美獣と眠る

光月海愛(こうつきみあ)

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  本当にあと数曲でライヴも終わるという頃、会場端にいた警備員がやっと、私の側に寄ってきた。

「大丈夫ですか?」

 遅いわ!
 そう言いたいのを堪えて、

「すみません、頭だからか血が止まらなくて……」

 遠慮なく助けを求める。

 もう、最後まで聴いていたい、とか、メンバーの姿を追いかけたい、とかのバンギャ精神は血とともに飛び散ったよう。

「こちらへどうぞ」

 まだ熱気渦巻く会場を出て、廊下突き当たりのスタッフルームへと連れてきて貰った。

 私の頭を見た女性スタッフが、

「傷は表面だけで、カッターで切ったみたいなのが一センチほどですね。縫う必要はないと思いますけど、とりあえず手当てしときますね」

 事務的にパパッと処置をしてくれた。
 確かに、血は止まったようだ。

「暫く休んでらしていいですよ。私達片付けがありますので。あ、メンバーの部屋には行ってはダメですよ!」

 慌ただしくスタッフは消えて、ポツン…と1人とり残されてしまった。
 ……こんなことってある?

 会場のから聞こえたアナウンスが、

「″本日はVirtue specialライヴに足をお運び頂き誠にありがとうございました″」

 ライヴが完全に終了したことを告げて、なんだか、 最後まで堪能出来なかったことを、今頃淋しく感じていた…。

 やっぱり、痛みなんて我慢して、最後まで踏ん張れば良かったなー……。
 そう、後悔していたその時、

「あんた、本当に抜けてんな」

 入り口から、低く艶のある聞き覚えのある声が……

 ドアの開ける音にも気が付かなかったので、人が入って来ていたことに驚いた。

 「……よ、ヨシ……」

 さっきまでステージで、ファンを魅了しまくっていたカリスマボーカリストが、汗を拭きながら、ゆっくりとこちらへ近寄ってくる。

 何度見ても、この中性的な美しさには惚れ惚れとしてしまう。

 ―ーたとえ、中身はどうあっても、だ。

 何度対面しても、テンパるのは無理もないと思ってください。

「お、お疲れさまでした、あ、あの、今日はお招きあがり頂き誠に……」

 ほら。また、声が裏返ったよ。

「傷は?」

「え」
 
 そんな私を、この間とは違う、優しい目で見つめるヨシ……。

「見せてみ」

 しかも、私の髪に、傷に、触れてきたーーー。


  見せてと、言われても消毒をしてガーゼを貼り付けられた傷。

 何も見えはしないのに。
 それなのに、

「傷の多い女は好きだよ」

「へ」

 と、ヨシは、理解不能な言葉で私を翻弄する……。

 ガーゼを貼った傷を、指で撫でたり押さえたりしながら、まるで遊んでるみたい。

「あ、あの……」

 胸元ガッツリ開いたロングシャツ、汗がキラッと宝石のように光る首筋、

「なぁ、聞いていい?」

 目のやり場に困るほどセクシーさを出しまくるボーカリストを前に、

「な、なんですか?」

 どうしたらよいか分からない。

 以前はあんなにヨシとの恋ストーリーを妄想していたのに。

「あんた、アイツのどこがいいの?」

 それは、きっと、月山さんとの、リアルでの恋の予感があったからだ。











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