どうやら悪役令嬢のようですが、興味が無いので錬金術師を目指します(旧:公爵令嬢ですが錬金術師を兼業します)

水神瑠架

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感情の振り幅が大きすぎてどうしよう?(4)

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 泣きたくなるような衝動と心が揺さぶられる程の衝撃とはこういうのだと、私は強制的に理解させられた。
 知らぬ声の登場に本来なら警戒心を強めないといけないのに。
 何故か、私は声を心地よいモノだと認識しようとする。
 警戒する心と受け入れようとする心がぶつかり合う。
 心がグチャグチャにかき乱され、正常な判断を食いつぶしていく恐怖に身が震える。
 心が真っ二つに分かれてしまったみたいだ。

 なんて聞いていて心地の良い声色なんだろう。
 ――突然出て来た存在に対して何で?

 現した姿も神々しさすら感じられる程美しい。
 ――明らかにあやかしい叔母と親しい相手なんて、敵の可能性が高いのに?

 疑うのが馬鹿らしくなる。
 ――出現の仕方が明らかにあやしいのに?

 あの人を疑うなんて、あんなに優しそうな人を疑う事なんて出来ない。
 ――人が見掛けに寄らないなんて、私が一番よく知っている。

 どうして貴女はあの人を疑ってしまうの?
 ――どう考えても怪しい人物なのに、アナタはどうして疑わないの?

 どうかんがえても……。
 ――どう考えても……。

「『貴方がおかしい』」

 真っ二つに割れた心がお互いを弾劾し、その影響か頭が割れそうに痛い。
 とてつもない痛みは初めて感じるもので呻く事すら出来ない。
 目の前がぐにゃりと歪んでいる。
 平衡感覚すら定かじゃないのかもしれない。
 私は今立っているのだろうか?
 それとも実は倒れてしまっている?
 自分が今、どんな姿でいるかすら分からない。
 分かる事といえば酷い痛みに襲われている事だけだった。

「キースダーリエ嬢?!」

 殿下の声がとても遠くからかけられたように聞こえる。
 痛む頭を抑えて必死に声の方を推測して其方を見るとクロイツが同じように痛みで呻いているのが分かった。
 それと平気そうな殿下達の姿を辛うじて確認できた。
 どうやら、この痛みを感じているのは私とクロイツだけのようだ。
 
「(ああ。視界が歪む。手に水滴を感じる。もしかして私は涙を流しているの?)」

 見える景色が不安定になって、今の自身がどうしているのかさえ分からなくなっていく。
 そんな中、私は意識を失わないように歯を食いしばり、必死に先程の感覚と『言葉』を反芻していた。
 まるで意識が乖離したかのような感覚。
 あれを私は過去に経験している。
 あの時は痛みは無かった。
 けど、確かに、あの時――倒れたお兄様の所に駆け込んだ時と同じだ。
 お兄様が倒れた時、私は『わたし』と【私】に一時的にだが乖離していた。
 その時の感覚にさっきのはよく似ていた。
 つまりまた意識が乖離していたのだろう。
 けれど、何故?

「(【私】は相手を好意的に感じた。けど『わたし』は有り得ないと感じている)」

 思考が真っ二つに割れて真っ向からぶつかっている。
 この頭痛はそのせいだろうか?
 あの時は違い、体を支配される事は無いが、代わりに痛みで意識が途切れそうだ。
 落ち着け。
 落ち着くんだ、私。
 あの時と同じだとしても違うとしても、私は一人しかいないのだから。
 さぁ、落ち着いて考えなさい、キースダーリエ。
 何方の思考が私らしい?

「(そんなの突然出て来た相手を疑う『わたし』の思考に決まってる!)」

 心の中で言い切った途端、パチンと火花のような音と共に頭痛がすぅっと引いていく。
 同時に思考も鮮明になっていき、乖離していた意識も統合されていく。
 未だ目の前の存在に親しみを抱く気持ちは消えないけど、それがおかしい事だと言う意識も又芽生えた。
 頭痛が引き、それによって私は自身が膝をついている事に気づいた。
 どうやらあまりの痛みに屈んでしまったらしい。
 頭を軽く振って、親しみの感情すらも振り払った、その時。

 ピコン。

 と、何処からか機械音が耳朶を打った。
 久々だけど、何かしらの【称号】か【スキル】を習得した音だ。
 小さく「【ステータス】」と呟くと目の前に光る板が発生する。

「(どっち? ああ、スキルの所に【魅了完全遮断】ってのが増えてる。魅了? 今、私魅了されかかったって事?)」

 その意味を理解した途端、体にかかる負担を押して私はカタナを手に握ると、立ち上がり、今度は強く、敵意すら滲ませて叔母と不審者を睨みつける。
 私は今、明確に目の前の不審者から攻撃されたのだ。

「お嬢様!?」

 悲痛な声を上げるリアに私は首だけで振り向く。
 けど、リアの姿に私は内心眉を顰める。
 だって、リアは私の心配ではなく、私が睨みつけている不審者の男を心配しているようだったから。
 何時にないリアの不安げな視線に私は目を細める。
 私はリアを信頼している。
 彼女はこのような場面で、不安を全面に出し私に訴えかける事なんて、しない。
 今、彼女は【魅了】されている。
 それを私は確信する。

「リア。今、叔母の言動が不可解なのは事実ですわ。そしてそんな叔母と親しい男性を警戒する事になんの問題がありますの?」

 私の言葉に殿下達がはっと、我に返ったようだが、リアの視線は未だ私と男の間を行ったり来たりしている。
 けれど、その眸の奥は何処か揺れていた。
 そんなやり取りの間にクロイツも苦痛から解放されたらしい。
 肩に重みと温もりを感じた。
 クロイツも魅了を振り払った。
 殿下達もまだ後遺症あれど強い魅了からは解放されたようだ。
 何故、リアだけ、まだ解けていないのだろうか?
 私は瞑目すると今まで考えていた事を一度棚上げした。
 今、考えるべきはリアの魅了を解く方法だ。
 クロイツや殿下達との差異ではない。
 私はゆっくり瞼を上げると、リアを見据える。

「クロリア」

 様々な思いを込めて名を呼ぶ。
 貴女との絆はこんな魅了に負けはしない、と。
 それだけで充分だった。
 揺れていたリアの眸に確固たる光が宿る。
 私は心の中に「ああ、もう大丈夫」と安堵が広がる。
 軽く頭をふったリアは恭順を示すように頭を下げた。
 大事な人を奪われずに済んだと、安堵の気持ちを抱きつつ、私は今後こそ叔母達と向き合う。
 ……そういえばルビーンとザフィーアはどうしたのかな? と一瞬頭をよぎったが、無視する。
 今の所、制止される事も無いし、気配は近くに感じている。
 魅了がどうかかっているかは分からないが、最悪【命ずる】事も出来るし、魅了に掛かっていなければ、何かあれば出てくるだろう。
 
「叔母? 一体どういう事か御説明頂きたいですわ。魔力濃度の濃い、おかしな空間である此処が何であるか。まるで幻術をかけたのような曖昧な周辺の光景は一体何なのか。何よりも……――」

 鞘に入ったままのカタナを男に突き付ける。

「――……訳知り顔で乱入してきた上、問答無用でワタクシ達を【魅了】しようなんて言う不審者と親しい理由を」

 返答によっては敵対する事も余儀なし。
 私はそんな思いを込めて叔母を見上げた。

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