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(10)寝かしつけ係は昔話をする3

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 物語を語り終えると、神子さまはますます不機嫌そうな顔になっていた。残念ながら眠りにつくことができなかっただけではなく、物語自体がお気に召さなかったらしい。……やっぱり小さい子の寝かしつけの定番のお話は、お嫌だったかしら。

「馬鹿みたいな話だ」
「あら神子さまは、火龍さまの存在を信じてはいらっしゃらないのですか」
「違う。火龍の存在を疑っているわけじゃない。こんなところにとどまらずに、さっさと自分の生まれ故郷に戻っておけばよかったんだ」

 火龍を祀る神殿で働いている神子さまがどうしてそんなことをおっしゃるのか。言ってはいけない悪口を聞いてしまったようで、思わず後ろを振り返る。よかった、誰もいない。

「この神殿にはほとんどひとが来ない。当時はどうだったか知らないが、今は必要とされていないんだろう。だから、俺は」

 ふてくされたような顔でうつむく神子さま。寂しげな横顔を見ていられなくて、慌てて私はその手をとった。

 誰だって、自分の仕事を認められたいもの。誉められたい、感謝されたいという気持ちで働いているわけではないけれど、当たり前だと思われてしまったら途端に苦しくなってしまう。

 神子さまがそんな気持ちで働いていることに気がつかなかった自分が恥ずかしい。

「神子さま! もうすぐ、恒例の夏至祭があるんです。一緒にそこに行きましょう」
「今の話の流れで、どうしてそうなる? 大体別に俺は、祭りになんて興味は……」
「まあまあ、いいじゃないですか。ちゃんと許可を取って、堂々と夜更かしをできるようにしてあげますから!」
「……酒が飲めるのか?」
「お酒はダメですが、そのぶん美味しいものをいっぱい食べましょう。串焼きとかわたあめとか!」
「本当にお前は何にもわかっていないな」

 そう苦笑しつつ、神子さまのお顔はどこか柔らかい。

 どこそこの屋台が毎年評判がいいだとか、祭りの名物といえばこれだとか盛り上がっているうちに、またいつの間にかぐっすり寝入ってしまった。
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