美獣と眠る

光月海愛(こうつきみあ)

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悲鳴 覚悟

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 まさかまさかのよく知らないオッサンとのキス。
周りの女子社員から、

「キャアァァァァ″″」と悲鳴が聞こえてきた。

 ライヴの時に、ファンがあげるような歓喜の悲鳴ではないほうだ……。
  私の嫌いなニンニクとお酒が混じった口臭と、にゅるっとした厚い弾力が、唇全体を覆ってきた。

 な、

「何すんのよっ!??」

 ドン!!と、酔った課長を思い切り突飛ばし、周りから再び悲鳴と笑い声が聞こえて、唇を拭いながら、アハハハ! と豪快に腹を抱える加納を思い切り睨み付けた。

 タコ課長は、そのまま寄ってきた本山さんのお膝元に倒れて起き上がらない。

 ハッ!と気付いた時には、上座で飲んでいた月山さんが、怖い顔をして立ち上がっていた。

 マズイ。
 このままじゃ、月山さんが皆の前でタコ課長を殴ってしまう。

 私は、とっさにビールの入ったコップを手に取り、

「ひっ!!な、な、な、に」

 ゆで上がったタコに、ドボドホとそれをかけてしまう。

 「な、なんちゅーことすんだよっー! このアマーっ!!!」

 びしょ濡れになったタコ課長の頭に、ワカメみたいな髪がへばりついてて、起き上がった課長を見てた上層部達も笑っていた。

「ワハハ!  課長から先に手を出したんですからお互いさまですよー!」

 自分が吹っ掛けた癖に、課長をなだめるゲス加納。

 その背後で、ため息をついて、自分の席に戻る月山さんの姿が見えた。

 セーフだった、我ながらナイスな行動だった。


「二次会移動しますよー、皆サーん、会計済むまで外で待っててくださーい」

 飯田くんの誘導の声が聞こえて、先に失礼することを伝えようとしたら、

 Ririririri

ヨシから電話が掛かってきた。
一次会のあと、会う約束をしていたからだ。

「迎えに行く、店どのへん?」

電話のヨシは優しい。

「だ、大丈夫! まだ会社の人間がゴロゴロしてるから、色々面倒だし、駅までは歩くよ」

 ヨシが現れて、それを上層部にでも見られたら大変なことになる。

 月山さんはいるし、ドタキャン騒動で、うちの会社にも影響出てこの事態だし、何より、加納のアホが飲み会に参加しちゃってるから、ヨシと鉢合わせすれば、トラブルになることは目に見えている。

「あ、そ。じゃ、駅着く頃に向かうわ」

 ブツッ!

 電話が切れて、何となくホッ……。

 ヨシと向き合うつもりで、自らキスもしたのに……。
また、月山さんに心を揺れ動かされて……。
 キスまでしちゃって……。

 だから、今日こそ、ハッキリと自分の気持ちを確かめようと決めたじゃないの。
なのに、何で、びびってんのよ?

――店の外はかなり寒かった。もう冬だもんね。思わず上着のポッケに手を突っ込む。
 

「あ……飴玉……」

 ポケットの中に、戸崎さんから貰った飴玉が2つ入っているのに気づいた。

″ 味見してみたら?″

 ええ、そのつもりでヨシに会う気だった。

 抱かれたら、100%、ヨシに気持ちが傾くかもしれない。

 そう、期待して。


「えー、後藤さん、帰っちゃうのぉぉ?」

 酔っぱらった本山さんが、私なんかどうでもいいくせに、やけに絡んでくる。

「月山さん、もう九州に行っちゃうのよ~! あなた、彼の事、好きだったでしょ~! 薄情よ、ちゃんと最後まで付き合いなさいよ~!」

 余計な事を。

 自分だって月山さんのこと気になってたくせに、少し若い加納が来て目移りしちゃったでしょ?

「あー、私の代わりに本山さんが最後まで付き合ってくださいよー」

 居酒屋前で、次々とタクシーに乗り込む上層部、その中には月山さんの姿も。

「ほら、戸崎! 主役は先に着いてないと!」

 自身も主役の加納が、珍しく戸崎さんを嬉しそうに呼んでいた。

 年上に興味がないと言っていたけれど、皆にお酒を飲まされて、さらに色っぽくなった彼女に対し下心があるのが明らかだった。


「お気遣いなくー、女子組でタクシーに乗りますから~」

 お色気たっぷりでも、見た目ほど男に媚びたり安売りしたりしないのが戸崎さんだ。


「後藤さん、次のタクシーで行くわよ」














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