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034 勇者体験
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昼食も終わり、いよいよ『コボルト洞窟』の下層へと降りようとする僕たち『百華繚乱(仮)』の道を阻むものがあった。リポップした中層のコボルトたちだ。さっさと倒して下層に行こうとするルイーゼたちに、僕はある提案をする。
「イザベルたちにも【勇者】を体験させたいの?」
「うん。中層のコボルト相手なら、なにかあっても対処できるでしょ? だから、イザベルとマルギット、リリーにも【勇者】の力を体験してもらうのはどうかなって。3人とも興味持ってたし」
「そうねー…」
珍しく歯切れの悪いルイーゼ。どうしたんだろう?
「あなたたちはどうしたい?」
ルイーゼがイザベルたちに問う。
「それはもちろん……」
「やるっしょ!」
「です!」
イザベルたちは乗り気だ。
「はぁー…そうよねー…。これも仕方のないことなのかしら……」
一方のルイーゼはあまり乗り気じゃないようだ。何か懸念でもあるのかな?
そんなこんなでイザベルたちにも【勇者】の力を経験してもらうことになった。まずはルイーゼとラインハルトを【勇者】から解除する。
「あぁ……」
「うっ……」
ルイーゼとラインハルトが切なそうな声を上げて、ちょっとフラつく。
「大丈夫?」
「えぇ……なんとか……」
「予想はしていましたが、これほど喪失感があるとは……」
あぁ、そういえば、【勇者】が解除された時って、すごい喪失感がするんだった。まるで全身から体力や気力なんかの力が一瞬にして空になったかのようなダルさに襲われることになる。2人ともよく立っていられたね。僕は王都の大通りで派手に転んだよ。
あの喪失感を思えば、ルイーゼとラインハルトから【勇者】を取り上げたのは、少し可哀想な気がするな。
「その、ごめんね?」
「いいのよ。あたしたちばっかりじゃ不公平だもの」
「そうですね。彼女たちにも平等に機会を設けるべきでしょう」
「ありがとう」
ルイーゼとラインハルトが話の分かる人で良かったよ。
「それじゃあ、最初は……」
「はいはいはーい!」
マルギットが両手を挙げて猛烈にアピールするのを無視して、僕はイザベルとリリーの様子を見る。2人とも“仕方がないね”と苦笑して頷いた。
「じゃあ、マルギットからにしようか」
「やりー! ささ、早く早く!」
好奇心にその碧の瞳をキラキラさせたマルギットは、ハッとするような美しさがあった。マルギットってこんなにかわいかったんだ。かわいい女の子がスッと近くに来てカチコチに緊張してしまう。
「って、あれー? クルクルー? もしもーし?」
マルギットが至近距離から僕の顔を覗き込む。もうキスしちゃいそうな距離だ。キスを連想してしまったからか、マルギットのつややかな唇から目が離せない。その唇が綻び、言葉が紡がれる。
「はっやくー♪ はっやくー♪」
「ハッ」
ヤッバ。すげーヤバかった。特に「くー」がヤバイ。マルギットの唇がすぼめられ、まるでキスを待っているみたいだった。あまりのヤバさに一周回って正気を取り戻したくらいだ。ヤバイ、ヤバイ。
そうだった。早くマルギットを【勇者】にしないと。
「じゃ、じゃあ、いくよ?」
「うん♪」
かわいいなーもう。デレデレしちゃいそうな僕は、口角が上がりそうになるのを必死に堪えたままマルギットを【勇者】に選択する。
「あんっ…!」
「え?」
今、マルギットから艶のある声が上がったような…?
マルギットの顔を見ると、まるで茹でられたかのように真っ赤になっていく。目とかザバザバ泳いじゃってる。
「あれ? いや、あの、その…違くて…!」
マルギットが仰け反るように僕から離れると、両手をぶんぶん振って必死に否定する。なんだか見てて可哀想になるくらいの狼狽えっぷりだ。
「あぁ、独特の快楽、全能感があるので、喘いでしまっても恥ずかしくありませんよ」
“私も声に出てしまいました”とラインハルトがすぐさま察したようにフォローを入れる。さすができる男だな。僕も見習いたいくらいだ。
「デリカシー!」
「ぐっ!?」
なぜかルイーゼにバックラーで殴られるラインハルト。なぜ?
「喘いでないもん……違うもん……」
マルギットが真っ赤な顔を手で隠してしゃがみ込んでしまった。これ、どうしたらいいの?
◇
「んっあはぁっ…!」
イザベルが艶やかな吐息を吐きつつ自分の体を抱きしめる。腕によって締め付けられ、胸がより強調されている。艶のある吐息といい、今のイザベルの姿は、心が揺さぶられるほど妖艶さがあった。
「んふふっ。すごいの、ね?」
薄く上気したイザベルの潤んだ瞳で見つめられると、おかしくなってしまいそうだ。
と、その時、眩しい金色のカーテンが目の前にかかる。
「ちょーっと、ちょと、ちょっと! なに見つめ合ってるのよ!」
ルイーゼだ。ルイーゼが僕とイザベルの間へと入り込んでいた。
「あら? ふふふっ。ごめんなさいね?」
イザベルが毒気を抜かれたような笑顔をしてルイーゼに謝っている。イザベルから妖艶な雰囲気が薄れ、僕はハッと我に返る。気が付くと、右腕がイザベルに向かって少し上げられていた。僕はこの右手で何をしようとしたんだろう?
「イザベルたちにも【勇者】を体験させたいの?」
「うん。中層のコボルト相手なら、なにかあっても対処できるでしょ? だから、イザベルとマルギット、リリーにも【勇者】の力を体験してもらうのはどうかなって。3人とも興味持ってたし」
「そうねー…」
珍しく歯切れの悪いルイーゼ。どうしたんだろう?
「あなたたちはどうしたい?」
ルイーゼがイザベルたちに問う。
「それはもちろん……」
「やるっしょ!」
「です!」
イザベルたちは乗り気だ。
「はぁー…そうよねー…。これも仕方のないことなのかしら……」
一方のルイーゼはあまり乗り気じゃないようだ。何か懸念でもあるのかな?
そんなこんなでイザベルたちにも【勇者】の力を経験してもらうことになった。まずはルイーゼとラインハルトを【勇者】から解除する。
「あぁ……」
「うっ……」
ルイーゼとラインハルトが切なそうな声を上げて、ちょっとフラつく。
「大丈夫?」
「えぇ……なんとか……」
「予想はしていましたが、これほど喪失感があるとは……」
あぁ、そういえば、【勇者】が解除された時って、すごい喪失感がするんだった。まるで全身から体力や気力なんかの力が一瞬にして空になったかのようなダルさに襲われることになる。2人ともよく立っていられたね。僕は王都の大通りで派手に転んだよ。
あの喪失感を思えば、ルイーゼとラインハルトから【勇者】を取り上げたのは、少し可哀想な気がするな。
「その、ごめんね?」
「いいのよ。あたしたちばっかりじゃ不公平だもの」
「そうですね。彼女たちにも平等に機会を設けるべきでしょう」
「ありがとう」
ルイーゼとラインハルトが話の分かる人で良かったよ。
「それじゃあ、最初は……」
「はいはいはーい!」
マルギットが両手を挙げて猛烈にアピールするのを無視して、僕はイザベルとリリーの様子を見る。2人とも“仕方がないね”と苦笑して頷いた。
「じゃあ、マルギットからにしようか」
「やりー! ささ、早く早く!」
好奇心にその碧の瞳をキラキラさせたマルギットは、ハッとするような美しさがあった。マルギットってこんなにかわいかったんだ。かわいい女の子がスッと近くに来てカチコチに緊張してしまう。
「って、あれー? クルクルー? もしもーし?」
マルギットが至近距離から僕の顔を覗き込む。もうキスしちゃいそうな距離だ。キスを連想してしまったからか、マルギットのつややかな唇から目が離せない。その唇が綻び、言葉が紡がれる。
「はっやくー♪ はっやくー♪」
「ハッ」
ヤッバ。すげーヤバかった。特に「くー」がヤバイ。マルギットの唇がすぼめられ、まるでキスを待っているみたいだった。あまりのヤバさに一周回って正気を取り戻したくらいだ。ヤバイ、ヤバイ。
そうだった。早くマルギットを【勇者】にしないと。
「じゃ、じゃあ、いくよ?」
「うん♪」
かわいいなーもう。デレデレしちゃいそうな僕は、口角が上がりそうになるのを必死に堪えたままマルギットを【勇者】に選択する。
「あんっ…!」
「え?」
今、マルギットから艶のある声が上がったような…?
マルギットの顔を見ると、まるで茹でられたかのように真っ赤になっていく。目とかザバザバ泳いじゃってる。
「あれ? いや、あの、その…違くて…!」
マルギットが仰け反るように僕から離れると、両手をぶんぶん振って必死に否定する。なんだか見てて可哀想になるくらいの狼狽えっぷりだ。
「あぁ、独特の快楽、全能感があるので、喘いでしまっても恥ずかしくありませんよ」
“私も声に出てしまいました”とラインハルトがすぐさま察したようにフォローを入れる。さすができる男だな。僕も見習いたいくらいだ。
「デリカシー!」
「ぐっ!?」
なぜかルイーゼにバックラーで殴られるラインハルト。なぜ?
「喘いでないもん……違うもん……」
マルギットが真っ赤な顔を手で隠してしゃがみ込んでしまった。これ、どうしたらいいの?
◇
「んっあはぁっ…!」
イザベルが艶やかな吐息を吐きつつ自分の体を抱きしめる。腕によって締め付けられ、胸がより強調されている。艶のある吐息といい、今のイザベルの姿は、心が揺さぶられるほど妖艶さがあった。
「んふふっ。すごいの、ね?」
薄く上気したイザベルの潤んだ瞳で見つめられると、おかしくなってしまいそうだ。
と、その時、眩しい金色のカーテンが目の前にかかる。
「ちょーっと、ちょと、ちょっと! なに見つめ合ってるのよ!」
ルイーゼだ。ルイーゼが僕とイザベルの間へと入り込んでいた。
「あら? ふふふっ。ごめんなさいね?」
イザベルが毒気を抜かれたような笑顔をしてルイーゼに謝っている。イザベルから妖艶な雰囲気が薄れ、僕はハッと我に返る。気が付くと、右腕がイザベルに向かって少し上げられていた。僕はこの右手で何をしようとしたんだろう?
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