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(9)寝かしつけ係は昔話をする2

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『むかし、むかし、あるところに心優しい一匹の火龍がおりました。

 本来、火龍というのはあたたかい南の国に住む生き物です。けれど変わり者の火龍は生まれ故郷を離れ、旅をしてみたくなりました。

 南の地から、上へ上へ、どんどん上へ。

 夢中で北に向かって飛んでいるうちに、火龍は困ったことになりました。まぶたや手足にできたつららが、体の内側に食い込み、とれなくなってしまったのです。

 逆さまつげのように瞳に突き刺さるつららのせいで、うまく前が見えません。てのひらや足の裏に棘のように食い込むつららのせいで、飛ぶことはおろか、歩くこともままなりません。

 仕方なく火龍はとある雪山で体を休めることにしました。けれど、火龍は暑い地方に住む生き物です。どれだけ体が丈夫だとは言っても、雪山で体を回復させることは難しいでしょう。

 すっかり困り果てた火龍を助けたのは、雪山に住む貧しくも心温かい村人たちでした。彼らは乏しい食料を火龍に分け与え、一生懸命看病してくれました。

 まぶたのつららが溶けた火龍は、ようやく周りを見ることができるようになると、何もない村にびっくりしました。火龍の住んでいた場所は、何もしなくても頭の上から果物が落ちてくるくらい豊かで過ごしやすい土地だったからです。

 手足のつららが溶けた火龍は、またびっくりしました。土地は固く凍りついていて、大地の恵みを住人に分け与えることができなかったからです。そこは、水も土も山の中心にあるはずの炎もすべて凍りついた場所だったのです。

 火龍に差し出された食べ物は、貧しい村人が少しずつ分け合った大切なものだと知ったとき、火龍はどうして自分が旅に出たのか理解したような気がしました。

 村人たちの優しさに心うたれた火龍は、南の地に帰ることも、これ以上旅を続けることもやめ、この土地に残ることにしました。心配する村人を安心させるように龍が空に向かって咆哮をあげます。

 火龍が息を吐くと、凍りついていた山肌に緑の木々が生まれました。

 火龍が涙をこぼすと、そこには冬でも凍ることのない泉が湧きました。

 火龍が手を動かすと宝石のように色とりどりの果物があらわれ、足を踏み鳴らすと麦畑が金色に輝きました。

 驚き、喜び、歌い踊る村人たちを眺めながら、山頂近くに火龍は住処を作りました。そして火龍の住処は村人たちの手によって、今の神殿の形になったのです。

 この土地が豊かな自然に囲まれているのは、ひとえに火龍さまの加護のおかげです。

 火龍さまは今でもこの山で暮らしていらっしゃいます。さあ火龍さまに感謝の祈りを。良い子は朝まで、ぐっすりおやすみなさい』
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