80 / 117
080 温もり
しおりを挟む
「では、失礼する」
「失礼します」
「はい、ありがとうございました……。はぁ……」
わたくし、コランティーヌは、職員室から出て行くフェルディナン殿下とエリクくんを見送り、大きなため息を吐いた。
一応、予想はしていましたよ?
予想はしていましたけど、まさか本当にアベルくんとジゼルさんが『嘆きの地下墳墓』を攻略してしまうなんて……。
ジゼルさんは特待生で入った平民の生徒で、強力なギフトを持っています。アンセルム先生のお話では、とてもよく鍛えているようで、学年でも上位の実力を持っているというお話でした。
そして、アベルくん……。
ジゼルさんが強者ならば、彼は異常です。まるで、モンスターの中にたまに出現する異常個体のような生徒。いくら武に優れる辺境出身の生徒とはいえ、十二歳で魔法を斬るという偉業を成し遂げるのは、異常と形容するしかありません。
「しかも……」
しかも、今日はなんと連続で二回も魔法を斬るという離れ業を披露したようで……。普通なら疑ってしまうような内容ですが、アベルくんだと妙に納得できてしまうのが嫌なところです。
それに、報告者があのフェルディナン殿下だとすれば、そのご報告を疑うなど不敬になってしまいます。
いくら教師と生徒の関係とはいえ、やはり王族の方の扱いは慎重にならなくてはいけませんからね。
「はぁ……」
思わずため息が出てしまいます。
元々、今回のダンジョン攻略は、一年生の能力と上級生の指導力を見るためのものです。頭の切れるフェルディナン殿下と実力の底が見えないアベルくんが組めば、それはもう『嘆きの地下墳墓』の攻略も当たり前なのかもしれませんね。
優秀過ぎる生徒を指導する立場というのは、少し憂鬱ですね。
そうではなくても、わたくしは強い人が苦手ですのに。
ですが、これも実家から逃れるため。お仕事をがんばりましょう。
◇
「ひどい臭いだったな」
「ああ、想像以上だった」
「お前はどこまで潜れた? 俺たちは第四階層まで潜ったぜ」
「俺は第五階層だ!」
「わたくし、ボスに挑戦したのですけど、負けてしまって……」
「上級生の方はさすがの強さでしたね」
夕方になると、ちょこちょことクラスメイトたちが帰ってきた。みんな疲労を浮かべた表情の中にキラキラしたものが見える。初めてのダンジョン攻略の興奮しているのかな?
「よお、アベル! 随分早いな。お前はどこまで潜ったんだ?」
教室の扉を開けて、意気揚々とやって来たエロワ。その後ろには、疲れてはいるが、どこか誇らしげなテオドールの姿も見えた。
「攻略したよ。エロワはどうだった?」
「マジかよ!? すっげーな、さすがアベルだ。俺たちもあと一歩のところまでいったんだが、ワイトが倒せなくってよぉ。でも、上級生に褒められちまったぜ!」
それでエロワはご機嫌なのか。いつもはエロいことばかり考えているどうしようもない奴だが、やる時はやる男なのだ。
そんなエロワは、チラチラとジゼルを見ていた。自分の席に座られているから、邪魔に思っているのかな?
そのことに気が付いたジゼルがエロワの席から立ち上がる。
「ごめんなさいね。アベル、あたしは戻るわ」
「おう、今日はお疲れ様」
「ええ、お疲れ様」
ジゼルが去ると、すぐにエロワが自分の席に座った。
「あの子、かわいいな。平民の子だっけ?」
「ああ、ジゼルって言うんだ」
「ジゼルちゃんか。俺もかわいい子がパートナーならよかったぜ」
そんなことを言ったエロワは、にへらと気持ち悪い笑みを浮かべた。
「でへへ。まだ椅子が温かい。これがジゼルちゃんの温もりか……。やべ、勃ってきた……」
「うわー……」
エロワの気持ち悪い言葉に、思わず鳥肌が立ってしまった。こいつヤバ過ぎだろ。なんで逮捕されないんだ? もうこいつの隣の席は嫌なんだが……。早く席替えしてくれないかなぁ。
「失礼します」
「はい、ありがとうございました……。はぁ……」
わたくし、コランティーヌは、職員室から出て行くフェルディナン殿下とエリクくんを見送り、大きなため息を吐いた。
一応、予想はしていましたよ?
予想はしていましたけど、まさか本当にアベルくんとジゼルさんが『嘆きの地下墳墓』を攻略してしまうなんて……。
ジゼルさんは特待生で入った平民の生徒で、強力なギフトを持っています。アンセルム先生のお話では、とてもよく鍛えているようで、学年でも上位の実力を持っているというお話でした。
そして、アベルくん……。
ジゼルさんが強者ならば、彼は異常です。まるで、モンスターの中にたまに出現する異常個体のような生徒。いくら武に優れる辺境出身の生徒とはいえ、十二歳で魔法を斬るという偉業を成し遂げるのは、異常と形容するしかありません。
「しかも……」
しかも、今日はなんと連続で二回も魔法を斬るという離れ業を披露したようで……。普通なら疑ってしまうような内容ですが、アベルくんだと妙に納得できてしまうのが嫌なところです。
それに、報告者があのフェルディナン殿下だとすれば、そのご報告を疑うなど不敬になってしまいます。
いくら教師と生徒の関係とはいえ、やはり王族の方の扱いは慎重にならなくてはいけませんからね。
「はぁ……」
思わずため息が出てしまいます。
元々、今回のダンジョン攻略は、一年生の能力と上級生の指導力を見るためのものです。頭の切れるフェルディナン殿下と実力の底が見えないアベルくんが組めば、それはもう『嘆きの地下墳墓』の攻略も当たり前なのかもしれませんね。
優秀過ぎる生徒を指導する立場というのは、少し憂鬱ですね。
そうではなくても、わたくしは強い人が苦手ですのに。
ですが、これも実家から逃れるため。お仕事をがんばりましょう。
◇
「ひどい臭いだったな」
「ああ、想像以上だった」
「お前はどこまで潜れた? 俺たちは第四階層まで潜ったぜ」
「俺は第五階層だ!」
「わたくし、ボスに挑戦したのですけど、負けてしまって……」
「上級生の方はさすがの強さでしたね」
夕方になると、ちょこちょことクラスメイトたちが帰ってきた。みんな疲労を浮かべた表情の中にキラキラしたものが見える。初めてのダンジョン攻略の興奮しているのかな?
「よお、アベル! 随分早いな。お前はどこまで潜ったんだ?」
教室の扉を開けて、意気揚々とやって来たエロワ。その後ろには、疲れてはいるが、どこか誇らしげなテオドールの姿も見えた。
「攻略したよ。エロワはどうだった?」
「マジかよ!? すっげーな、さすがアベルだ。俺たちもあと一歩のところまでいったんだが、ワイトが倒せなくってよぉ。でも、上級生に褒められちまったぜ!」
それでエロワはご機嫌なのか。いつもはエロいことばかり考えているどうしようもない奴だが、やる時はやる男なのだ。
そんなエロワは、チラチラとジゼルを見ていた。自分の席に座られているから、邪魔に思っているのかな?
そのことに気が付いたジゼルがエロワの席から立ち上がる。
「ごめんなさいね。アベル、あたしは戻るわ」
「おう、今日はお疲れ様」
「ええ、お疲れ様」
ジゼルが去ると、すぐにエロワが自分の席に座った。
「あの子、かわいいな。平民の子だっけ?」
「ああ、ジゼルって言うんだ」
「ジゼルちゃんか。俺もかわいい子がパートナーならよかったぜ」
そんなことを言ったエロワは、にへらと気持ち悪い笑みを浮かべた。
「でへへ。まだ椅子が温かい。これがジゼルちゃんの温もりか……。やべ、勃ってきた……」
「うわー……」
エロワの気持ち悪い言葉に、思わず鳥肌が立ってしまった。こいつヤバ過ぎだろ。なんで逮捕されないんだ? もうこいつの隣の席は嫌なんだが……。早く席替えしてくれないかなぁ。
123
あなたにおすすめの小説
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~
aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」
勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......?
お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?
ガチャで破滅した男は異世界でもガチャをやめられないようです
一色孝太郎
ファンタジー
前世でとあるソシャゲのガチャに全ツッパして人生が終わった記憶を持つ 13 歳の少年ディーノは、今世でもハズレギフト『ガチャ』を授かる。ガチャなんかもう引くもんか! そう決意するも結局はガチャの誘惑には勝てず……。
これはガチャの妖精と共に運を天に任せて成り上がりを目指す男の物語である。
※作中のガチャは実際のガチャ同様の確率テーブルを作り、一発勝負でランダムに抽選をさせています。そのため、ガチャの結果によって物語の未来は変化します
※本作品は他サイト様でも同時掲載しております
※2020/12/26 タイトルを変更しました(旧題:ガチャに人生全ツッパ)
※2020/12/26 あらすじをシンプルにしました
異世界召喚に巻き込まれたのでダンジョンマスターにしてもらいました
まったりー
ファンタジー
何処にでもいるような平凡な社会人の主人公がある日、宝くじを当てた。
ウキウキしながら銀行に手続きをして家に帰る為、いつもは乗らないバスに乗ってしばらくしたら変な空間にいました。
変な空間にいたのは主人公だけ、そこに現れた青年に説明され異世界召喚に巻き込まれ、もう戻れないことを告げられます。
その青年の計らいで恩恵を貰うことになりましたが、主人公のやりたいことと言うのがゲームで良くやっていたダンジョン物と牧場経営くらいでした。
恩恵はダンジョンマスターにしてもらうことにし、ダンジョンを作りますが普通の物でなくゲームの中にあった、中に入ると構造を変えるダンジョンを作れないかと模索し作る事に成功します。
ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた
ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。
今の所、170話近くあります。
(修正していないものは1600です)
異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
トップ冒険者の付与師、「もう不要」と言われ解雇。トップ2のパーティーに入り現実を知った。
空
ファンタジー
そこは、ダンジョンと呼ばれる地下迷宮を舞台にモンスターと人間が暮らす世界。
冒険者と呼ばれる、ダンジョン攻略とモンスター討伐を生業として者達がいる。
その中で、常にトップの成績を残している冒険者達がいた。
その内の一人である、付与師という少し特殊な職業を持つ、ライドという青年がいる。
ある日、ライドはその冒険者パーティーから、攻略が上手くいかない事を理由に、「もう不要」と言われ解雇された。
新しいパーティーを見つけるか、入るなりするため、冒険者ギルドに相談。
いつもお世話になっている受付嬢の助言によって、トップ2の冒険者パーティーに参加することになった。
これまでとの扱いの違いに戸惑うライド。
そして、この出来事を通して、本当の現実を知っていく。
そんな物語です。
多分それほど長くなる内容ではないと思うので、短編に設定しました。
内容としては、ざまぁ系になると思います。
気軽に読める内容だと思うので、ぜひ読んでやってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる