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知る
しおりを挟む「こんな所に来て大丈夫?」
ここは、ライティングされた倉庫が美しく、東京ではかなり有名なデートスポットだ。( 恋愛経験ない私でも知っている )
平日とはいえ、夜のロマンチックな雰囲気を味わいに多くのカップルが訪れている。
ヨシは干されていても知名度がジワジワと上がってきていたミュージシャンだし、人目が気になるよ。
「このロン毛が目立つんだよな?」
車から降りたヨシは、いつのまにか手にしてた大きめのベレー帽をかぶり、中に髪の毛を押し込んでいた。
「どーだ?」
変装してまで、こんなベタな所に来たかったのだろうか?
「うーん……凄く後頭部が大きくて宇宙人みたい。逆に目立つかも」
「マジか」
「うん」
「じゃ、髪は後ろに束ねて帽子深く被っておくかな」
何をしても目立ってしまう、罪なほど美しい男に、やはり気が付いたカップルもいて……。
微妙に私と距離を置いて歩くヨシを、女性客が目を輝かせて見ていた。
「腹減ったな……」
着いていきなり、ヨシのお腹の虫が鳴り出し、人目も気にせずにレストランを探し始めた。
「お店、入るの?」
「お前だって腹減ってるだろ?」
「そりゃぁ、まぁ」
今日、誘われた時点で、人目を避けた密室 (車内 )デートだろうと思っていたので、こういう所に車を降りて訪れただけでも驚きだった。
「普通の店で女と飯食うのも悪くないかなって」
カップルや女性客が沢山いるレストランで、メニューを見てるヨシの顔は、とても穏やか。
「……今迄どんな所でご飯食べてたの?」
「女とは殆どない。前も言ったじゃん。女は俺の性欲を満たす為だけの生き物だったんだ。この間まで」
「……今は?」
「お前が男と色んな事を初めて体験するように、俺もお前と色んな事を初体験したくなったんだよ」
……あんなに荒々しかった獣に、こんな私が、多少なり影響を及ばしたのだとしたら、それはそれで凄い。
頼んだピザやパスタを、ヨシは、上品な顔立ちとは相応しくない程、豪快に頬張る。
とても美味しそうに食べている。
「……なんだよ? 見てるだけじゃなくて、お前も食えよ」
「あぁ、うん」
何だか子供みたいでカワイイ。
反して月山さんは、一度飲みに行った店で、やはり大人の食べ方、飲み方してたな。
話も肴にして、私を見つめて、ゆっくり食べてた。
「……」
やだ。
折角のデートなのに、未練たらしい。
「お前、にやついたり、ため息ついたり、食ってる時も落ち着きのない奴だな」
車で来たせいもあるけれど、お酒を飲まないヨシは、メロンソーダを飲んでいる。
「……何も知らないファンだった頃、ヨシって謎だらけで、食事はワインとチーズだけだと思ってたんだ。後はたまにキャビアを摘まんだりとか」
「どこの貴族だよ」
「そう、貴族、まさにそんなイメージで。家でも黒いドレスとか着て、薔薇の花に囲まれて、お風呂も薔薇の花弁いっぱい浮かべてるのかなって……」
「オカマかよ」
「そう思うくらい、本当に中性的で、はたから見たら不思議な存在だったの」
「……ふぅん、で。今は?」
「普通に子供っぽい男性だなぁって」
「俺のどこが子供なんだよ? 最後まで聞いて損したわ」
「あ、いい意味でね」
「うるせー」
知らない方が良かった部分かもしれないけれど、
「そろそろ、気づいた客がいるみたいだからここ出ようか?」
「え?」
「俺はいくら噂されてもそれが仕事みたいなもんだからいいけど、お前はそうじゃないじゃん」
「……う、うん」
近づかなければ感じなかった優しさを、知ることが出来て嬉しい。
「お前の傷、増やす訳にはいかないもんな」
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