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長崎へ
しおりを挟む直ぐに月山さんに報告したい衝動にかられたけれど、その思いは、自分の足元を見て思い止まる。
庶務での課長の仕打ちを心配して、頭を下げてくれて、おでこにケガまでさせてしまって……。
″ 元気でな ″
″ 異動先で辛いことがあったら俺に言えよ ″
まだ、企画書も出来てもいないし成功もしていない。
そうだ。
吉報は、月山さんが九州に行ってからでも出来る。
また、熱くなりそうな目元に押さえて、戸崎さんとともにイメージの素材を探した。
「えーー?! 後藤さんたち、オランダに行くのー?!」
本山さんたちの羨やむ声が、廊下まで聞こえていたようで、出掛けようとした営業マンが再び中を覗いていた。
「あ、違います。長崎のハウステンボスです」
「チューリップってまだ咲いてないでしょ?」
「あ、なので、静止画の建物だけの前撮りです」
期限内に提出した″k″シリーズの企画書が通り、急ピッチで進んだ打合せ。
春のチューリップと、オランダの貴族をしっかり取材、撮影するために私達もそれに同行することになった。
勿論、メインキャラクターのヨシも行く。
その日は、奇しくも、月山さんが福岡に移動する日だった。
――――
「Twitterでヨシがあんたとハウステンボスで挙式するってメッチャ噂になってるんだけどっ!」
CM制作の準備が着々と進む中で、寧々がまた、そんなガセネタを電話で教えてくれた。
「なんでそうなるの?」
「元々バンギャの間では、あんたはヨシを独り占めした悪質なファンとしてリストに上がってたらしいのよ!それ、私は見たことないけど」
「うーん……それ、前も聞いたけど。何も危害なかったよ」
「Virtue自体が活動休止してたから、ライヴで出くわす事もなかったからだよ!」
そうだ。なので、最近は自分がバンギャだったことも忘れていた。
「でも、なんで急に結婚なの?」
「ヨシ作詞作曲の初のLOVEソングがシングルで先行発売決まったからじゃないのぉ?」
ズキン……と、また胸が傷む。
「凄いいい曲だから、絶対売れるよね。だから余計にファンの間では、誰のために作った曲なんだって騒がれてるわけよ、そこに長崎に女と行くって情報が舞い込んできたものだからさ」
″…皆から好かれるバンドは目指してないけどな ″
″ この曲……。俺は、お前にだけ認めてもらえれば良かったんだ ″
ヨシが大切にしてくれたもの、私の身体だけじゃなかったのに……。
″お前はやっぱり汚い ″
私は、ヨシの心を傷つけちゃったんだ。
初めてを奪われたのは、その報い。
ヨシと顔を合わす事を思えば、長崎への出張は気が咎めたけれど、
「本当に仕事だけなんでしょうね? こっそり電撃結婚なんてしないでよっ」
「しないよー、同僚も一緒だし」
庶務での惨めな仕事から抜け出せるチャンスには間違いなくて、何が何でも同行するつもりでいた。
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