美獣と眠る

光月海愛(こうつきみあ)

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悪魔の微笑み

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 「む、息子じゃないですか? ファンが夢中になるの、快く思わないとは親失格ですよ?」

 ほら、テンパって言葉をちゃんと選べない。

「元々、親失格だからな俺は」

  あ。

「……すみません……」

 だけど、月山さんはたいして気を悪くした風でもなく、

「後藤」

「は、はいはい」

「限定ライヴ終わってから、飲みに行くか」

「え」

  また、私に餌をちらつかせる。

「奢るよ。プレゼン成功したご褒美だよ」

「いいんですか? 病院は?」

「その前に行っておくから」

「は、はい」

「楽しんでこいよ」

「……はい! 勿論……」

 ヨシのお母さんを今でも好きなくせに、私を惑わせて、どうしたいの?

 ……月山さんがイマイチわからない。



 ――――


 自分の気持ちも、月山さんの気持ちも分からないまま、翌日、【Virtue】の限定ライヴに臨む。

 都内の大手レコード運営のライヴハウス。
 通常と違い、すんなりと会場に入れ、最前列とまでいかなかったけれど、二列目の端に陣取ることができた。

「あの週刊誌読んでからちょっと迷ったんだよねぇ、ヨシのカリスマが崩壊したみたいでさ」

「私はむしろもっと好きになったけど、いいじゃんナルシスト!大歓迎 、俺様ヨシ!」

 開演前、ファンの会話に耳を傾けながら、ふと、リアルのヨシの攻撃性を思い出していた。


  ーーー″ アイツの女か?″

 私をあんな風に敵視していたのに、こんな特別なライヴに招待してくれたヨシの気持ちも分からない。

 本当に気まぐれな人なのかもしれないけど。


 演出のスモークとオドロオドロしいライティングにスタジオセット。
 限定ライヴでも手を抜かずに、【Virtue】らしいオープニングを見せる。

「ヨシーーーーーーーー!!」

 熱狂的な声援が飛び交うライヴハウス。
 スタンディングならではの熱気に既に押され気味の私。
 倒されてはいけないと、必死に足を踏ん張ってみせた。
 今日は、私を助けてくれる月山さんも、友達の寧々もいないのだから。

  ヨシがステージ前方に寄れば寄るほど観客が前方へ押し寄せる。

  酸素が薄くなってきたのが分かった。


「もっと暴れろ、もっと求めろ!」

 ライヴ終盤に差し掛かると、メンバーも(特にヨシが ) ファンを煽るし、ファンも余計にヒートアップして、私の背中は、後列の人達の肘や膝の鉄を食らいっぱなしでいつ倒れてもおかしくない状態だった。

 アンコール2回目。
 とうとう、決壊。

「ヨシーーーー抱いてぇぇぇ!!!」

 狂ったようにジャンプするファンに飛び蹴りされた私は、

「い…たっ!!」

 無惨にも、最前列のファンとファンの間に倒れ込み、警備員の助けも間に合わないまま、思い切り、ステージ下の壁の板に頭をぶつけてしまう。

「……たぁ…」

 顔を上げると、頭が切れて、血が出てるのが分かった。

 鳴り続けるオドロオドロしい音楽。

 響き渡るヨシの叫びに近い歌声。

 まるで、悪魔の子守唄みたいだと思った。

 そのシモベたちは、倒れた私になんか目もくれ
ず、ひたすらヨシの聖水を求め続けている。

「ヨシーーーーー!!」

「ヨシノリーーーーーっ!」


 これは、何かの儀式だろうか?

 熱が冷めるとそう思えてならない。

 傷口を押さえて、ゆっくり立ち上がった私を、マイクを持った悪魔が、楽しそうに笑って見つめていた。

 美しいその顔を歪ませてーー






























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