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035 勇者体験②
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結果から言えば、3人の【勇者】化は、いろいろな発見があり、やって良かったと言えるものだった。
「見て見て! すっごい速ーい!」
そう言ってキャッキャと楽しそうにはしゃぐマルギット。反復横飛びをやっているようだけど、移動が速すぎて僕にはマルギットが2人に分身しているように見えてしまうほどだ。他にも洞窟の壁をグルリと走り回ったり、すごい飛距離の超ジャンプをしたり、最終的には、なにも無いはずの空を足場にして空間移動までしていた。アンナがやっているのを見ていたから知っているけど、【勇者】は空もピョンピョンと跳べるのだ。わりと難しいと聞いた覚えがあるけど、それをこの短時間で覚えるなんて、マルギットは才能があるのかもしれない。ただ、残念な点もあった。
「これはびみょーっぽい……」
そう言うマルギットの手にはクロスボウが握られている。クロスボウは、誰が使っても威力が変わらないという利点があるけど、【勇者】になっている今、その利点は欠点へと変わっていた。【勇者】のマルギットがクロスボウを撃っても、クロスボウの威力が上がる訳がないのである。メイン武器がクロスボウであるマルギットには無視できない問題だ。
ただ、足は速くなるし、耐久力も上がる。釣り役という危険な役目をこなすマルギットの生存能力が上がるのは大きな利点だと思う。マルギットが【勇者】になるのはアリだと思う。特に、初めて行くダンジョンの斥候役の時なんかは必須と言ってもいいかもしれないね。
「うふふ、あははははは。燃えてしまいなさいな!」
次に【勇者】になったのは、イザベルだ。イザベルはなんというか、圧巻だった。元々イザベルの魔法は、パーティのメイン火力だったけど、【勇者】になって、その威力も規模も桁違いに上昇している。もうイザベル1人だけでいいんじゃないかなと思えてしまうほどだ。元々【勇者】とは、剣に魔法に堪能だという情報があったけど、アンナもルイーゼもラインハルトも剣ばかりで魔法は使ってこなかった。【勇者】というのは、その高い身体能力から繰り出される剣技も強力だけど、【勇者】の扱う魔法は、それに輪をかけて圧倒的なまでに強力だった。その威力、殲滅力には舌を巻く。ぐるぐるだ。
「ほぅ……」
イザベルが熱に浮かされたような熱い吐息を吐く。
「すごいわ。次から次へと魔力が溢れてくる。消費が間に合わないほどよ」
イザベルによると、【勇者】になると、ほぼ無尽蔵の魔力を手にすることができるらしい。使っても使っても使いきれないほどの魔力。その魔力で高威力の魔法を連発できる。
「うふふ。精霊たちの方が先に疲れてしまわないか不安なほどよ」
イザベルのギフトは【エレメンタラー】。彼女は精霊魔法の使い手だ。精霊魔法というのは、普通の魔法や魔術とは少し違う。精霊に魔力を捧げ、精霊にお願いして魔法を起こしてもらっているらしい。僕は魔法が使えないからよく分からないけど、精霊魔法は精霊が主体の分、術者の損耗は軽微なので高威力、大規模な魔法を連発して行使できるのが特徴みたいだ。でも、どれほどの魔法を操れるかは契約している精霊の格によるらしいので、【勇者】になるメリットは無尽蔵の魔力が手に入るくらいだね。それでも十分なくらい強力だけどさ。魔法という切り札が無限に切れるわけだから。
イザベルが【勇者】になった時の殲滅力には目を瞠るものがあった。相手がたくさんのモンスターの場合は、ラインハルトよりもイザベルを【勇者】にした方が良いかもしれないね。場合によって人選を変えた方が良さそうだ。
「えいッ…!」
錫杖で殴られたコボルトの頭がトマトみたいに潰れ、ボフンッと白い煙となって消える。リリーだ。リリーがコボルトを殴り殺していた。
「あぁあ、ああっ…!」
最後に【勇者】になったのは、リリーだった。【勇者】になったリリーは目をトロンとさせて頬を上気させ、唇が僅かに開いた恍惚と表現するのが相応しいほど、なにかに浮かされたような表情をしていた。
正直に言うと、僕はリリーにあまり期待していなかった。彼女はヒーラーだ。【勇者】になったところで、それは変わらないだろうと思っていた。思っていたんだけど……。
僕はリリーを甘く見ていたらしい。彼女は【勇者】になると、前衛に躍り出た。そして、錫杖でコボルトをぶっ叩き、一撃で仕留めてみせた。【勇者】になることによって、彼女は前衛でもやっていけるほどのステータスを手に入れたのだ。
最初は錫杖で、錫杖が折れてしまってからは拳や蹴りで敵を一撃屠るリリー。その姿は、ルイーゼやラインハルトに引けを取るものではなかった。
「シッ…!」
リリーの拳がコボルトの顎を捉え、その首から上を消し飛ばす。首を失ったコボルトはゆらりと倒れ、ボフンッと白い煙となって消えた。見事な一撃だ。リリーの攻撃は、回を追うごとに洗練されていく。僕はそういう肉体言語には詳しくないけど、もう一端の格闘家を名乗ってもいいんじゃないかな?
「リリーはすごいね。とっても強いよ」
「うんうん。リリたんつよつよ」
僕とマルギットの言葉を受けて、リリーがその白い頬を朱に染める。照れているようだ。かわいい。改めて見ると、小さくて可憐な彼女がコボルトをワンパンで倒すとか信じられない。
「やっと、みんなの役に立てるから…!」
そう言って両手をギュッと握ってみせるリリー。なにこの健気な生き物、かわいすぎだろ!
「見て見て! すっごい速ーい!」
そう言ってキャッキャと楽しそうにはしゃぐマルギット。反復横飛びをやっているようだけど、移動が速すぎて僕にはマルギットが2人に分身しているように見えてしまうほどだ。他にも洞窟の壁をグルリと走り回ったり、すごい飛距離の超ジャンプをしたり、最終的には、なにも無いはずの空を足場にして空間移動までしていた。アンナがやっているのを見ていたから知っているけど、【勇者】は空もピョンピョンと跳べるのだ。わりと難しいと聞いた覚えがあるけど、それをこの短時間で覚えるなんて、マルギットは才能があるのかもしれない。ただ、残念な点もあった。
「これはびみょーっぽい……」
そう言うマルギットの手にはクロスボウが握られている。クロスボウは、誰が使っても威力が変わらないという利点があるけど、【勇者】になっている今、その利点は欠点へと変わっていた。【勇者】のマルギットがクロスボウを撃っても、クロスボウの威力が上がる訳がないのである。メイン武器がクロスボウであるマルギットには無視できない問題だ。
ただ、足は速くなるし、耐久力も上がる。釣り役という危険な役目をこなすマルギットの生存能力が上がるのは大きな利点だと思う。マルギットが【勇者】になるのはアリだと思う。特に、初めて行くダンジョンの斥候役の時なんかは必須と言ってもいいかもしれないね。
「うふふ、あははははは。燃えてしまいなさいな!」
次に【勇者】になったのは、イザベルだ。イザベルはなんというか、圧巻だった。元々イザベルの魔法は、パーティのメイン火力だったけど、【勇者】になって、その威力も規模も桁違いに上昇している。もうイザベル1人だけでいいんじゃないかなと思えてしまうほどだ。元々【勇者】とは、剣に魔法に堪能だという情報があったけど、アンナもルイーゼもラインハルトも剣ばかりで魔法は使ってこなかった。【勇者】というのは、その高い身体能力から繰り出される剣技も強力だけど、【勇者】の扱う魔法は、それに輪をかけて圧倒的なまでに強力だった。その威力、殲滅力には舌を巻く。ぐるぐるだ。
「ほぅ……」
イザベルが熱に浮かされたような熱い吐息を吐く。
「すごいわ。次から次へと魔力が溢れてくる。消費が間に合わないほどよ」
イザベルによると、【勇者】になると、ほぼ無尽蔵の魔力を手にすることができるらしい。使っても使っても使いきれないほどの魔力。その魔力で高威力の魔法を連発できる。
「うふふ。精霊たちの方が先に疲れてしまわないか不安なほどよ」
イザベルのギフトは【エレメンタラー】。彼女は精霊魔法の使い手だ。精霊魔法というのは、普通の魔法や魔術とは少し違う。精霊に魔力を捧げ、精霊にお願いして魔法を起こしてもらっているらしい。僕は魔法が使えないからよく分からないけど、精霊魔法は精霊が主体の分、術者の損耗は軽微なので高威力、大規模な魔法を連発して行使できるのが特徴みたいだ。でも、どれほどの魔法を操れるかは契約している精霊の格によるらしいので、【勇者】になるメリットは無尽蔵の魔力が手に入るくらいだね。それでも十分なくらい強力だけどさ。魔法という切り札が無限に切れるわけだから。
イザベルが【勇者】になった時の殲滅力には目を瞠るものがあった。相手がたくさんのモンスターの場合は、ラインハルトよりもイザベルを【勇者】にした方が良いかもしれないね。場合によって人選を変えた方が良さそうだ。
「えいッ…!」
錫杖で殴られたコボルトの頭がトマトみたいに潰れ、ボフンッと白い煙となって消える。リリーだ。リリーがコボルトを殴り殺していた。
「あぁあ、ああっ…!」
最後に【勇者】になったのは、リリーだった。【勇者】になったリリーは目をトロンとさせて頬を上気させ、唇が僅かに開いた恍惚と表現するのが相応しいほど、なにかに浮かされたような表情をしていた。
正直に言うと、僕はリリーにあまり期待していなかった。彼女はヒーラーだ。【勇者】になったところで、それは変わらないだろうと思っていた。思っていたんだけど……。
僕はリリーを甘く見ていたらしい。彼女は【勇者】になると、前衛に躍り出た。そして、錫杖でコボルトをぶっ叩き、一撃で仕留めてみせた。【勇者】になることによって、彼女は前衛でもやっていけるほどのステータスを手に入れたのだ。
最初は錫杖で、錫杖が折れてしまってからは拳や蹴りで敵を一撃屠るリリー。その姿は、ルイーゼやラインハルトに引けを取るものではなかった。
「シッ…!」
リリーの拳がコボルトの顎を捉え、その首から上を消し飛ばす。首を失ったコボルトはゆらりと倒れ、ボフンッと白い煙となって消えた。見事な一撃だ。リリーの攻撃は、回を追うごとに洗練されていく。僕はそういう肉体言語には詳しくないけど、もう一端の格闘家を名乗ってもいいんじゃないかな?
「リリーはすごいね。とっても強いよ」
「うんうん。リリたんつよつよ」
僕とマルギットの言葉を受けて、リリーがその白い頬を朱に染める。照れているようだ。かわいい。改めて見ると、小さくて可憐な彼女がコボルトをワンパンで倒すとか信じられない。
「やっと、みんなの役に立てるから…!」
そう言って両手をギュッと握ってみせるリリー。なにこの健気な生き物、かわいすぎだろ!
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