみせる。
「ミスリル貨、ですか」
おじさまが少し驚くような様子を見せた。ミスリル貨みたいな貴重品を僕みたいな若造が持っていることに驚いたのだろう。僕はおじさまの反応を見ながら次々とミスリル貨を取り出してはテーブルに並べていく。
「ッ!?」
「これは……ッ!?」
最初は少し驚く程度だった少女とおじさまが、今では顔を取り繕うこともできず、目と口が限界まで開かれた驚愕の表情を晒している。ちょっと間抜けな表情だ。
「見ての通り、お金はあるんだ。この店で最高の物を用意してよ」
「は、はい……」
僕の言葉に、おじさまが間抜けな表情を浮かべたまま、ぎこちなく頷く。こちらの先制攻撃としては上手くいったかな?
僕は商人相手に舌戦なんてできないからね。ちょっと策を弄させてもらった。名付けて『大金で目を眩ましちゃおう作戦』である。最初に大金を見せつけて、相手の思考能力を奪う作戦だ。効果があるのかは分からないけどね!でも、おじさまの様子を見ると、多少は効果がありそうだね。
◇
「うーん……」
この結果はどう見るべきだろうな…?
欲しい物は全て手に入ったけど、勧められるがままに予定に無かった物までいろいろと買ってしまった。結果、僕は全てのミスリル貨を払うことになってしまった。
ミスリル貨って使うと鑑定のギフト持ちが呼ばれるんだね。真贋鑑定するって言われたから驚いたけど、ミスリル貨の価値を考えれば当然かな。普通のミスリルよりも価値が高いからね。普通は鑑定書が付いてるらしいんだけど、もしかしたら、あのミスリル貨が入っていた箱の中に一緒に入ってたのかな。
「やっぱり負けだよな…?」
僕の小細工なんて意味が無かったね。普通に相手の口車に乗っていろいろと買わされちゃった。いや、セットで買うとお買い得だって勧めてくるんだよ…。今だけの限定価格だって言うんだよ…。しかも、思わず欲しくなるような宝具を勧めてくるんだよなぁ…。お金はあるからとついつい買っちゃったよ…。そしたら全てのミスリル貨が無くなってしまった。悪銭身に付かずだっけ? 昔の人は上手いこと言うなぁ……。
「でも……」
この宝具たちがあれば、もう「ポーターもどき」なんて呼ばせない。完全に宝具の力頼りだけど、今の僕は“ガチポーター”をも凌駕するレベルだよ!あぁ、早く皆にお披露目したい! 次の冒険が楽しみだ。
「楽しみ……か」
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「早く明日にならないかな……」
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