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肴
しおりを挟む「嘘でしよ……?」
だって、月山さん独身だよね?
「嘘じゃない。と言っても信じられないか」
月山さんは、 軽くため息をついた。
「……俺はこいつの精子の一部だったってだけ。これからも父親だなんて認めない」
かけていたサングラスを少しずらして、ヨシは目の前の月山さんを思い切り睨み付けた。
「……2度と出過ぎた真似すんな、今度やったら、あんたの会社に時限爆弾仕掛けるからな」
恐ろしい捨て台詞を吐き、カツカツカとブーツを鳴らしながら、オフィス街から颯爽と消えていった。
その後ろ姿も、超、美しかった。
「……ヨシが、″ 時限爆弾仕掛けてやるからな ″ だって……」
さっきまで目の前にいたのが信じられなくて、今頃、足がカタカタと震えだしていた。
「おい、ここで漏らすなよ」
そんな月山さんの下品な突っ込みも全然耳に入ってなくて、
「……月山さん、本当にヨシのお父さんなんですか?」
月山さんの袖を掴んで、何とか立っているのが精一杯だった。
「……戸籍上はそうじゃないんだけどな」
「 どういうことですか?」
本当に、本当に、あの【Virtue】の、ヨシのお父さん?
目の前にいる月山さんの顔を少し下から覗き込んで、
『あぁ……この目だ』
初日に、私を見下ろすこの人の顔を見て、確かに誰かに似ていると思ったことを思い出したのだった。
――ヨシがよくやる、憂いを含んだ流し目の表情に似ている……。
やっぱり、親子……。
恍惚とした私の顔を見た月山さんは、少し複雑そうに笑っていた。
「事情は聞きたければおいおい話してもいい、だけど、この事は……」
「わかってます、誰にも言いません!てか、もぉ胸一杯で何が何だか……人に話す余裕なんて」
「……頼むよ」
私達は、歩調を合わせて歩き出した。
「だいぶ遅くなったな。まさか、ヨシノリが俺を待ってるなんて思わなかったもんな」
……人には言えない、ワケアリの親子関係を抱えた月山さんの歓迎会。
先に入店していた社員たちは、首を長くして待っていたようだ。
「月山さん、遅かったじゃないですか?!」
「すまない、急な用が入って」
「あれ? 後藤さんも一緒に入ってきた! あっやしー!」
と、余計な事を言ったのは、勿論 本山さんで、
「私はポカミスをしたので……」
「あははー、わかってるわよー! 私が教えてあげたんだもーん」
「本山さん、もう、酔ってますね」
「そーんなことないわよー♪」
酔った勢いかどうかは知らないけれど、主役の月山さんの側にベッタリ張り付いて甘えまくっていた。
一方。
彼のゲイ疑惑が払拭された私は、他、何の楽しみもなくて……。
皆に酒をすすめられる美中年を、大好きなヨシの姿とスライドさせては、それを酒の肴にして、ひたすら飲みまくり……。
珍しく、記憶が無くなるまで酔っぱらっていた。
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