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給湯室
しおりを挟む「今日こそは白状しなさいよっ! ヨシと手を繋いでライヴハウスから出てくるなんて絶対デキてるでしょ?!あのオッサン上司も仕事関係否定したからね! 正直に話しな!」
あれから、毎日のように寧々から電話が掛かってきていた。
どんなに否定しても、疑いと、怒りはおさまらなくて。
「親友の私にまで隠し事したら許さないからからね!バンギャの間じゃ、晶、抹殺リストに上がってるんだから!当分ライヴ出入り禁止だよ!」
「抹殺……」
こわ。
「元々、もうライヴには行かないつもりだもん」
「何よ、自分は特別な存在だからプライベートで会えるってわけね?」
「そーじゃないって、仕事絡みなんだよ、本当に。あの上司が把握出来てなかっただけ」
ヨシのKanedo化粧品のイメージキャラクター起用の決定は、そういった意味では都合良かった。
「じゃ、昼休み終わるから電話切るね、そのボンヤリした上司のせいで仕事溜まってるしさー」
「ちょっ……話はまだ……」
ブツッ!
強引に電話切ったけど、何とか誤魔化せたかな。
スマホをポッケに仕舞い、給湯室から事務所に戻ろうとすると、
「仕事把握してない、ボンヤリ上司で悪かったな」
「……ひ」
また、背後に月山さんが立っていた。
「お化け見たみたいに驚くな。いっつも給湯室で人の悪口電話しやがって」
「……被害妄想ですよそれ。あ、湯飲み洗いましょうか?」
「いいよ、自分のくらい洗うから」
「そ、そーですか」
給湯室で、二人きり。
二回のハグがあったとはいえ、月山さんとはただの上司と部下。
この人は、チープなドラマみたいに、こんな所では、部下に手を出したりしないようだ。
「あー、そうだ。Kanedoの広告な、web展開して、テレビのCM用の撮影もあるみたいだぞ」
「え? CM……」
凄い。
今のテレビ業界、不況のあまりスポンサー消えてCMは番宣ばかりになってきているのに。
「いろんなパターンの広告作るみたいだ。後藤の企画書から少し外れたイメージになるけど、飯田達と一緒に打ち合わせに行ってきてくれ」
「……え、私なんかが行ってきていいんですか?」
「本来女性が主として使う化粧品を男が宣伝するんだぞ? ファンのお前ならどう撮影したら、どう売り出したらメイクが話題になるのか、どの関係者よりも分かるんじゃないの?」
常に仕事に私情を挟まない月山さんは凄い。
「……ええ、そうですね」
「よし。分かったなら、昼イチ行ってこい。ちゃんと前歯の青海苔、取ってから行けよ」
「青海苔なんか食べてません」
「はは……そーか」
女性にして対して、ちょっと、どこか冷めてるんだろーなって思った……。
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