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不足
しおりを挟む外から聞こえてきた救急車のサイレン。
それに気付き、目を覚ますと、私は病院の処置室みたいなところに寝かされていた。
だけど、そこは私1人じゃなくて、ヨシを追いかけてきたバンギャの女の子も寝かされていた。
点滴をして眠っているけれど、命に別状はなさそうだ。
「輸血準備出来ました!」「外科の池田先生呼んで!」
パタパタと慌ただしく走る看護師さんを呼び止める。
「あ、……あのっ」
「あ。あなた、目を覚ましたのね? 頭打って脳震盪になったけど、心配なら後でMRI撮ってもらうといいわ」
心配なのは、私じゃない。
「……さっき、輸血って?」
絶対に月山さんだと思った。
あんなに血を流していたもの。
目に焼き付いた血の海を思いだす。
「39才 の男性、あなた、知り合いだった? エスカレーター転落に巻き込まれた男性」
「知り合いです。 危ないんですか?」
イヤな予感しかしない。
看護師の口から出る言葉を待っている間にも、心臓が破裂しそうだった。
「今、輸血しながらの手術中よ。だけど、それでも足らないかもしれなくて……」
「えっ」
血が足りないとか、現実あるんだろうか?
ここ、救急病院なら輸血用の血液あるんじゃないの? 常に血液が回ってきてるんじゃないの?
看護師さんが答えてくれた。
「他にも同じ血液型のガン患者の輸血治療が行われてて、本当にたまたまなんだけど……」
「じゃ、私の血を使ってください」
月山さんの血液型なんて知らないけれど。今の医療なら、なんとかなるんじゃないのかと思った。
「とりあえず、今用意されてるものでやってますから、あなたは安静にしてて待ってて」
私の不安は消されることのないまま、看護師は出ていってしまった。
しかし、待っててと言われて、待てるわけない。
看護師が出ていった後を追って、月山さんの手術が行われているところへ向かう。
「後藤さん!」
廊下に戸崎さんがいた。
「歩いて大丈夫なの?」
「はい、私は大丈夫です」
そういえば、長崎のロケはどうなったんだろう?
ヨシも落ちたのだから延期になったとは思うけど。
そんなことより、
「ヨシ……は? 」
記憶が途切れた私は、月山さんと一緒に血だらけになったヨシしか覚えてない。
「彼なら、あっち」
戸崎さんが指さした方は、手術室だった。
「血が足らないなら俺の使えよ! 俺は正真正銘のあいつの息子で同じA型だから!」
手術室から出てきた関係者を捕まえて訴えていた。
「さっきも言わせてもらいましたけど、むしろ血縁者の輸血はお断りしてるんですよ」
「意味わかんね! 他人の血液より息子の血液だろーが」
「違うんですよ、今は医学が進歩して、血縁者間の輸血の方がリスクが高いことが分かったんで……」
「医学が進歩してんなら、血が足らない位なんとかしろ! 人工的に作り出せ!」
「何むちゃくちゃなこと言ってるんだアンタ」
「ヨシっ!!」
血で汚れてしまった服のまま、必死に訴えているヨシの袖を掴む。
「……晶……」
私の顔を見て直ぐに申し訳なさそうな顔をした。
「巻き込んで悪い……」
へたっと床に座り込んでしまう。
「……俺は、とことん疫病神なのかもしれない」
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