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オーバー

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 「加納さん、すごい! namboの仕事取ったんですか??」
 
 事務所の端から、加納を称える本山さん達の声が聞こえる。

 どうやら、加納は元々古巣だったゲームメーカーのライバル会社の仕事をプレゼンで勝ち取ったようだ。

「そう、元の会社にいた頃、namboの事よーく調べていたからね、どんな商品を作る予定なのか、それの売りは何なのかとか、代理店は広告を作るなら商品が売れるプロモーションをしないとダメなんだよ!KanedoのKシリーズみたいに惨敗したくないからさ」

 鼻高々で、女子社員達に自慢するその姿は本当にヘドが出る。


「そーいえば、最近、月山さん、めっきりこっちに顔を出さなくなったわね」

「商品売れなくて、クライアントのKanedoにこっぴどく叱られたって。その原因が月山さんの息子だとなるとねー……」

「もう終わった、って感じ?」

 アハハと笑っているのは、私と戸崎さん以外の女子だ。
 加納が不在の月山さんの席に座って仕事をしていることに違和感を持っていない。


「月山さんのアダ名、″ 歩く経常利益 ″ から、″ 歩く爆弾 ″ に変えてやろーぜ」

 加納に感化された営業マン達も、月山さんを侮辱していた。
 腹が立って震える。 

「後藤さん、ほうっておきなさいよ」

 そんな私を宥めるように、戸崎さんが私の机に飴玉をコロンと置いた。

「ありがとうございます……戸崎さんは平気なんですか?」


 月山さんを慕っていた戸崎さん。彼の居ない事務所は寂しくないのだろうか?

「何が? 」

「何がって、その……」

 始めは苦手だった過剰な大人の色香も、慣れてきたら強烈な個性のように思える。


「……確かに私は、有能な男性が大好きよ。でも。堕ちていく人は見たくないの……視野に入れない」

「え?」

「一昨日、研修のために本社に行ったら、月山さんの辞令が噂されてた」

「辞令?……」

 キーボードを触っていた手が止まる。


「あの人、左遷されるらしーわよ」

 たった、あれだけのことで?

「息子のせいよ」

「……戸籍上は、他人でも?」

「皆が認知してるから」

 ……世間は、本当に冷たい。
 
 ちょっとした過ちでも、徹底的に責めていく。

ヨシが、荒波にのまれてしまったように……。

ここにも溺れかけてる者がまた一人……。

 方舟は、もう定員オーバーだろうか?






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