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甘い
しおりを挟むその日の昼休み。給湯室にて。
「ハァァぁ?! 今度は限定ライヴに当たったってー?! そんなこと何にも言ってなかったじゃんよー!!」
さすがに寧々には秘密には出来ずに、電話で報告すると、めっちゃ不審がられてしまった。
「……あー、当たったこと忘れてたというか……言いそびれてたというか……」
「そんなこと忘れる?!チケット破けたとか言うのもオカシイけど、晶、あんた最近なーんか私に隠してるでしょ??」
「そ、そんなことないよー。仕事忙しくて頭が可笑しくなったのかも」
それは本当に有ると思う。
「晶の会社、広告代理店だよねぇ? そのツテでもしかして、Virtueのメンバーと繋がったりとかしてないよねぇ?」
ドキッ!
会社のツテ、ではないけど。
「な、ないよー! 何言ってんのよー! 二流、いや三流の広告代理店だよー?」
父親とは、繋がっている。
「あーやーしー!」
「怪しくないよ! あ、それより彼氏の樋口くん元気? 最近見かけないけど」
「私の彼氏なんて興味ないくせに、ますます……」
「あっ! 昼休み終わったから電話切るね! 新しい上司がうっるさくてさぁ。じゃねっ!ばいばい!」
これ以上喋ってるとボロが出そうなので、強引に電話を切る。
話すんじゃなかった。
こっそりライヴ行けば良かったかな?
でも生粋?のバンギャというのを侮ってはいけない。
彼女らは招待されてなくても、会場に入れなくても、必ず近辺に訪れて、漏れた音や歌声を聴いて、一緒にライヴを堪能する生き物なのだから。
少し前の私がそうだったように……。
「うるせー上司で悪かったな。ついでに言わせてもらえばうちは三流の会社じゃないぞ」
電話していた私の背後に、その ″ツテ″ が現れる。
「そうですね、うるさくはないですよね」
限定ライヴのことで頭が一杯だったのに、こうやって、二人きりになると、やっぱり月山さんを意識してしまう。
「本社では煩さがられていたけどな。ここでの俺は甘い方だぞ」
皆が置きっぱなしにしている湯飲みを洗いながら、その事に気づかれないように視線を逸らした。
「……甘い? どうしてですか?」
「さぁ……。後藤がいるからかな?」
ドキッ!
「あ、」
月山さんの言葉に反応して、湯飲みを落としそうになってしまう。
「おー、大丈夫か? 割るなよ。特に本山のは百均のじゃなくて、九州の有田焼らしーぞ」
「へ、へぇ、そーだったんですか?」
あなたが惑わすようなこと平気で言うからでしょう?
おっと。あっぶなー、これ、本山さんのだよ。
早く事務所に戻ればいいのに。そんな私の動揺も知らずに月山さんは……、
「限定ライヴいつだったったけ?」
「あ、明日です!もうドキドキです!」
「そーか。明日か。 あんまり、俺は行かせたくないけどな」
「え」
「快く思えないんだよ、アイツにそこまで夢中になられるの」
「……」
また。私を、甘い言葉で惑わす。
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