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冷めていく
しおりを挟むーーーキスが痛いなんて、知らなかった。
他の人もこうなんだろうか?
ヨシの舌が、私の口の中を生き物のように這いずり回るから、ずっと大きく口開けてなきゃいけないし、そのせいで、唾液も端から溢れてきた。
キスって。
ファーストキスって、もっとキレイなモノなんじゃないの?。
まさか、
憧れの人がこんなに野獣っぽいなんて……。
全てが初めての私には、想像もできなかった。
「何、涙目になってんだよ? カマトトぶんなよ」
やっと、激しいキスから解放されて、何故か分からないけれど、目から涙が溢れてきた。
「それとも感涙ってやつか? 」
濡れた唇をシャツの袖で拭ったヨシは、私をバカにしたような目で見ている。
「……それは絶対にありません」
むしろ、逆。
「は?」
テレビ番組でワガママな性格を露出させても、週刊誌で中身を暴露されてても、私を犬呼ばわりしたりしても、
「ファンをこんな風に扱う貴方にガッカリしてます……」
全てにおいて、美しくいてほしかった。
今のキスは、ひどい。
「……ただの追っかけのくせに、ずいぶん上からだな? おい」
汚い感情を垂れ流しにされただけの私のファーストキスは、ただ、痛かった。
再び、ヨシに詰め寄られそうになった時、
「おい、何してる? 」
スタッフルームに、メンバーの一人、ドラムのアキさんが入ってきた。
「……どーぞ。お先にやっちゃってー」
そちらを振り返りもせずに、ヨシが、″シッシッ″ と追い払うような仕草をする。
アキさんは、ちょっとムッとしたたけれど、
「その子、倒れちゃった子だろ? 早く帰してやんないと終電間に合わないぞ」
ヨシとは違い、ファンに気遣う一面を見せて、部屋から早々に出ていってしまった。
ドアが閉められると、また望んでない二人きりの空間が作られて、ライヴでもないのに窒息しそうになった。
「アイツ、一番年上だからって、いつも指図すんだよな。マジムカつく」
対して、相変わらずワガママなヨシは、それさえも上からだと感じている様子。
「……あの、もう失礼します、お世話になりました」
知れば知るほど、ガッカリしてしまう。
「あ? まだ話は終わってない」
「は、離して、本当にもう行かないと……っ」
″美しき獣″ の、素顔が明かされれば明かされるだけ、熱が冷めていってしまう。
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