美獣と眠る

光月海愛(こうつきみあ)

文字の大きさ
92 / 172

オーバー

しおりを挟む

 「加納さん、すごい! namboの仕事取ったんですか??」
 
 事務所の端から、加納を称える本山さん達の声が聞こえる。

 どうやら、加納は元々古巣だったゲームメーカーのライバル会社の仕事をプレゼンで勝ち取ったようだ。

「そう、元の会社にいた頃、namboの事よーく調べていたからね、どんな商品を作る予定なのか、それの売りは何なのかとか、代理店は広告を作るなら商品が売れるプロモーションをしないとダメなんだよ!KanedoのKシリーズみたいに惨敗したくないからさ」

 鼻高々で、女子社員達に自慢するその姿は本当にヘドが出る。


「そーいえば、最近、月山さん、めっきりこっちに顔を出さなくなったわね」

「商品売れなくて、クライアントのKanedoにこっぴどく叱られたって。その原因が月山さんの息子だとなるとねー……」

「もう終わった、って感じ?」

 アハハと笑っているのは、私と戸崎さん以外の女子だ。
 加納が不在の月山さんの席に座って仕事をしていることに違和感を持っていない。


「月山さんのアダ名、″ 歩く経常利益 ″ から、″ 歩く爆弾 ″ に変えてやろーぜ」

 加納に感化された営業マン達も、月山さんを侮辱していた。
 腹が立って震える。 

「後藤さん、ほうっておきなさいよ」

 そんな私を宥めるように、戸崎さんが私の机に飴玉をコロンと置いた。

「ありがとうございます……戸崎さんは平気なんですか?」


 月山さんを慕っていた戸崎さん。彼の居ない事務所は寂しくないのだろうか?

「何が? 」

「何がって、その……」

 始めは苦手だった過剰な大人の色香も、慣れてきたら強烈な個性のように思える。


「……確かに私は、有能な男性が大好きよ。でも。堕ちていく人は見たくないの……視野に入れない」

「え?」

「一昨日、研修のために本社に行ったら、月山さんの辞令が噂されてた」

「辞令?……」

 キーボードを触っていた手が止まる。


「あの人、左遷されるらしーわよ」

 たった、あれだけのことで?

「息子のせいよ」

「……戸籍上は、他人でも?」

「皆が認知してるから」

 ……世間は、本当に冷たい。
 
 ちょっとした過ちでも、徹底的に責めていく。

ヨシが、荒波にのまれてしまったように……。

ここにも溺れかけてる者がまた一人……。

 方舟は、もう定員オーバーだろうか?






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

6年分の遠回り~いまなら好きって言えるかも~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
私の身体を揺らす彼を、下から見ていた。 まさかあの彼と、こんな関係になるなんて思いもしない。 今日は同期飲み会だった。 後輩のミスで行けたのは本当に最後。 飲み足りないという私に彼は付き合ってくれた。 彼とは入社当時、部署は違ったが同じ仕事に携わっていた。 きっとあの頃のわたしは、彼が好きだったんだと思う。 けれど仕事で負けたくないなんて私のちっぽけなプライドのせいで、その一線は越えられなかった。 でも、あれから変わった私なら……。 ****** 2021/05/29 公開 ****** 表紙 いもこは妹pixivID:11163077

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

こじらせ女子の恋愛事情

あさの紅茶
恋愛
過去の恋愛の失敗を未だに引きずるこじらせアラサー女子の私、仁科真知(26) そんな私のことをずっと好きだったと言う同期の宗田優くん(26) いやいや、宗田くんには私なんかより、若くて可愛い可憐ちゃん(女子力高め)の方がお似合いだよ。 なんて自らまたこじらせる残念な私。 「俺はずっと好きだけど?」 「仁科の返事を待ってるんだよね」 宗田くんのまっすぐな瞳に耐えきれなくて逃げ出してしまった。 これ以上こじらせたくないから、神様どうか私に勇気をください。 ******************* この作品は、他のサイトにも掲載しています。

処理中です...