美獣と眠る

光月海愛(こうつきみあ)

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もし

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「え?  私の傷?」

 精算を済ませたヨシが意味深な言葉を残した。
 
 気になりながらも、店を出て足早に歩き出すその背中に付いていくのに必死だった。

「おっとー、噂通りだな、カップルがフツーにちゅーしてやがる」

 横浜赤レンガ倉庫、一般人でも、芸能人でもキスをするデートスポット。

 人目を気にせずに、抱き合ったり、キスしたりするカップルがあちこちに目についた。


「戦争も災害にも負けなかった建物のそばだと、人目とかどうでも良くなるんだろぉな」

  幸せに満ち溢れた男女を、サングラスの奥から見つめる瞳は……。
 以前のように人をバカにしたような色じゃなかった。
 そう、なんか見守るような……。


「うん、壮大な感じするもんね、このレンガの倉庫、夜だと余計……」

 この人、お母さんの死で、成長したんだな、と思った。……ドタキャンは例外だけれど。

「俺らもする?」

「はい?」

ヨシが振り返って、恥ずかしげもなく聞いてきた。

「……な」

 今さら何聞いてきてるの? 何回も何回も強引にキスしてきたじゃない。

「今さらって、思っただろ?」

 ええ、ズバリ。
 私は、強めに頷く。

「俺もそう思う。だけど、これからは、相手からも求められてしたい」

 
 相手……。

「私から?」

「そう」

 そうって。私からキスとか高難度すぎる。

「こ、こんな所で出来るわけないじゃない」

 声が、裏返った。

 おまけに、さっきから、若い女性が何人かあなたを遠巻きで見て、目を輝かせてるのよ?


「建物の裏に死角があるんだってさ」

  死角?

「行ってみよう」

 ヨシは、私の腕を取り、颯爽と裏の方へと向かっていく。

「ヨシ……」

どうしたの? 

 ロマンチックな夜景と赤レンガで脳内メルヘン、いや、恋愛一色になっちゃったの?

 もう支配する気も失せたはずの私に、こんなに甘いのはなぜ?

「これか、死角……」

 壁にある、一メートルにも満たない突起部分の裏側は、確かに通る人からは見えない。


  そこに隠れるようにヨシが、私を抱き締める。

 建物の横を夜風が吹いて、一瞬身震いすると、さらにその力を強めてきた。

「あんたの ″ 初めて″ の全部が欲しい」

 そう囁かれて、

「まだそんな事……」

 一瞬、頭の中を、加納の顔が過ったけれど……、

「身体のことだけじゃない」

 私の顔を見つめるヨシの顔が優しくて、それとは全く違うことを物語っている。


「ケガ、残んなくて良かったな。……マジであのバカにヤられなくて良かった」

「……え」

 ヨシは、加納に襲われそうになったこと、知っていたから心配してくれていたんだ。
  
「俺がVirtueのボーカルでもなく、月山 理の息子でもなんでもなかったら、あんたは、俺にキスができるか?」
























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