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シート
しおりを挟む「そんなに怒ることないでしょ?」
「普通は、最高のライヴのあとに男と会おうなんて気持ちにはならないだろうが」
「そんなこと人それぞれじゃない……」
「余韻を残せないなんて俺のプライドが許せないんだよ」
「……」
ここまで自尊心が高くて自己中な人だったなんて……。
二年間、この人に夢中だったことが嘘みたい。
ライヴ中にケガした頭が、またジンジンと痛み出してきた。
「アイツの下手くそな歌よりまだラジオがマシだな」
ヨシは、鳴らしていた月山さんの曲を消して、車を海沿いの公園に止めた。
荒々しかったヨシの横顔が、いつのまにか穏やかになった。
「この場所、好きなんだよな」
目の前に、きらびやかに光る夜のレインボーブリッジ。
「ここ、どこ?……」
殆どデートもしたことない私、デートスポットがわからない。
「春海ふ頭公園」
とても、静かな場所だった。
他にも車は止まっていたけれど、さほど人も多くなくて、カップルにはもってこいの場所だと思った。
あ、私たちはカップルじゃないけど。
「良く来るの?」
「……たまに」
「一人で?」
「……」
あんなに荒ぶっていたヨシが殆ど黙っている。
レインボーブリッジに神様でもいるのかしら?
憂いを含んだキレイな目が、ただ、じっと外を眺めていた。
この雰囲気、嫌いじゃないけど。
何だか普通のデートみたいな空気になって、こそばゆく感じたので、
「こ、この車なんかスゴいね、なんて車なの?外車だよね?」
たいして興味も無いことを聞いてしまった。
「アルファロメオ……なに? 外車好きなのか?」
「アルファメロン?……聞いたことないけど、目立つよね」
外車も国産車も興味はない。
そう言えばお父さんって何に乗ってたっけ?
「メロンじゃねーよ。ロメオ 」
今までの、バカにした笑いとは違う、優しい感じで口元を緩めたヨシは、
「アイツのことはもういい。あんたは、俺のどこが好きでファンになったの?」
「え」
また、急接近をしてきた。
助手席のシートが倒される。
視界にいたレインボーブリッジが消えて、目の前に艶やかな黒髪が広がった。
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