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048 不安恐怖嫉妬
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「それよりも! よ!」
暗く重たい話が続き、沈黙が支配しそうになった部屋の中に、ルイーゼの明るい元気な声が響いた。空気を変えようとしているのだろう。
「なになにー?」
マルギットが語尾も上がり調子でルイーゼの作った流れに乗ってくる。
「やっぱり、あたしなんかよりイザベルかハルトがリーダーになるべきよ! 今も話を進めてるのは2人だったし! 2人ともあたしよりも全然頭良いし! 絶対そう!」
うーん……チェンジした話題もちょっと暗めだね。これにはさすがのラインハルトも苦笑いだ。
「そういえば、元々そういう話でしたね」
「そうだったわね」
いつの間に僕のギフトが危ないって話になったんだろうね?
ルイーゼのリーダー譲渡宣言に、ラインハルトとイザベルは、揃って眉尻を下げて困ったような様子を見せた。2人とも気が乗らないらしい。
「先程も言いましたが、やはりリーダーにはルイーゼが良いと思います」
「私もそう思うわ」
「なんでよ!?」
ルイーゼの悲鳴のような声には、不安や恐怖の感情が入り混じっていた。彼女はたぶん怖いのだ。また間違った決定を下して、仲間を危険に曝すことを恐れている。一度間違えたことで、自信を失くしてしまっている。
「私とイザベラは、リーダーにとって、最も大切なものを持っていません。リーダーとして不適格です」
「最も大切なもの?」
何だろう? 僕から見て、ラインハルトとイザベルは冷静沈着だし、頼りになるリーダーでもおかしくない人たちだと思う。特にラインハルトなんて、ルイーゼよりもリーダーっぽいと感じることが多いほどだ。
「リーダーとして最も大切なもの。それは主体性です」
「しゅたいせい…?」
ルイーゼがよく分かっていないのか首を傾げている。僕にもよく分からなかった。主体性……どういう意味だろう?
「“こう”と決めて、実行する力ですね。ルイーゼ、貴女の夢は何ですか?」
「夢? 冒険者の一番星だけど?」
へぇー。ルイーゼの夢って初めて聞いたな。一番星という表現は独特だけど、なんとなく言いたいことは分かる。
ここツァハリアス王国は、その地に多数のダンジョンを抱えるダンジョン大国だ。ダンジョンから物資を持ち帰る冒険者を優遇することで大いに繁栄している冒険者大国でもある。その首都、冒険者の聖地とまで謳われる王都では、当然冒険者たちへの関心が高い。一部のトップ冒険者たちは、まるでスターやアイドルのように扱われ、ファンクラブもあるくらいだ。実は、冒険者ギルドも将来冒険者になる若者が増えるように冒険者のアイドル化に熱心だったりする。アンナにも新聞社のインタビューに応えるように冒険者ギルドから依頼があったりもしたっけ……。
「そうです。冒険者の一番星になりたいというその気持ち。そして、実際に冒険者になり、今ではダンジョンを3つも攻略したその行動力。それらは、リーダーにとって最も大切なことだと思います」
「でも、それはみんなにも言えることでしょ? みんなだって冒険者になったし、一緒にダンジョンも攻略してきたじゃない。あたしだけが特別なわけじゃないわ」
「いいえ。貴女は特別なんです、ルイーゼ。なぜなら、貴女の夢が私たちを今に導いたのですから」
「どういうことよ?」
難しい顔をするルイーゼじゃなくても疑問に思うだろう。ラインハルトの話はちょっと抽象的すぎる気がする。
「皆、貴女の夢に影響されたんですよ。貴女が誘ってくれたから、私たちは冒険者になったんです。貴女が私たちをここまで引っ張って来たんですよ。そうでなければ、私は親の言う通り兄のスペアとして木工職人になっていたでしょう。イザベルはどうですか?」
「私? そうね、私は元から夢と呼べるような夢は持っていなかったから。ルイーゼの夢に一緒に乗せてもらっているだけよ。この子1人じゃ危なっかしいでしょ?」
「これ、あーしらも言う流れー? あーしはねー、ルイルイに誘われてー、楽しそうだったから冒険者になったんだよーん」
「仲間外れ、は嫌……みんな、一緒…!」
「みんな……」
なんだか眩しいな。長い年月をかけて築かれた、とても尊いものを見ているようで温かい気持ちになった。なのに僕の心には白く冷たい雪が積もっていく。分かってる。本当は羨ましいんだ。なぜ僕の幼馴染はアンナなんだ。なぜルイーゼたちと幼馴染じゃないんだ。尊く見えたルイーゼたちの絆が、今度は高い壁となって僕を阻む。僕は、ルイーゼたちと本当の仲間になれるのだろうか?
白かった雪が僕の心に触れ、黒くタールのように爛れる。醜いな。今、僕は皆に嫉妬している。仲間を羨望しているクセに、仲間に入れてと言えない自分に絶望する。そして、そんな臆病で醜い僕を見つけてほしくないと願っている。雪よ舞えよ。なにもかも白く覆い隠してほしい。冷たさに心も凍てつくだろう。そうすればなにも感じない。
「クルト!」
ルイーゼの明るい声に、ズレていた両目のピントを彼女に合わせる。雪に覆われて凍てついた心が溶け、黒く粘ついた嫉妬を洗い流す。そうして現れたほのかに色付いた心は一気に高鳴っていく。なんていうか、我ながらひどく単純だと思う。
「クルトはなんで冒険者になったの?」
「僕は……」
アンナの幻影を振り払って、僕は皆の輪の中へ歩き出した。
暗く重たい話が続き、沈黙が支配しそうになった部屋の中に、ルイーゼの明るい元気な声が響いた。空気を変えようとしているのだろう。
「なになにー?」
マルギットが語尾も上がり調子でルイーゼの作った流れに乗ってくる。
「やっぱり、あたしなんかよりイザベルかハルトがリーダーになるべきよ! 今も話を進めてるのは2人だったし! 2人ともあたしよりも全然頭良いし! 絶対そう!」
うーん……チェンジした話題もちょっと暗めだね。これにはさすがのラインハルトも苦笑いだ。
「そういえば、元々そういう話でしたね」
「そうだったわね」
いつの間に僕のギフトが危ないって話になったんだろうね?
ルイーゼのリーダー譲渡宣言に、ラインハルトとイザベルは、揃って眉尻を下げて困ったような様子を見せた。2人とも気が乗らないらしい。
「先程も言いましたが、やはりリーダーにはルイーゼが良いと思います」
「私もそう思うわ」
「なんでよ!?」
ルイーゼの悲鳴のような声には、不安や恐怖の感情が入り混じっていた。彼女はたぶん怖いのだ。また間違った決定を下して、仲間を危険に曝すことを恐れている。一度間違えたことで、自信を失くしてしまっている。
「私とイザベラは、リーダーにとって、最も大切なものを持っていません。リーダーとして不適格です」
「最も大切なもの?」
何だろう? 僕から見て、ラインハルトとイザベルは冷静沈着だし、頼りになるリーダーでもおかしくない人たちだと思う。特にラインハルトなんて、ルイーゼよりもリーダーっぽいと感じることが多いほどだ。
「リーダーとして最も大切なもの。それは主体性です」
「しゅたいせい…?」
ルイーゼがよく分かっていないのか首を傾げている。僕にもよく分からなかった。主体性……どういう意味だろう?
「“こう”と決めて、実行する力ですね。ルイーゼ、貴女の夢は何ですか?」
「夢? 冒険者の一番星だけど?」
へぇー。ルイーゼの夢って初めて聞いたな。一番星という表現は独特だけど、なんとなく言いたいことは分かる。
ここツァハリアス王国は、その地に多数のダンジョンを抱えるダンジョン大国だ。ダンジョンから物資を持ち帰る冒険者を優遇することで大いに繁栄している冒険者大国でもある。その首都、冒険者の聖地とまで謳われる王都では、当然冒険者たちへの関心が高い。一部のトップ冒険者たちは、まるでスターやアイドルのように扱われ、ファンクラブもあるくらいだ。実は、冒険者ギルドも将来冒険者になる若者が増えるように冒険者のアイドル化に熱心だったりする。アンナにも新聞社のインタビューに応えるように冒険者ギルドから依頼があったりもしたっけ……。
「そうです。冒険者の一番星になりたいというその気持ち。そして、実際に冒険者になり、今ではダンジョンを3つも攻略したその行動力。それらは、リーダーにとって最も大切なことだと思います」
「でも、それはみんなにも言えることでしょ? みんなだって冒険者になったし、一緒にダンジョンも攻略してきたじゃない。あたしだけが特別なわけじゃないわ」
「いいえ。貴女は特別なんです、ルイーゼ。なぜなら、貴女の夢が私たちを今に導いたのですから」
「どういうことよ?」
難しい顔をするルイーゼじゃなくても疑問に思うだろう。ラインハルトの話はちょっと抽象的すぎる気がする。
「皆、貴女の夢に影響されたんですよ。貴女が誘ってくれたから、私たちは冒険者になったんです。貴女が私たちをここまで引っ張って来たんですよ。そうでなければ、私は親の言う通り兄のスペアとして木工職人になっていたでしょう。イザベルはどうですか?」
「私? そうね、私は元から夢と呼べるような夢は持っていなかったから。ルイーゼの夢に一緒に乗せてもらっているだけよ。この子1人じゃ危なっかしいでしょ?」
「これ、あーしらも言う流れー? あーしはねー、ルイルイに誘われてー、楽しそうだったから冒険者になったんだよーん」
「仲間外れ、は嫌……みんな、一緒…!」
「みんな……」
なんだか眩しいな。長い年月をかけて築かれた、とても尊いものを見ているようで温かい気持ちになった。なのに僕の心には白く冷たい雪が積もっていく。分かってる。本当は羨ましいんだ。なぜ僕の幼馴染はアンナなんだ。なぜルイーゼたちと幼馴染じゃないんだ。尊く見えたルイーゼたちの絆が、今度は高い壁となって僕を阻む。僕は、ルイーゼたちと本当の仲間になれるのだろうか?
白かった雪が僕の心に触れ、黒くタールのように爛れる。醜いな。今、僕は皆に嫉妬している。仲間を羨望しているクセに、仲間に入れてと言えない自分に絶望する。そして、そんな臆病で醜い僕を見つけてほしくないと願っている。雪よ舞えよ。なにもかも白く覆い隠してほしい。冷たさに心も凍てつくだろう。そうすればなにも感じない。
「クルト!」
ルイーゼの明るい声に、ズレていた両目のピントを彼女に合わせる。雪に覆われて凍てついた心が溶け、黒く粘ついた嫉妬を洗い流す。そうして現れたほのかに色付いた心は一気に高鳴っていく。なんていうか、我ながらひどく単純だと思う。
「クルトはなんで冒険者になったの?」
「僕は……」
アンナの幻影を振り払って、僕は皆の輪の中へ歩き出した。
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