【勇者の友人】~【勇者】のギフトの本体が、僕だった件について~戻って来いって言われたって、今更君たちを“友人”だとは思えないよ。

くーねるでぶる(戒め)

文字の大きさ
47 / 77

047 責務

しおりを挟む
「毒という表現は過激ですが、敢えて使いましょう。私たちが気を付けねばならない毒はまだあります」

 少し和んだ雰囲気を引き締めるようにラインハルトが真剣な面持ちで言う。

「まだあるの?」
「なーにー?」

 先程の発言が尾を引いているのか、ちょっと不審者を見るような目でラインハルトを見るルイーゼとマルギット。そんな2人の様子にラインハルトは一瞬、苦笑を浮かべた。

「クルトさんのもたらす勇者の力はとても強力ですが、同時にとても強力な毒も孕んでいます。私たちの人格まで歪めてしまうほどの」
「どういう、ことよ?」
「人格、が…?」
「なにそれこっわ」

 人格まで歪める……僕は嫌でもアンナを思い出してしまった。

「少し怖がらせ過ぎてしまったでしょうか。要は勇者の力を扱う私たちの意識の問題です。勇者の力を当然のものと扱えば、必ず傲慢になります。勇者アンナにもそんなエピソードがいくつかありましたね」

 たしかに、アンナには傲慢なところがあった。例を挙げるならば、封印を破って現れた邪龍を討伐した時の話が有名かな。王様に「褒美にお前を貴族にしてやろう」と言われた時、アンナは「仲間も一緒じゃないと嫌だ」と突っぱねた。ただの平民が王様に逆らうなんて尋常なことじゃない。アンナの礼儀知らずな態度は、貴族たちの顰蹙を買ったことは間違いないだろう。

 しかし、同時にアンナを褒め称えた者たちが居る。冒険者たちだ。一国の王にもへりくだらなかったアンナの態度に、仲間を思うその心に冒険者たちは喝采した。曰く、それでこそ冒険者だ、と。なんというか、冒険者の価値基準って酷く野蛮なんだ。個人の強さを至上とする弱肉強食を街の中でもやってる連中である。自分より弱い奴を見つけると、それはもう喜んで叩き出す。もっと文明的になってほしいと切に願うよ。

 まぁ、アンナの一件は王様が余裕の笑みを浮かべて「検討しておこう」と穏便に済ませてくれた。さすが、冒険者の聖地なんて云われる国で王様やってるだけあるね。懐が広い広い。ちなみに、この時アンナの言った仲間には僕は含まれていなかったというオチがある。僕だけフォンの称号が許されていない理由だね。

「あったわ! あたし、そのせいで勇者アンナってあんまり好きになれないのよね」

 クルトには悪いけど……と、少し気まずそうに言うルイーゼ。

「大丈夫。僕もアンナのことは嫌いだから」
「そうなの?」

 驚いたような、ちょっと顔を綻ばせるルイーゼは、なんとなく機嫌が良さそうに見えた。

「人は時にどこまでも愚かになれます。おそらくですが、神はそれを危惧して勇者の力を2つに分けたのではないでしょうか。クルトさんの【勇者の友人】という選定者のギフトと、勇者の力を実際に扱う人間と。私たちは、クルトさんに選ばれる人間であり続けるよう努力せねばなりません。そして、クルトさんは……」
「僕は…?」

 まただ。またラインハルトが悲しそうな哀れな者を見るような瞳で僕を見つめる。

「……人を見る目を養った方が良いでしょう」
「人を見る目?」
「はい。勇者の力はとても強大です。決して悪しき人に渡してはいけません」
「分かったよ」

 さすがの僕でも勇者の力が悪行に使われたらとんでもないことになるのは分かる。自分が一度体験したからこそ、すぐ傍で勇者の力を見続けてきたからこそ分かる。勇者って本当にズルいほど強い。そんな勇者がもし悪人だったら……その影響力は……考えるだけで恐ろしい。王都どころか、国、世界が無法地帯になる可能性だってある。

 まぁでも、悪人を勇者に指名することなんて無いだろう。僕が勇者に指名するのは『百華繚乱(仮)』のメンバーだけだろうし、皆いい人だし、そんな心配することはないと思う。

「いいえ、クルトさんは分かっていません」
「え?」
「クルトさんはこう考えたはずです。私たちパーティメンバーならそんな心配はいらないだろうと」
「えぇー…」

 エスパーかな? ラインハルトがなんか怖い。

「クルトさんは……クルトさんだけは……私たちを心の底まで信頼してはいけません。人は、変わるものです。私たちも、仮に今は良くてもどうしても変化していきます。クルトさんは、常に相手が勇者の力を与えるに相応しいかどうか考えなくてはいけません。それがクルトさんの、【勇者の友人】のギフトを持つ者の責務です。勇者の暴走を止められるのは、貴方だけなのですから。いざとなれば、私たちからも勇者の力を回収する覚悟を決めておいてください」
「え? あ、うん……」

 ラインハルトは自分に厳しすぎるんじゃないかな? もうちょっと皆のことを信頼してもいいと思う。

 あぁ、まただ。またラインハルトが悲しそうな瞳で僕を見る。

「これから貴方にはたくさんの誘惑や困難が持ち受けるでしょう。時には絶望するかもしれません。それでも、貴方はその責務から逃れることはできません。決して」

 ―――後にして思えば、僕はこのラインハルトの金言とも云うべき忠告をもっと重く受け止めるべきだった。愚か者は経験からしか学べないと云うが、それはまさに僕のことだろう。
しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

なんか修羅場が始まってるんだけどwww

一樹
ファンタジー
とある学校の卒業パーティでの1幕。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

義妹がピンク色の髪をしています

ゆーぞー
ファンタジー
彼女を見て思い出した。私には前世の記憶がある。そしてピンク色の髪の少女が妹としてやって来た。ヤバい、うちは男爵。でも貧乏だから王族も通うような学校には行けないよね。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

処理中です...