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美中年はやはり美青年だった

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 「話って、月山さんとの関係ですよね? 本当に何でもありませんから。お父様本人に確認されても構わないです…」

 まさか、たった一度の抱擁を、写真にまで収められていたなんて…。

 あの時、感じたフラッシュは気のせいじゃなかった。

「アイツに聞いても同じ答が返ってくるだけ。俺は真実が欲しいわけじゃないんだよ」 


 ヨシが、帰ろうとした私の腕を掴んだ。

「じゃ、何を?…」

  一体、何を考えてるのか分からない。

 そもそも、今日のライヴに私を招待したわけは…?


「試してみない?」

「は…」

「アイツと俺、どっちがお前を支配するのに相応しいか……」 

  支配って………。なんのこっちゃ。

「わかんない?  要するに俺と付き合えって言ってるんだよ」

「えぇぇえ?!」

 さっき、わたしのこと、ただの追っかけって言ってたくせに?!
 なのに、あんなキスしたり、本当に分からない。

「冗談やめてください!ファンを食いたいならいくらでもいるでしょ? なんで、よりによって……」

「お前だから、だよ」

「……え」

 ″ 後藤がいるからかな? ″

「アイツに大事にされてるお前だから、試してみたい」

 親子で、本当に分からない人たちだ。


「試してみたいとか言われても、お断りすることしかできません」

「お前、正気?」

「そのつもりですけど」

 イカれてるのは、間違いなく貴方でしょう?

「Virtueの俺が言ってんだぞ?  お前みたいな目立たないファンに、″ 付き合う ″ って言ってやってんだぞ」

 そこだよ。
 そんなところが、もう、ファンとか関係なくなってるんだよ。

 「……もう、ファンやめます」

 大好きなメンバーに直でファン辞退宣言。

 きっと、こんなファンはそうそうにいない。


「……あ、そ」

 美しい顔を歪ませたヨシは、再びスマホの″ ハグ ″  写真を目の前にちらつかせて、

「くだらない俺の性格ネタより、全然、お茶の間受けするゴシップだと思わない? ″  Virtueのヨシとその病床の母親を捨てた身勝手男の若い女とのオフィスラブ ″ 」

 写真をネタに脅かしにかかってきた。

 ――こんな人だったなんて。


「今の俺のイメージを払拭させるには、もってこいの悪者なんだよな、コイツ」

 自身の出生の秘密と、その父親を差し出して、芸能界で生き残ろうとする、浅はかなナルシストーー

 私の長年の夢を、一気に覚めさせてくれた。

 
「私も、月山さんも何も悪いことはしてませんよ」

「あんたはね」

「月山さんだって、今も昔も誠実な人に決まってます」

「けど、世間はそう見ないよな?」

 ヨシは、今度は財布の中から一枚の古そうな写真を取り出した。


「見てみろよ。めっさ悪そうだろ?」

「!」

 勝ち誇ったような顔をしてヨシが見せてきたのは、

「ロン毛にケバいメイク、派手な衣装、女に囲まれてくわえ煙草ときた」

  私が知らない、若いときの……


「ロックバンドで意気がってた時のアイツだよ。うちのジイサンが言うには、実際、俺の母さん以外にも女はいたらしいよ?」


  それは、それは、とても美しい顔をした青年だった。



















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