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表面
しおりを挟むVirtueが若者に人気があるバンドであっても、まだ一般的には知られてない。
目立つヨシの姿に皆がざわつき始めた。
「背高いわね、モデルさんなの?」
「俳優さんだって聞いたけどね」
喪服を着用したヨシは、親族席には座らず他の
参列者と同じように御焼香をあげている。
「ヨシノリ!」
それを見た喪主の祖父が、突如、彼に向かって大きな声を発した。
お母さんの遺影を見つめていたヨシが、そのお祖父さんの方をゆっくりと見ている。
「なんて格好で現れるんだ?! その長い髪を切ってこいとあれだけ言っただろ?!」
場内が更にざわつく。
怒鳴るお祖父さんのヨシを見る目は、普通の孫を見る目とは違っているように感じた。
「おとうさん、こんな時にやめて」
隣に座っていたお祖母さんらしき女性が、お祖父さんをなだめていたけれど、
「のり子の最期にも来ないでチャラチャラと歌いやがって!!お前には親に対する情がないのかっ!」
罵倒を始めた祖父を鎮められる人はいなかった。
「……っ、なんて目で見やがるんだ?!お前はっ」
戸惑う参列者等お構いなしに、お祖父さんのヨシへの叱責は止まらない。
彼の胸ぐらを震える手で掴み、
「お前が、………お前のろくでなしの父親に孕まされてから、のり子の体調は、心臓は、悪くなっていったんだ………のり子は妊娠なんかしたらいけなかったんだ………」
子供に先立たれた悲しみを、月山さんの代わりにヨシにぶつけているようにも見えた。
「お前を見るたびに、アイツ見るようで辛かった……」
ヨシは、泣き崩れる祖父を、ただ、黙って見つめる。
「見ろよ、ヨシのあの冷めた顔………母親が亡くなったのにライヴ続行する辺り、本当の悪魔かもしれないな」
それを面白がる加納を心底軽蔑しながらも、私は見逃さなかった。
床に伏して泣くお祖父さんを、ただ、突っ立って眺めているように見えたヨシの手が、何かに耐えるように、小刻みに震えていたのを。
「祖父の発言、拾って騒ぎたてるマスコミもいるだろぁな」
人の悲しみなんて表面だけでは分からないのに。
彼の冷たい一面しか知らない人間は、非情にも彼の事を窮地に追い込んでいく。
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